銀行融資につながる決算書の作り方|資産の部で銀行評価を高めるチェックポイント②

銀行融資を検討する際、「資産の部」は、会社の財政状態を示す重要な部分であり、銀行もよく見るポイントです。

諸留誕著「銀行融資を引き出す仕訳90」(日本法令)を参考にして。

目次

銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”

決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。

銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。

目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。

逆に、一見ネガティブに見える損失の計上であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。

銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に資産の部の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか、見ていきましょう。

受取手形

売上の対価として受け取る「受取手形」ですが、銀行はあまり好ましく見ていないといわれています。
なぜなら、受取手形には資金繰りを悪化させる要因が多く含まれているためです。

  • 入金サイトが長い:一般的に、売掛金よりも手形のほうが入金までの期間が長くなる傾向があります。
  • 不渡りリスク:手形が決済されない「不渡り」のリスクが常に伴います。
  • 各種コストの発生:手形の管理コストや、現金化を急ぐ場合の「手形割引料」という手数料が発生します。

評価を高めるポイント

政府は2026年を目標に手形の廃止を進めています。

この流れのなかで、取引先と交渉し、「受取手形」から振込み、つまり「売掛金」での取引に切り替えていくことを目指しましょう。

売掛金への切り替えは、資金繰りの改善と銀行評価の向上に直結します。

仮払金

「仮払金」は、使途が未確定の支出を示す勘定科目です。

決算書にこの科目が残っていると、銀行は「経理体制がずさんなのではないか」「利益を多く見せるために、本来費用にすべき支出を隠しているのではないか」といった疑念を抱きます。

評価を高めるポイント

最も効果的な対策は、そもそも仮払金を発生させない日常の経理業務フローを構築することです。

例えば、出張費や交際費などの経費は、一旦社員に立て替えてもらい、給与の支払いに合わせて精算するというルールにします。

これにより、「仮払金」が決算書に載ることを防ぎ、経理の透明性をアピールできます。

立替金

取引先や社員が負担すべき費用を会社が一時的に支払った際に使う「立替金」も、銀行が警戒する勘定科目の一つです。

仮払金と同様に、利益の水増しに利用されることがあるためです。

銀行は、「立替金」や「前渡金」、「未収入金」といった科目の金額が大きいと、その資産価値を厳しく評価します。

最悪の場合、これらの勘定科目の価値を「ゼロ」と考え、その分だけ純資産を減額して評価することもあります。

そうなれば、実質的債務超過と判断されることもあり、融資は非常に困難になります。

評価を高めるポイント

やむを得ず立替金が発生した場合は、その内容を「勘定科目内訳明細書」に具体的に記載し、きちんと回収できる(=資産価値がある)ことを明確に示しましょう。

有価証券

株式や投資信託などを保有している場合、その会計処理の方法で銀行に与える印象が大きく変わります。

これらを流動資産の「有価証券」として計上していると、銀行からは「短期的な売買で利益を狙う投機目的ではないか」と見られる可能性があります。

銀行は、事業を支えるために融資をするのであって、投機資金を提供するためではないため、融資金が投機に使われ損失が出て返済不能になることを何よりも恐れます。

評価を高めるポイント

取引先との関係強化や長期的な資産防衛など、事業の一環として有価証券を保有している場合は、固定資産の「投資有価証券」や「関連会社株式」として計上しましょう。これにより、投機目的ではないことを明確に示すことができます。

さらに、保有する投資有価証券に含み益が生じている場合は、その事実と金額がわかる資料(証券会社の報告書や時価が掲載されたWebサイトの写しなど)を積極的に銀行へ提出するとよいと考えられます。

銀行は融資審査において純資産の大きさに注目しており、含み益の分だけ純資産を厚く評価してくれる可能性があるため、会社の評価を高める上で非常に有効です。

貸付金

決算書の資産の部に、社長個人への「貸付金」が計上されていると、銀行からの評価は著しく下がります。

銀行は、「会社の資金が社長個人に私的流用されている」「融資したお金が事業ではなく、社長個人のために使われるのではないか」と、会社のガバナンス体制に強い懸念を抱くからです。

評価を高めるポイント

社長への貸付金は、早急に解消するのが理想です。

やむを得ず残高がある場合は、社長の「返済に対する強い意思」を客観的な形で示す必要があります。

  • 返済計画の策定:金銭消費貸借契約書と具体的な返済計画書を作成します。
  • 返済実績の提示:役員報酬からの天引きなど、計画通りに返済が進んでいる証拠(給与明細など)を提示します。

前払費用・保険積立金

保険料や会費などを年払いした際に、支払った月の費用として全額を一度に計上する場合、支払った月だけ費用が突出して赤字になり、月ごとの業績が正しく把握できなくなります。

銀行は、年間の決算書が黒字であることはもちろん、月次決算においても毎月安定して黒字であることを高く評価します。

評価を高めるポイント

掛捨ての保険料などを年払いした場合は、まず資産の部の「前払費用」として計上し、決算月までの期間で按分して毎月費用に振り替えていくのがよいと考えられます。

この一手間で月々の費用が平準化され、月次決算の赤字を防ぎます。

また、社長の退職金準備などで加入する貯蓄性のある生命保険については、その保険料のうち資産計上する部分を「保険積立金」として計上します。

この「保険積立金」の簿価よりも解約返戻金の額が上回っている、つまり含み益が生じている場合には、保険証券や解約返戻金額の証明書などを銀行に提示するのもよいと考えられます。

銀行が含み益を把握でき、純資産の評価が上がるだけでなく、資産が実在することの証明にもなります。

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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