銀行融資につながる決算書の作り方|損益計算書で銀行評価を高めるチェックポイント③

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銀行が決算書で見る最重要ポイントは”実態との一致”

決算書は単なる数字の報告書ではなく、銀行との重要なコミュニケーションツールです。

銀行融資を成功させる上で最も重要なことは何か。それは、決算書が会社の「実態」を正確に反映していることであるといえます。

目先の利益を大きく見せるために実態と異なる会計処理をすることは、かえって銀行の信頼を失い、融資を遠ざけてしまいます。

逆に、一見ネガティブに見える損失の計上であっても、事実に基づいて適切に処理することで、経営の透明性や管理能力の高さを示すことができます。

銀行との良好な関係を築き、円滑な資金調達を実現するために、具体的に損益計算書の勘定科目ごとにどのような点に注意すべきか、見ていきましょう。

雑収入

保険の解約益や固定資産の売却益など企業の本業とは異なる「経常的」ではない臨時的なものについては、「雑収入」として営業外収益に計上せずに、「保険解約益」や「固定資産売却益」など「特別利益として計上するほうが望ましいと考えられます。

営業外収益にこれらを含めると、会社の経常的な収益力、つまり「経常利益」が実態以上にかさ上げされてしまいます。

特に、固定資産の売却益については、単に特別利益として計上するだけでなく、銀行へのアピール材料として活用したいところです。

  • 資金繰りの改善をアピール
    売却によってまとまった資金が入り、資金繰りが改善したことを具体的に伝えたいところです。
  • 資金繰り表を提示する
    資金繰り表をあわせて提示することで、改善効果を金額でより具体的に示すことができます。
  • 財務戦略としての評価を得る
    単なる臨時収入ではなく、財務改善の一環としての戦略的な売却であったと説明の機会を得ることで、銀行からの評価は大きく変わります。

また、銀行から、繰越欠損金活用という名目で保険の解約を勧められることもありますが、あくまで自社にとっての保険本来の目的である保障についてもよく考えあわせて決めるべきと思われます。

受取家賃

借上げ社宅制度を導入したり、自社物件の転貸を行っている場合、会社が支払う家賃と社員から受け取る家賃の会計処理に注意が必要です。

支払う家賃を「地代家賃」として販売費及び一般管理費に、受け取る家賃を「受取家賃」として営業外収益に計上してしまうと、支払家賃の分だけ本業の儲けを示す「営業利益」が減少してしまうことになります。

望ましいのは、「受取家賃(営業外収益)」という収益に対応する費用である支払家賃を、同じく「営業外費用」として計上することで、これにより、営業利益が不当に圧迫されるのを防ぎ、銀行に対して本業の収益力を正しく示すことができます。

支払利息

信用保証協会付き融資の利用時に支払う信用保証料については、財務活動に関する費用であることから、期間の経過に応じ、営業外費用に「支払保証料」などの科目を設けて処理するのが適切であると考えられます。

また、支払利息については、銀行がチェックする以下の3つの指標を理解しておくことが重要です。

  1. 平均借入金利
    • 計算式: 支払利息 ÷ { (期首借入金残高 + 期末借入金残高) ÷ 2 }
    • 会社の平均的な金利負担を示します。市場金利よりあまりに高いと、銀行に不要な疑念を抱かせる可能性があります。
  2. インタレスト・カバレッジ・レシオ
    • 計算式: (営業利益 + 受取利息 + 受取配当金) ÷ 支払利息
    • 本業の利益が支払利息の何倍あるかを示す指標で、会社の返済能力を測る重要なものです。最低でも1倍以上は必須、3倍以上を目指しましょう。
  3. 実質金利
    • 計算式: (支払利息 - 預金利息) ÷ (借入金残高 - 預金残高)
    • 銀行は預金残高も考慮したこの実質金利で、取引の本当の収益性を判断しています。会社側もこれを計算することで、より戦略的な金利交渉が可能になります。

固定資産売却損

未利用の土地や不要な設備を売却して損失が出た場合も、銀行へのアピール材料になります。

「損」というとネガティブに聞こえますが、固定資産の売却は「収入」を伴うため、資金面ではプラスの影響があります。

売却代金という直接的な収入だけでなく、その後の固定資産税や維持管理コストが削減されるという間接的な効果も大きいと思われます。

固定資産売却損を計上した際は、売却に至った経緯や、その後のコスト削減効果などを具体的に銀行へ説明することが大切と考えられます。

同じく、固定資産除却損、棚卸資産廃棄損なども同様です。

ただし、特別損失の計上によって純資産がマイナス、つまり債務超過に陥らないよう、計上のタイミングには十分な注意が必要です。

店舗閉鎖費用

不採算店舗を閉鎖する際にかかる違約金や撤去費用などは、「雑費(販売費及び一般管理費)」や、「雑損失(営業外費用)」でなく、特別祖損失で計上するほうが望ましいと考えられます。

店舗の閉鎖は特別なことであり、金額も多額に及ぶことから、「店舗閉鎖費用」などの勘定科目で特別損失として経理処理するのが妥当と考えられます。

これにより、営業利益や経常利益が過小に評価されることを防ぐことができます。

また、店舗閉鎖はネガティブな一面だけでなく、「不採算部門を整理し、会社全体の収益性を改善させる」というポジティブな経営改善の一手でもあり、その点を銀行にアピールしたほうがよいと考えられます。

法人税、住民税及び事業税

月次決算の段階で納税見込額を算出し、「未払法人税等」として費用計上しておくのも有効です。

もし納税資金に不安があれば、「納税資金の借入」を銀行に相談しましょう。

実質的な「税金の分割払い」であり、手元資金を厚く保つことができます。

黒字が前提の融資であり、銀行にとってもリスクが低いため、プロパー融資の実績作りにもつながるというメリットもあります。

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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