新しい事業を成功させるためには、市場の動向、競合の存在、そのうえで自社の立ち位置を正確に把握する「業界分析」が重要になってきます。
東京税理士会中小企業対策部編「創業する前に読む本―税理士が教える10のポイントー」(中央経済社)を参考として。
なぜ業界分析が重要なのか?
事業を始める、あるいは成長させるためには、商品を企画したり、広告やプロモーションを考えたりと、やるべきことは山積みですが、その全ての土台となるのが「業界分析」です。
事業を行っていくには、自社の”強み”を発揮する必要がありますが、その”強み”とは、あくまで相対的なものであるからです。
つまり、あくまで競合と比べてどうであるか、です。
これについては、”業界分析”を行うことで、自社がこれから戦う市場の全体像を掴み、その中での自社の立ち位置を客観的に把握することができます。
業界の動向や競合の状況を理解したうえで、「誰に、何を、どのように提供するのか」という戦略を明確にすること。
これが、事業を継続させ、成功へと導くための不可欠なプロセスであるといえます。
業界分析に役立つ代表的なフレームワーク3選
業界分析を効率的かつ効果的に進めるためには、先人たちが苦労の末に編み出した「フレームワーク」の活用は有用です。
フレームワークとは、課題の整理や解決策の検討を助けてくれる、いわば「思考の型」です。
1. SWOT分析
自社の内部環境である「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」と、外部環境である「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つの要素から、事業の方向性を探るフレームワークです。
これらのプラス要因とマイナス要因を掛け合わせて分析することで、戦略の糸口を見つけ出します。
プラス要因 | マイナス要因 | |
---|---|---|
内部環境 | 強み (S) | 弱み (W) |
外部環境 | 機会 (O) | 脅威 (T) |
2. 3C分析
「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」という3つの「C」の視点から、事業環境を分析する手法です。
自社だけでは見えにくい立ち位置を客観的に把握し、市場のニーズや競合の動向に合わせた戦略を立てるのに役立ちます。
- 市場・顧客 (Customer)
: 市場の規模や成長性、顧客のニーズは何か? - 競合 (Competitor)
: 競争相手は誰で、どのような強みや特徴があるか? - 自社 (Company):
競合と比べて、自社の強み・弱みは何か?
3. 5フォース分析
業界の収益性を決める「5つの力(脅威)」を分析し、その業界の魅力度や競争の激しさを評価するフレームワークです。
これにより、自社が直面する課題や脅威を具体的に発見し、事前に対策を立てることが可能になります。
- 新規参入の脅威: 新しい競合が現れる可能性は高いか?
- 代替品の脅威: 自社の商品やサービスの代わりになるものはあるか?
- 買い手の交渉力: 顧客(買い手)の価格交渉力は強いか?
- 売り手の交渉力: 仕入先(売り手)の交渉力は強いか?
- 業界内の競争: 業界内の競合企業同士の争いは激しいか?
分析の精度を上げる情報収集術と成功への鍵(結論)
業界分析のフレームワークを使いこなすには、その材料となる「情報」が不可欠です。
正確で信頼性の高い情報を多角的に集めることで、分析の精度は格段に向上します。
分析に役立つ情報収集の方法
情報源には様々なものがあり、それぞれに特徴があります。これらを効果的に活用しましょう。
情報源の種類 | |
---|---|
(1) インターネット | ・官公庁の統計データ(総務省統計局など)や企業の公式サイトから、基本的な情報を効率的に収集可能。 ・口コミサイトや転職サイトでは、公式サイトにはない現場の情報を得られることも。 |
(2) 新聞・ニュース | ・経済紙やニュースサイトで、業界の売上高や市場全体の動向など、広い視野での情報を得られる。 |
(3) 専門雑誌・書籍 | ・特定業界に特化した最新の情報を得ることができる。 |
(4) 業界団体の資料 | ・業界団体(例:日本自動車工業会)が公開しており、業界特有の詳細なデータを入手可能。 |
(5) 民間調査会社のレポート | ・帝国データバンクなどがあり、官公庁の資料より深い業界情報を得られる可能性がある(多くは有料)。 |
(6) 金融機関のレポート | ・業界の将来予測や分析情報が掲載されており、データがグラフ化されているなど分かりやすいものが多い。 |
競合を知り、自社のポジションを確立することが成功の鍵
事業を成功に導くためには、多角的な視点での業界分析が欠かせません。
SWOT分析で自社の現状を整理し、5フォース分析で業界の構造を理解する。
そして特に重要なのが、3C分析に代表される「競合」を意識した分析です。
自社の「強み」や「弱み」を考えるとき、それは必ず「どこかの競合と比べて」という相対的な評価になります。
お客様にとって、自社の代わりとなりうる競合はどこなのか。その競合はどんな価値を提供しているのか。
様々なフレームワークと情報収集術を駆使して、業界全体を俯瞰し、競合の存在を明確に意識する。
その上で、自社ならではのポジションを確立し、戦略を立てていくこと。
これこそが、変化の激しい時代において事業を成功させるための最も重要な鍵となります。