銀行融資につながる決算書の作り方|損益計算書で銀行評価を高めるチェックポイント①

目次

銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”

決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。

銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。

目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。

逆に、一見ネガティブに見える会計処理であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。

銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に損益計算書の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか、見ていきましょう。

売上高

銀行は、会社の”本業での儲け”である営業利益を重視しており、その流れの源流としての売上高の計上方法は銀行評価に直結します。

「雑収入」ではなく「売上高」で計上する

事業に付随する手数料収入や不動産賃貸収入などを安易に「雑収入」で処理すると、本業の収益力が過小評価されます。

定款の事業目的を確認し、本来売上高にできるものは正しく計上しましょう。

これにより営業利益が増加し、融資が受けやすくなる可能性があります。

「発生主義」で計上する

発生主義で計上することにより、「経常運転資金(売上債権+棚卸資産ー仕入債務)」の必要性を明らかにすることができます。

決算間際の売上には説明を

決算日直前に多額の売上が計上されていると、銀行は利益を操作するための「売上の前倒し」を疑います(概況書には月別売上高を記載するほか、入金サイクルの記載箇所あり。)。

事実として決算間際に大きな取引があった場合は、銀行に事情を説明することが賢明です。

ビジネスモデルを正しく伝える「総額処理」

自社が在庫リスクを負う取引(本人取引)の場合、売上と仕入を相殺せず、両方を計上する「総額処理」が原則です。

差額のみを計上する「純額処理」では、売上高が実態より著しく小さくなり、銀行にビジネスモデルを誤解される可能性があります。

仕入高

売上原価の中心である仕入高の処理も、会社の損益を正しく示す上で非常に重要です。

また、仮に資金繰り表の作成が必要になった場合には、銀行融資が下りなかったときの対応として、保険解約や契約者貸付の利用、有休不動産や有価証券の売却、社長個人からの借入れなども検討し織り込みたいところです。

仕入も「発生主義」で

売上と同様に、仕入も支払時ではなく、商品やサービスを受け入れ債務が確定した時点で費用計上する「発生主義」が鉄則です。

決算月の多額の仕入は要注意

決算月に売上に対して不自然に多額の仕入が計上されていると、銀行は「資金繰りの問題で支払いが遅延しているのでは?」といった疑念を抱きます。

割引目的の一括仕入や大口売上を前にした大量仕入など正当な理由がある場合は、翌期首の試算表なども提示し、支払いが正常に行われていることを説明すると銀行も安心できます。

外注費

特にサービス業などでは、外注費をどの費用区分に計上するかが、利益の質を示す上でポイントとなります。

売上原価か販管費かを見極める

売上に直接関わる外部への委託費用は、販売費及び一般管理費の「委託費」などではなく、売上原価の「外注費」として計上すべきです。

本来、売上原価とすべき費用を販管費に計上すると、売上総利益(粗利益)が実態よりも高く見えてしまい、銀行にビジネスモデルを誤認される恐れがあります。

自社の商流を図解するなどして、銀行にビジネスモデルを正しく伝える努力が大切です。

役員報酬

役員報酬は、銀行が会社の収益力と経営者の姿勢を判断する上で、特に注目している勘定科目です。

「利益+役員報酬」で会社の収益力が見られている

中小企業では役員報酬が利益の調整弁となりやすいため、銀行は単純な利益額だけでなく、「利益+役員報酬」の合計額で会社の実質的な収益力を評価します。

給与と合算せず、必ず区分する

銀行が役員報酬の額を正確に把握できるよう、従業員給与と合算せず、「役員報酬」として明確に区分して経理処理すべきと考えられます。

資金繰りを悪化させるほどの高額設定はNG

利益だけを見て資金繰りを見ずに高額な役員報酬を設定してしまい、結果として、後から会社に社長個人が貸し付ける(役員借入金)というのは非効率です。

税金や社会保険料を負担してまで会社にお金を戻すのであれば、初めから資金繰りに見合った役員報酬額に設定すべきと考えられます。

給与・賞与

従業員への給与や賞与の会計処理は、月次決算の精度や、会社の業績をアピールする上で重要です。

締め日後の未払給与を計上する

給与の締め日から決算日までの期間に対応する給与は、未払費用として費用計上するのが正しい会計処理です。

これを毎月行うことで月次決算の精度が高まり、銀行に”試算表が信用できない”と見られるリスクを避けられます。

賞与は給与と区分してアピール

賞与を支給できるのは業績が良い証拠です。

毎月の給与と合算せず、「賞与」として勘定科目を分けることで、銀行に業績の良さをアピールできるほか、賞与資金での融資打診もしやすくなります。

決算賞与は「特別損失」に計上する

業績に応じて臨時で支給される決算賞与は、経常的な費用ではないため「特別損失」として計上するほうがよいと考えられます。

こうすることで、本業の儲けを示す営業利益や経常利益が過小評価されるのを防ぎ、銀行評価の向上につながる可能性があります。

退職金

退職金は金額が大きく、経常的に発生する費用ではないため、その会計処理が損益計算書に与えるインパクトは大きくなります。

「特別損失」として計上するのが妥当

役員や従業員への退職金は、毎期発生するものではないため、「特別損失」として計上するのが実態に即しています。

販売費及び一般管理費で処理してしまうと、その期だけ営業利益や経常利益が大幅に減少し、本業の収益力が実態よりも低く評価されてしまう恐れがあります。

法定福利費

社会保険料の会社負担分である法定福利費は、費用計上のタイミングが重要です。

未払計上が信頼につながる

社会保険料は、納付する月(翌月)ではなく、費用が発生した月に未払金として計上するのが原則です。

この処理をきちんと行うことで、利益を操作しない誠実な経理姿勢を示すことができます。

銀行は、未払金を積極的に計上する会社を”利益に自信がある収益力の高い会社”とポジティブに評価する傾向があります。

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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