AI技術が進化する現代、情報の整理や定型的な判断といった「中流」の仕事はAIへと任されつつあります。ただ、AIには学習できない「文脈(コンテクスト)」を読み解き、感情を動かす「体験(クオリア)」を設計することは、人間にしかできません。知識労働者が作業者から脱却し、AI時代に不可欠な”村の長老”的存在へと進化すべしとする、深津貴之さんの言葉から考えたこと。
「情報の伝達者」から、「体験と文脈の設計者」へ
これまでのホワイトカラーの価値は、専門知識を正確に伝えることにありました。
しかしながら、単なる知識の検索や出力はAIが最も得意とする領域であり、これからの私たちが目指すべきは、数字やデータを”腹落ちする物語”へと変換する「体験(クオリア)の設計」と、その背景にある「文脈(コンテクスト)の理解」ということになります。
具体的には、以下の2つのスキルセットへのシフトが必要であると考えられます。
1. 「クオリア」の提供→納得感のデザイン
単にレポートや分析結果を渡すのではなく、相手が「なるほど!」と膝を打つ瞬間(体験)をどう作るかが重要であると考えられます。
- ストーリーテリング
難解な業界データを、身近な例え話に変換したりするなど、物語として語る。 - 場の共有
オンラインだけでなく、重要な局面では対面で会い、食事を共にしながら語ったりする。”あの時、あの場所で語り合った”という記憶そのものを価値化する。
2. 「スーパーコンテクスト」の確立→村の長老になる
AIはデータ上の事実は知っていても、”なぜそうなったのか”という「過去の細かな経緯」や、「人間関係の機微」といった”暗黙知”は学習できません。
”社内や業界の長老”のように、「このプロジェクトの裏には、実はこんな創業者の想いがあったのだ」「あの取引先とは、こういう歴史的背景があったのだ」といった固有の文脈(ハイコンテクスト)を語れる人の希少性こそが今後ますます高まります。
AIを最強の相棒にしつつ、”人間くさいつながり”を武器にする
「村の長老」としての地位を確立するためには、人間特有の「社会資本(ソーシャルキャピタル)」を強化する必要があります。
まずは、業務において、人間とAIの役割を再考します。
| 役割 | AIの担当領域 | 人間の担当領域 |
|---|---|---|
| データ処理 | ・膨大なデータの整理 ・異常値の検知 ・下書き作成 | ・データの背景にある「意味」の解釈 ・最終的な意思決定 |
| 関係構築 | 効率的なスケジューリング、リマインド | 食事や趣味を介した、深い情緒的信頼関係の構築 |
| 解決策 | 過去のパターンに基づいた最適解の提示 | 前例のない課題に対する「問い」の設定 |
重要なのは、アナログな人間関係の構築です。
デジタルで効率化できる部分はAIに任せ、浮いた時間を使って「重要な相手と食事を共にする」「リアルな勉強会を主催する」といった、身体性を伴う活動に注力すべきであると考えられます。
「あなたになんとなく聞けば、全体的な具体的解決につながる」というハブ機能は、AI時代におけるセーフティネットとなります。
スマイルカーブの両端へ
ビジネスには「スマイルカーブ」という理論があります。
AI時代、付加価値が高いのは「上流(企画・開発・戦略)」と「下流(顧客接点・アフターサービス)」となってきて、その中間にある「中流(製造・加工・事務処理)」の価値は低下しやすいという傾向が見えてきています。
つまり、私たちは今、岐路に立たされているともいえます。
- 「上流」へ行く: AIを活用して戦略を練り、新しいビジネスや価値観を創造する「演出家」になる。
- 「下流」を深める: 顧客の感情に寄り添い、AIにはできない細やかなケアやメンタリングを行う「伴走者」になる。
- 「中流」に留まる: AIとコスト競争をする(これは避けたい道)。
例えば、経理担当なら”AI経理翻訳家”になる道がありますし、営業なら「顧客成功演出家」になる道があります。
AIが「答え」を出す時代だからこそ、私たちは「問い」を立て、「文脈」を紡ぎ、人間らしい「体験」を提供する新しい職業へと、自分自身を再定義していくべきと考えられます。
これからの数年は、「何を守り、何をAIに任せ、何を新しく創るか」を探求するプロセスそのものが、最大の仕事になると考えられ、積極的に、自分だけの「上流」と「下流」を開拓していきたいものです。
