売上は順調でお店は繁盛しているはずなのになぜか月末には資金繰りが厳しい…。そんな悩みを抱える店舗経営者の方は少なくありません。それは「お金の管理方法」に原因があるのかもしれません。店舗の資金繰りを劇的に改善し、手元にしっかりとお金を残すための6つのポイントを解説。
水野剛志著「飲食店経営で成功するための「お金」のことがわかる本」(日本実業出版社)を参考として。
【ポイント1】現金の流れを見える化し、どんぶり勘定から脱却する
”売上に対して、どうもレジのお金が合わない”・”つい店のレジから経費や生活費を出してしまう”。
こうした現金のどんぶり勘定は、資金繰りを不透明にする最大の原因となってしまいます。
悪意のない釣り銭ミスや、内部での不正、盗難といったリスクも抱えています。
健全な経営の第一歩は、日々の現金を正確に管理する仕組みを作ることから始まります。
解決策:現金を3種類に「色分け」して管理する
店舗で扱う現金は、目的別に以下の3種類に明確に分けて管理しましょう。それぞれの現金の役割とルールを徹底することが重要です。
現金の種類 | 役割と管理ルール |
---|---|
① レジ現金 | お釣り用の現金。 常に一定額を保ち、他の現金と混ぜないようにします。 |
② 売上現金 | その日の現金売上。 営業終了後、レジ現金とは分けて保管し、全額を銀行に入金します。 |
③ 小口現金 | 日々の経費支払い用の現金。 売上現金から直接使わず、銀行口座から引き出して補充します。 |
なぜ分ける必要があるのか?
最大の理由は、「あるべき残高」と「実際の残高」を常に一致させ、お金の流れをシンプルにするためです。
例えば、経費の支払いを「売上現金」から直接行ってしまうと、その日の正しい売上額が分からなくなり、現金が不足した際に「なぜ足りないのか」の原因を追跡することが困難になります。
ルールを徹底することで、万が一現金に過不足が出た場合でも、どの現金で問題が起きたのかをすぐに把握できるようになります。
【ポイント2】目的別に通帳を分けて、お金の流れを整える
”通帳をいくつも作りすぎて、どの経費がどの口座から支払われているか分からない”。
このような状態では、業者への支払い漏れや二重払いが発生し、信頼関係を損なう原因となりかねません。
また、残高不足による引き落としエラーを繰り返してしまうと、金融機関からの信用を失い、将来の融資審査に悪影響を及ぼす危険性もあります。
解決策:通帳を3つの用途別に使い分ける
お金の流れを確実に管理するためには、通帳を用途別に以下の3種類に分けて、それぞれにルールを決めて運用したほうがよいと考えられます。
- 店舗専用通帳
毎日の売上現金の入金や、小口現金の引き出しに使います。入金は毎日発生することが多いため、店舗から近い銀行の通帳が便利です。 - 本部用通帳
材料費、人件費、家賃、水道光熱費といった、経費の支払いをこの通帳に一括します。お金の出口を一つにまとめることで、支払い漏れや使途不明金の発生を防ぎます。振込手数料を抑えられるネット銀行の活用も有効です。 - 積立用通帳
消費税の納税など、将来発生する大きな支出に備えるための通帳です。毎月決まった額を積み立てる習慣をつけましょう。まずは「月商の1ヶ月分」を目標に貯蓄することで、金融機関からの評価も高まります。この通帳は、将来融資を受けたいメインバンクで作成するのが効果的です。
【ポイント3】売上を分解して分析し、打つべき一手を見つける
”最近、売上が下がり気味だが、何から手をつけていいか分からない”
その原因は、毎日の売上を「合計金額」だけで把握していることにあるかもしれません。
売上アップに向けた取り組みは、お店の現状を正しく把握することから始まります。
解決策:売上を「構成要素」に分解して管理する
お店の営業状況を正しく知るためには、売上を様々な角度から分解して記録し、分析する必要があります。
- 営業形態
ランチとディナーでは客層も単価も異なります。「ランチ売上」「ディナー売上」と区別して管理しましょう。 - 客数と客単価
「売上 = 客数 × 客単価」です。売上金額だけでなく、客数と客単価も分けて記録することが、販売促進を考える上で不可欠です。 - 外的要因
売上は曜日や天気にも影響されます。これらの情報もあわせて記録することで、より精度の高い分析が可能になります。
このように売上を分解することで、「平日のディナーの客単価が落ちている」といった具体的な課題が明確になり、平日限定の新メニュー開発など、的確な対策を立てられるようになります。
【ポイント4】入金サイクルを速め、キャッシュフローを改善する
客単価の高いお店ほど、クレジットカード決済の割合が高くなる傾向にあります。
もし、カード売上の入金が月に2回しかない場合、売上が増えるほど手元の現金が不足し、資金繰りが厳しくなってしまいます。
解決策:最短翌日入金の「モバイル決済サービス」を導入する
「Square」に代表されるモバイル決済サービスを導入することで解決できます。
モバイル決済サービスの強み | 詳細 |
---|---|
① 入金サイクルが速い | 最短で売上の翌々日に指定口座へ入金されるため、現金売上とほぼ同じ感覚で資金を管理できます。 |
② 決済手数料が安い | 手数料は3.24%~と従来の決済端末と比較して安価に設定されていることが多いです。 |
iPadやスマートフォンにアプリを導入するだけで始められ、初期費用もほとんどかからないため、お客様に不便をかけることもなく資金繰りの悩みを解決できる有効な手段です。
【ポイント5】原価管理を徹底し、利益の漏れを防ぐ
”売上は好調なのに、なぜか手元にお金が残らない”
その場合、気づかないうちに原価率が上昇している可能性があります。
原価は売上が増えると同時に増えていく「変動費」であるため、管理が甘いと利益を大きく圧迫してしまいます。
解決策:原因を「3つの工程」に分けて分析する
原価率が高くなる原因は、「①仕入」「②調理」「③販売」のいずれかの工程に潜んでいます。
どこに問題があるかを見極め、的確な対策を打つことが重要です。
工程 | 原価率が高くなる原因の例 | 改善策の例 |
---|---|---|
① 仕入工程 | ・いつの間にか仕入価格が上がっている。 | ・仕入業者を見直す、価格交渉を行う。 |
② 調理工程 | ・レシピ以上の食材を使いすぎている。 ・食材を使い切れず、廃棄が多い。 | ・メニューごとのレシピを徹底する。 ・在庫管理を徹底し、先入れ先出しを守る。 |
③ 販売工程 | ・商品の値付けが低すぎる。 ・原価率の高い商品ばかり売れている。 | ・値付けを見直す。 ・利益の取れる商品を注文してもらえるようメニュー等を工夫する。 |
【ポイント6】人件費を「時間」で管理し、生産性を向上させる
人件費は、原価と並んで経営を圧迫しやすい大きな経費です。
店長に「人件費率を下げて」と指示しても、なかなか改善されないケースは少なくありません。
解決策:人件費を「率」ではなく「時間」で伝える
現場のスタッフに人件費を管理してもらうには、より具体的で分かりやすい指標を使う必要があります。
- 伝え方の工夫
「率」から「時間」へ「人件費率を3%下げて」と言う代わりに、「現状、目標より総労働時間が月150時間多い。これは1日5時間、1人あたり1時間分に相当するから、その分労働時間を削減してほしい」といったように、具体的な行動レベルまで落とし込んで伝えることが重要です。 - 新しい指標
「人時売上高」の活用「人時売上高」とは、スタッフ1人が1時間あたりにどれだけ売上を上げたかを示す指標で、その日の売上 ÷ 全スタッフの総労働時間で計算できます。中小規模の店舗なら、まず4千円台を目標にすると良いでしょう。この指標を使えば、目標売上に対して必要な総労働時間を算出できるため、シフト作成時に役立ちます。
具体的な指標を共有することで、スタッフに人件費管理の意識が芽生え、主体的な改善が期待できます。