銀行融資につながる決算書の作り方|資産の部で銀行評価を高めるチェックポイント①

銀行融資を検討する際、「資産の部」は、会社の財政状態を示す重要な部分であり、銀行もよく見るポイントです。

諸留誕著「銀行融資を引き出す仕訳90」(日本法令)を参考にして。

目次

銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”

決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。

銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。

目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。

逆に、一見ネガティブに見える損失の計上であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。

銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に資産の部の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか。

現金

会社の資産の基本である「現金」ですが、その管理方法一つで銀行からの見方は大きく変わります。

現金残高はなぜ少ない方が良いのか

決算書や試算表の現金残高が不自然に多いと、銀行は疑念を抱きます。

  • 公私混同の疑い: 社長が会社の現金を個人の財布と混同し、自由に使っているのではないか。
  • 粉飾決算の疑い: 利益を多く見せるため、現金払いの経費を計上していないのではないか。

このような疑念を持たれると、銀行は帳簿上の現金が実際には会社に戻ってこない「価値のない資産」と捉え、その分だけ資産評価を減額することがあります。

結果として純資産が減り、銀行からの評価も下がってしまいます。

対策はシンプルで、日々の現金売上などで手元に現金が増えた場合は、できるだけ速やかに銀行口座へ預け入れることであるといえます。

通帳に記録が残ることで、売上の裏付けとなり、銀行の安心材料にもなります。

また、経費の支払いも現金払いは避け、可能な限り銀行振込を選択するのが賢明です。

現金払いは資金繰りを悪化させるだけでなく、振込取引を増やすことによって銀行との関係性が良好になることが期待できます。

預金

現金と同様に重要な「預金」ですが、特に「定期預金」の預け先には注意が必要です。

定期預金の預け先に潜むワナ

融資を受けている銀行に定期預金を作成すると、その預金は実質的に「担保」のような扱いになります。

万が一、会社の返済が滞った際に、銀行は融資残高と定期預金を相殺できるからです。

一方で、いざ会社が資金繰りのために解約したくても、銀行から引き止めにあってしまい、結果として自由に動かせない”死に金”になってしまうリスクもあります。

定期預金を作る際には、いざというときの資金繰りのことを考えると、「融資を受けていない銀行」か「今後も融資を受ける予定がない銀行」を選ぶほうがよいかもしれません。

売掛金

取引先の信用度や販売戦略が表れる「売掛金」も、銀行からの評価に直結します。

回収不能な売掛金は「貸倒損失」に

取引先の倒産などで回収不能になった売掛金を、決算書に資産として残し続けるのはよくないといえます。

銀行は、過去数期分の勘定科目内訳明細書を比較し、長期間残高に変動のない売掛金を見つけ出すことで、滞留していることに気づきます。

滞留が発覚すれば、決算書そのものの信頼性が失われ、今後の融資は絶望的になります。

回収が難しいと判断した売掛金は、「貸倒損失」処理することを検討します。

仮に税務上は損金として認められなくとも、会計上で損失を計上する(&税務上は別表加算)ことで、銀行には「利益に自信がある会社」「将来のリスクを前倒しで処理できる管理能力のある会社」という好印象を与えることができます。

「売掛金は早く回収すべき」とは限らない

一般的に「売掛金は早く回収する方が良い」と言われますが、必ずしもそうとは限りません。

回収を急ぐあまり、取引先の資金繰りを圧迫してしまうと、顧客離れを招く恐れがあります。

むしろ、事業が好調で売上が伸びた結果として売掛金が増加しているのであれば、銀行からの評価は高まります。

事業の成長性を示す指標として、新たな融資の根拠にもなり得るのです。

棚卸資産

製造業や小売業など、在庫を抱えるビジネスにおいて「棚卸資産」の管理は極めて重要です。

評価損・廃棄損の計上が評価を上げる理由

長期間売れ残っている商品や、陳腐化・劣化した在庫は、帳簿上の価値よりも実際の価値が低くなっています。

このような場合、その価値の減少分を「棚卸資産評価損」として計上することが推奨されます。また、明らかに販売が見込めない在庫は、「棚卸資産廃棄損」として処理すべきと考えられます。

これらの損失計上をためらうと、資産が水増しされた状態となり、粉飾決算を疑われる可能性もあります。

銀行は在庫の回転期間なども注視しているため、売上が横ばいなのに在庫だけが増えているといった異常値があると事業活動への疑いを持ちます。

評価損や廃棄損を適切に計上することは、以下の点で銀行に好印象を与えます。

  • 粉飾の疑いを晴らすことができる
  • 将来の損失を前倒しで処理できるほど、利益に自信があるとアピールできる
  • 在庫を適切に管理できる能力がある会社だと証明できる

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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