銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”
決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。
銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。
目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。
逆に、一見ネガティブに見える損失の計上であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。
銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に損益計算書の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか、見ていきましょう。
福利厚生費
法定福利費の適切な表示
社会保険料の会社負担分を「福利厚生費」として処理しているケースが見られますが、より適切な科目としての「法定福利費」に表示したほうがよいと考えられます。
決算書上に「法定福利費」の記載がない、あるいは極端に少ないと、未加入や滞納を疑い、簿外債務のリスクを懸念される可能性があります。
任意の福利厚生費の意義
社員旅行や食事代の補助など、法律で義務付けられていない任意の福利厚生費は、銀行に対してポジティブなメッセージを発信します。
充実した福利厚生は、それだけの支出を賄える利益と余裕があることの証と見なされます。
福利厚生の充実は、優秀な人材の確保や離職率の低下につながり、事業の持続的な成長の可能性を示す材料になるため、具体的な取り組みやその狙い、効果を銀行にアピールすることで、評価をさらに高めることができます。
ただし、支出の効果が不明瞭なものは、単なる”冗費(ムダな費用)”と見なされる可能性もあるため注意が必要です。
交際費
交際費の金額が大きいと、銀行は”融資した資金が私的に流用されるのではないか”と警戒します。
これは融資審査で大きなマイナス評価となり、経営者保証を外せないなど融資条件の悪化にもつながります。
また、本来は会議費や福利厚生費として計上すべき支出まですべて交際費として処理していると実態以上に交際費が膨れ上がり、不要な疑いを招く原因となります。
税務上は損金として認められれば問題視されにくいですが、銀行融資の観点では、実態に合わせて正確に科目を区分することが極めて重要です。
交際費の額が多いかどうかは、帝国データバンクの「全国企業交際費支出動向調査」、中小企業庁「中小企業実態基本調査」などが参考になります。
広告宣伝費
なぜその広告に費用をかけたのか、そしてどのような効果があったのかを具体的に説明できるようにしておく必要があります。
CPA(広告費÷獲得顧客数)、CPO(広告費÷注文件数)、CPR(広告費÷反応件数)などの指標を用いて効果を測定し、客観的なデータで説得力を持たせることが理想的です。
また、過去3〜5年程度の売上高と広告宣伝費の推移を比較し、その関係性を確認しておきましょう。
売上が減少しているにもかかわらず広告宣伝費が増加していると、効果が出ていないと判断されます。
逆に、売上の伸び以上に広告宣伝費が急増している場合も、広告の効率が低下していると見なされる可能性があります。
あまりに多額の広告宣伝費を計上していると、銀行からは”広告に頼らなければ売上を維持できない会社”、つまり商品やサービスそのものの価値に自信がない会社という見方をされることもあるため、バランスが重要です。
旅費交通費
銀行は、近距離でのタクシー利用や不要なグリーン車の利用などが含まれていないかを気にします。
特に業績が芳しくない状況で旅費交通費が多いと、コスト削減意識の欠如を指摘され、心証を悪くします。
売上高に対する旅費交通費の比率を分析し、同業他社と比較してこの比率が高い場合には、内容について詳細な説明を求められることがあります。
やたらと日当の額が多い場合などはこの旅費交通費の額が異様に膨らみ、融資の際にネックになることがあります。
また、ガソリン代・車検代・自動車保険料などの車両関連の費用は、「旅費交通費」に含めず「車両関連費」として独立させることで、車両維持のコストが明確になり、コスト管理意識の高さをアピールできます。
水道光熱費
工場や店舗など水道光熱費が多額になる事業では、月ごとの損益を正確に把握するために、発生主義での計上を検討したいところです。
また、水道代など請求が2ヶ月に一度の場合は、費用を按分して計上するなど、実態に合わせた処理が求められます。
消耗品費
30万円未満の資産を一括で経費にできる「少額減価償却資産」は、固定資産として計上し、その後、同額を「減価償却費」として費用計上することで、税務上の損金にできるメリットはそのままに、決算書上の簡易キャッシュフローの額を大きくすることができ、銀行からの評価向上につながります。
地代家賃
一般的に、売上高の10%を超える家賃は過大と見なされる可能性があります。
周辺の家賃相場とかけ離れた高い賃料を支払っていないか、長年同じ物件を借りている場合、知らず知らずのうちに相場より割高になっているケースもあります。
社長やその親族が所有する物件に会社が賃料を支払っている場合、その金額が適正かどうかが問われます。
相場より著しく高い賃料は、融資した資金が社長個人に流れていると見られます。
リース料
所有権移転外ファイナンスリース取引の会計処理には「賃貸借処理」と「売買処理」がありますが、しいていえば「売買処理」のほうが望ましいと考えられています。
リース資産とリース債務を資産・負債に計上し、費用は「減価償却費」として計上することにより、簡易キャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)の額が増加し、企業の返済能力が高く評価されることになります。
ただし、リース債務が貸借対照表に載り、負債が多く計上されてしまうことも頭に入れておく必要があります。
修繕費
数年に一度しか発生しないような大規模な修繕費を、経常的な費用である「販売費及び一般管理費」に含めてしまうと、その期の利益が実態以上に悪く見えてしまいます。
自社ビルの外壁塗装や機械設備のオーバーホールなど、臨時的な修繕費は、「本社工事費」や「特別修繕費」など、あるいは災害支出であれば「災害損失」などの「特別損失」として計上したいところです。
勘定科目内訳明細書にも、取引の内容、相手先、金額などもしっかり記載しておきます。
これにより、銀行が本業の収益力として重視する営業利益や経常利益が過小評価されるのを防ぎ、会社本来の稼ぐ力を正しく示すことができます。
租税公課
不動産の売買を事業としていない会社の、本社や工場などを取得する際に支払う不動産取得税や登録免許税、あるいは、、不動産取得関連の収入印紙や司法書士報酬なども臨時的な支出です。
これらの税金は経常的に発生するものではないため、「不動産取得費用」などの「特別損失」として処理する方がより実態に即した決算書となります。
これにより、銀行が本業の収益力として重視する営業利益や経常利益が過小評価されるのを防ぎ、会社本来の稼ぐ力を正しく示すことができます。
支払報酬
取引先やお客様などとの係争による「訴訟費用」を特別損失に計上すると、法的なトラブルを抱えていることを自ら知らせることになります。
争いが軽微な民事のものでニュースになるようなものでなければ、弁護士費用などは「支払報酬」として「販売費及び一般管理費」に含めて処理することも一つの考え方です。
ただし、争いが決着し、その後の事業や財務に影響がわかったときには、すみやかに、状況と対応をあわせて銀行と情報共有すべきと考えられます。
保険料
社長の退職金準備などを目的とした生命保険料は、多額になることが少なくありません。
いずれ入金される解約返戻金を特別利益に計上することとの整合性などから、社長の退職金準備などを目的とした生命保険料を「特別損失」に計上するという考え方もありえます。
支払手数料
人材紹介会社に支払う手数料などがあれば、一時的に大きな負担となると思われます。
人材紹介会社の利用は中小企業にとって毎年の恒例行事とは限らず、数年に一度というケースも多いことから、この臨時的かつ多額の採用コストを「特別損失」として処理する方がその年の経営成績をより正確に反映します。
※他の人材採用に伴う他費用(採用面接、採用試験、入社時研修、入社式費用、入社歓迎会費用など)も同様。
諸会費
同業者団体の年会費など、1年分をまとめて支払う費用を、支払った月に全額費用計上すると、その月だけが赤字になってしまう可能性があります。
年払いの費用は12ヶ月で按分し、毎月少しずつ費用計上することで、月ごとの利益のブレをなくし、安定した経営状況をアピールしましょう。
減価償却費
減価償却費を決算時に一度に計上すると、期中の試算表では黒字だったのに決算書では赤字になるという事態が起こりがちなため、減価償却費は必ず毎月按分して計上すべきと考えられます。
また、法人の減価償却計上が任意であることから、利益を多く見せるために、法人税法上の償却限度額に満たない金額しか計上しない、あるいは全く計上しないのは、銀行から見ると利益を水増ししていると認識されることから望ましくないと考えられます。
(銀行は税務申告書の別表を見れば償却不足の把握は可能)
繰越欠損金の期限切れ対応で、どうしても減価償却費の計上に制限をかけたい場合にはあらかじめ”繰越欠損金を有効活用するため”などといった事情を十分に説明しておくほうがよいと考えられます。
税制優遇による特別償却は、通常の減価償却費とは区別し、「特別損失」として計上するのが得策です。
研究開発費
新製品や新サービスの開発、既存の製造方法の改良などにかかった費用を、単なる「消耗品費」や「材料費」として処理していると、その努力が銀行に伝わらないことから、「研究開発費」として決算書に記載することで、付加価値の向上に努める前向きな姿勢をアピールできると考えられます。
貸倒引当金
債権がある以上、一定の貸倒リスクを見込んでおくのが会計の基本です。少額でもルール通りに計上するほうが望ましいと考えられます。
また、銀行は、法人税法で定められた繰入率に基づいて正しく計算されているかを別表で見てる場合もあります。
雑費
決算書に多額の「雑費」が計上されていると、銀行は「使途不明金」や「社長の私的流用」を疑います。
また、雑費が多いことは、経営者保証の解除を妨げる要因にもなり得ます。
雑費は、他のどの勘定科目にも当てはまらない少額で発生頻度の低い支出に限定して使うべき科目ですが、現実にはどのような支出でも、探せばより具体的な勘定科目があるはずで、例えばネットバンキングの利用料なら「支払手数料」や「通信費」が適当です。
