役員や従業員の保険料を会社で負担することで節税に繋がります。個人で支払う場合に比べて、会社で契約することで社会保険料などの負担を軽減できるメリットがありますが注意点もあります。
なぜ法人保険は節税につながるのか?個人契約との違い
経営者や従業員に万が一のことがあった場合に備える保険は、事業を継続する上で非常に重要です。
この保険料、個人で契約するのと法人で契約するのとで違いがあります。
- 個人契約の場合
個人で保険に加入する場合、役員報酬や給与から社会保険料・所得税・住民税が差し引かれた「手取り」の中から保険料を支払うことになります。 - 法人契約の場合
法人が保険契約者となり保険料を支払う場合、その保険料は福利厚生費などの「経費」として計上することが可能です。つまり、税金や社会保険料が差し引かれる前の利益から支払うことになります。
税金や社会保険料という観点からいくと、法人契約は、税金や社会保険料の分だけ実質的な負担を抑えることができるともいえます。
比較項目 | 個人契約 | 法人契約 |
---|---|---|
契約者 | 個人(経営者・従業員) | 法人(会社) |
保険料の原資 | 税金・社会保険料が引かれた後の「手取り給与」 | 税金・社会保険料が引かれる前の「会社の利益」 |
メリット | ・保険金がそのまま個人に支給される。 | ・保険料を経費にでき、法人税の負担を軽減できる。 ・社会保険料の負担増がない。 ・個人へは法人を通じた見舞金程度しか支給できない。 |
【保険種類別】法人保険の活用法と経費計上のルール
法人保険とひと言でいっても、その種類は様々です。代表的な「定期保険」「長期平準定期保険」「養老保険」「医療保険」の4種類について。
定期保険
社長に万が一のことがあった場合、借入金の返済を求められたりする可能性があります。
定期保険は、こうした事業継続リスクに備えるための死亡保障です。
- 活用法
保険金受取人を「法人」にして契約します。
会社が受け取った保険金は、当面の運転資金や借入金の返済に充てることができます。
また、社長の遺族に対して「死亡退職金」や「弔慰金」として支払うことも可能です。 - 非課税枠の活用
遺族が受け取る死亡退職金や弔慰金には、相続税の非課税枠が設けられています。- 死亡退職金:500万円 × 法定相続人数
- 弔慰金:給与の半年分(業務上の死亡の場合は3年分)
この非課税枠をうまく活用することで、相続税の負担を抑えながら、家族に資金を遺すことができます。
長期平準定期保険
長期平準定期保険は、保障期間が長く、解約した際に「解約返戻金」が戻ってくるタイプの保険です。
この解約返戻金、将来の役員退職金として活用することも可能になってきます。
- 経費計上のルール
支払った保険料が経費になる割合は、解約時に戻ってくるお金の割合(最高解約返戻率)によって変わります。
ルールは複雑ですが、簡略化すると以下のようになります。
ただ、重要なのは、これは税金をなくす「節税」ではなく、課税されるタイミングを将来に繰り延べる「税の繰延」であるという点です。
最高解約返戻率 | 経費にできる割合の目安 (保険期間前半) |
---|---|
50%以下 | 100% |
50%超~70%以下 | 60% |
70%超~85%以下 | 40% |
養老保険
養老保険は、従業員の死亡保障と、満期まで勤務した場合の退職金準備を同時に行える保険です。
- 活用法
全従業員を対象に加入し、死亡保険金・満期保険金の受取人を従業員またはその遺族にすることで、支払った保険料の「半分」を経費(福利厚生費)にすることができます。
従業員の定着率向上やモチベーションアップが期待できる制度です。 - 注意点
途中で退職する従業員が多い場合、解約返戻金が支払った保険料を下回り、会社が損をしてしまう可能性があるため注意が必要です。
医療保険
役員や従業員が入院した際の治療費などに備える医療保険も、法人で契約するメリットがあります。
- 活用法
会社が契約者となり保険料を支払います。
入院給付金は一度会社が受け取り、社内規程に基づいて本人に「見舞金」として支給するのが一般的です。
これにより、個人で契約するよりも社会保険料などの負担を抑えることができます。 - 注意点
見舞金として支給できる金額は、社内規程で定められている範囲内です。
規程を超える金額を支給すると、その超えた部分が「給与」とみなされ、所得税などの課税対象となるため注意しましょう。
法人保険を最大限に活用するための注意点
法人保険には多くのメリットがありますが、その効果を最大限に引き出すためにはいくつか注意すべき点があります。
注意点1:節税目的での過剰な加入はしない
法人保険は結果として節税につながることがありますが、本来の目的は万が一の事態に備える「保障」です。
目先の節税額にのみ目がいってしまい、必要以上の保障内容で契約してしまうと、毎月の保険料がキャッシュフローを圧迫し、かえって会社の体力を奪うことになりかねません。
自社にとって本当に必要な保障額はいくらなのかを慎重に検討しましょう。
注意点2:「税の繰延べ」を正しく理解する
特に長期平準定期保険などを活用する場合、保険料の経費計上は「節税」ではなく、あくまで「税の繰り延べ」であると理解しておくことが重要です。
解約返戻金を受け取る年度には、それが雑収入として計上され、法人税が課税されます。
そのため、役員の退職金を支払うなど、大きな支出が見込まれる年度に合わせて解約返戻金を受け取る「出口戦略」をあらかじめ計画しておく必要があります。
注意点3:計画的に進める
法人保険の税務ルールは複雑で、法改正によって変更されることもあります。
また、インフレによって将来受け取る保険金の実質的な価値が目減りするリスクも考慮すべきです。
自社の状況に合った最適なプランを計画的に実行することが成功のカギとなります。
まとめ
- 個人契約より法人契約の方が、税金や社会保険料の面で負担が軽くなる
- 保険の種類によって特徴が異なり、「事業保障」「退職金準備」「福利厚生」など目的に応じて使い分けることが重要
- 節税効果だけにとらわれず、本来の「保障」という目的と、将来の「出口戦略」をセットで考える
法人保険を正しく理解して活用することではじめて、万が一のリスクから会社を守り、従業員が安心して働ける環境を整え、そして会社の財務体質を強化することが可能になります。