会社の資金繰りや事業拡大のために銀行融資は不可欠な選択肢です。その審査で最も重視される「決算書」について、銀行がどこをどう評価しているかについての7つの着眼点について。
諸留誕著「銀行融資を引き出す仕訳90」(日本法令)を参考にして。
融資審査の前提!銀行が評価する決算書の2大原則
決算書の具体的な数字を見る前に、まず銀行がどのような「考え方」で決算書を評価しているのか。
銀行が評価する決算書には、大きく分けて2つの共通点があります。
原則1:会社の「利益」が正しく示されている
銀行が融資審査で最も重視するのは、なんといっても「利益」です。
なぜなら、銀行は「利益=返済の原資(返済財源)」と考えるためです。
利益が大きければ大きいほど、返済能力が高いと評価され、融資は受けやすくなります。
特に、近年は金利が上昇傾向にあり、銀行の融資審査は厳しさを増しているといわれています。
- 金利が上昇 → 企業の返済負担が増える
- 返済負担の増加 → 返済が滞る企業が増えるリスク
- 銀行のリスク回避 → 貸し倒れを防ぐため、融資審査をより厳格化する
このような状況下で、これまで以上に利益の重要性が高まります。
原則2:決算書の「透明性」が高い
もう一つの原則は、決算書の「透明性」です。
銀行は、その決算書が会社の事業実態を誠実に反映しているかを注視しています。
透明性が低い、つまり内容が不透明で信頼性に欠ける決算書では、銀行も安心して融資をすることができません。
決算書の透明性が低いと判断された場合、以下のようなデメリットが生じます。
- 融資そのものを受けにくくなる
- 融資が受けられても、金利が高くなったり担保や保証を厳しく求められたりするなど、不利な条件になる
日々の取引を正確に会計処理できる環境を整え、誰が見ても事業の実態がクリアに分かる決算書を作成することが、銀行との信頼関係の第一歩となります。
評価を考えるときの7つの着眼点
銀行は、会社の決算書をどのような視点で評価しているのか。
7つの着眼点で自社の決算書を読み解けば、銀行からの評価を予測し、日頃何に気をつければよいかを知ることが可能になります。
1. 平均月商:すべての基本となる”モノサシ”
まず銀行員が最初に確認するのが「平均月商」です。
これは会社の事業規模を測る基本的な”モノサシ”であり、この後の指標を評価する上での基準となります。
「平均月商」 = 「損益計算書の売上高」 ÷ 「12か月」
指標で「〇か月分」という表現が出てきますが、それは全てこの平均月商を基準にしています。
まずは自社の平均月商を正確に把握しておきましょう。
2. 最終利益:返済能力の最も重要な源泉
銀行は「利益=返済財源」と見ているため、最終利益である「当期純利益」の額は極めて重要です。
黒字であることはもちろん、その金額が大きければ大きいほど返済能力が高いと評価されます。
3. 役員報酬:利益の”実質的な価値”を測る指標
銀行は最終利益の額だけでなく、社長や役員の「役員報酬」の額も必ず確認します。
なぜなら、特に中小企業(オーナー企業)では、役員報酬の額によって利益の額が大きく変動し、利益の実質的な価値が変わってくるからです。
銀行は以下のように考えます。
- ケースA:
最終利益100万円の赤字、役員報酬2,000万円
→社長の生活費として1,000万円もあれば十分だと仮定すれば、実質的には「900万円の黒字」の会社だと評価できる。 - ケースB:
最終利益100万円の黒字、役員報酬200万円
→社長の生活費として最低400万円は必要だと仮定すれば、実質的には「100万円の赤字」の会社だと評価される。
このように、中小企業(オーナー企業)の場合は、最終利益と役員報酬はセットで見ることで、会社の本当の収益力が見えてくるのです。
4. 預金水準:会社の”体力”・”安全性”を示す鏡
貸借対照表の「現金預金」の残高は、会社の体力を示す重要な指標です。
銀行は預金残高を平均月商と比較する「預金月商倍率」を用いて、会社の安全性を評価します。
「預金月商倍率」 = 「貸借対照表の預金残高」 ÷ 「平均月商」
【預金月商倍率の目安】
| 預金月商倍率 | 安全性の評価 |
|---|---|
| ~1か月分 | とても危険 |
| 1か月分~2か月分 | やや危険 |
| 2か月分~6か月分 | おおむね安全 |
| 6か月分~ | かなり安全 |
スムーズな融資を目指すのであれば、平均月商の2か月分以上の預金を常に維持することが、一つの目標となります。
5. 純資産:会社の”安定性”の証明
貸借対照表の「純資産の部」は、会社の財産的な安定性を示します。
まず、純資産がマイナス(債務超過)になっていないかを確認されます。
債務超過の場合、3年以内に解消できる見込みを経営改善計画などで示さなければ、融資は極めて困難です。
債務超過でなくとも、純資産の額が小さいと少しの赤字ですぐに債務超過に陥る可能性があるため、銀行は不安を感じます。
毎年の利益を内部留保として積み上げ、純資産を厚くしていくことが、銀行からの信頼につながります。
6. 借入金:借入の”健全性”を測る2つの指標
銀行からの借入金が、会社の規模や返済能力に見合っているか。銀行はこれを2つの指標でチェックしています。
借入金月商倍率
借入金の総額が平均月商の何か月分あるかを見る簡易的な指標です。
- 計算式:「借入金月商倍率」=「銀行借入の合計額」÷「平均月商」
- 目安:3か月未満であれば「おおむね正常」、6か月を超えると「借入が多い」と見られる傾向があります。
債務償還年数
より実態に近い返済能力を測る指標で、銀行が非常に重視します。
「今の返済能力で、実質的な借入金を何年で完済できるか」を示します。
- 計算式:「債務償還年数」=(銀行借入の合計額−現金預金)÷(当期純利益+減価償却費)
- 目安:多くの銀行が「10年以内が正常」と見ており、これを超えると「借入が過大」と評価されます。
7. 経常運転資金:事業の”日常的な健全性”
経常運転資金とは、商品を仕入れてから販売し、その代金を回収するまでの間、一時的に必要となる立替資金のことです。
「経常運転資金」 = 売上債権 + 棚卸資産 − 仕入債務
銀行はこの経常運転資金の額と銀行借入の総額を比較します。
売掛金や在庫については、粉飾決算に使われやすい科目であるということもあり、銀行は経常運転資金の推移を注意深く見ています。
特に、”売上は減っているのに経常運転資金は増えている”といった不自然な動きは、疑われる危険なサインです。
決算書を会社の「武器」にする
近年、金融庁は銀行に対し”決算書だけで判断せず、事業の将来性も評価して融資を検討するように”と促しています(事業性評価融資)。
たしかに、決算書だけではその会社の事業内容や将来性といった”商売の良し悪し”までは分かりません。
将来的には、決算書が融資判断に占めるウエイトは少しずつ下がっていくかもしれません。
とはいえ、だからといって決算書の重要性がなくなるわけでは決してないといえます。
事業の将来性を測る上でも、過去の実績が凝縮された決算書は、極めて重要な情報であり続けるからです。
銀行が事業性評価に習熟するにはまだ時間がかかることを考えても、”決算書だけではない。しかしまずは決算書から”というのが、融資を取り巻く揺るぎない現状であるといえます。
銀行融資を有利に進めるための第一歩として、上記の7つの着眼点で自社の決算書を客観的に分析し、「自社の強みはどこか」「課題はどこか」を自身の言葉で銀行に説明できるようになることであると考えられます。
一つひとつの取引を正しく経理処理していくことこそが、銀行からの評価を高め会社の未来を切り拓くための最も確実な投資となります。
