銀行融資を検討する際、「資産の部」は、会社の財政状態を示す重要な部分であり、銀行もよく見るポイントです。
諸留誕著「銀行融資を引き出す仕訳90」(日本法令)を参考にして。
銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”
決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。
銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。
目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。
逆に、一見ネガティブに見える損失の計上であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。
銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に資産の部の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか、見ていきましょう。
固定資産
会社の資産の中でも大きな割合を占めることが多い「固定資産」。銀行は、この固定資産の管理状況や投資の実態から、会社の経営姿勢を判断します。
使用不能な固定資産は適切に除却
使われなくなった機械などを帳簿に残したままにしていると、銀行から”資産管理がずさん”と見られかねません。
不要な資産は「固定資産除却損」として適切に処理することが大事と考えられます。
ただし、除却損の金額が大きい場合は「設備投資の失敗」と見られる可能性もあるため、その際は失敗の原因と今後の対策を銀行にしっかり説明することが重要です。
会社の規模に見合わない社用車
会社の規模や業績に見合わない高額な社用車は、銀行から「公私混同」を疑われる原因になります。
また、運転資金目的の融資を車の購入(設備投資)に充てると「資金使途違反」と見なされるケースもあるため注意が必要です。
不動産購入は慎重な計画が必須
事務所や店舗などの不動産購入は、安易に行うと経営の足かせになりかねない大きな投資です。
購入する場合は、将来の投資回収計画を立て、取引銀行にも共有しておくことが、銀行からの信頼につながります。
土地の含み益で価値を示す
決算書の数字には直接表れないものの、銀行評価をプラスにできる要素があります。
会社や社長個人が所有する土地の時価が帳簿価額を上回っている場合、その差額である「含み益」は銀行にとって大きなプラス評価の材料になります。
決算書を提出する際に、路線価図や固定資産税の納税通知書など、含み益の根拠となる資料を合わせて提出するのがおすすめです。
情報提供と担保提供は別の話として、まずは情報開示することが重要です。
建設仮勘定
建物の建設など、完成前に支払った費用を処理する「建設仮勘定」は、粉飾決算に利用されやすい勘定科目であるため、銀行は警戒します。
この勘定科目がある場合は、決算時の「勘定科目内訳明細書」に支払先や支出の内容などを詳しく記載しましょう。
決算書の透明性を高めるという細部へのこだわりが、銀行の疑念を払拭し、信頼を得るための鍵となります。
倒産防止共済掛金
取引先の倒産に備える「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」の掛金は、税務上は費用として処理できますが、銀行融資の観点からは「資産」として計上する方が有利と考えられます。
資産計上することで、その分だけ利益が増え、自己資本が厚くなります。
また、連鎖倒産に対する備えがあるという事実は、銀行に安心感を与えるプラス材料になります。
長期前払費用
複数年分の保険料などを支払った場合、1年以内に費用化されるもの(流動資産)と、1年を超えて費用化されるもの(長期前払費用)に正しく区分することが大切です。
すべてを流動資産にしてしまうと、実態と異なる指標が表示され、銀行から「経理が不正確な会社」という印象を持たれかねません。
実態に合わせた正確な経理処理を心がける姿勢が銀行の信頼につながります。
繰延資産
「開業費」や「開発費」といった繰延資産をいつまでも貸借対照表に残しておくと、銀行は、”償却ができないのは、利益に対する自信がないからではないか”と見ることがあります。
特に「開発費」については、新市場の開拓などのための支出ですが、会計の原則では支出時に費用処理すべきものとされています。
そのため、資産として計上していると、銀行から”本来費用にすべきものを資産計上して、利益を多く見せようとしているのではないか”と疑われる可能性があります。
開発費を資産計上する場合、その根拠を銀行に明確に説明しておくとよいと考えられます。
利益が出ているのであれば、「開業費」や「開発費」は思い切って全額償却することが、自社の「稼ぐ力」をアピールする絶好の機会となり、銀行からの評価を高める効果が期待できます。
さらに、「個別注記表」に「開発費は支出時に全額費用処理しています」と記載することで、会計の透明性をより強くアピールできます。
