毎月の売上や経費を感覚でしか把握できていない場合、会社の全体像が見えないものです。
月ごとに会社の数字をチェックする「月ごとの業績把握術」を身につけることで、全体像を把握することができます。
大野貴史・國村年・松井大輔著「月次決算の実務Q&A」(中央経済社)を参考にして。
業務プロセスを見直す
月ごとに業績を把握するメリットは、以前ご紹介したとおりです。

月ごとに業績を把握するとした場合、早いに越したことはありません。
月ごとの業績を早く把握しようと思う場合、業務プロセスを見直してみる必要もあります。
経費精算になぜルールが必要なのか?
会社を経営していると、日々さまざまな経費が発生します。
従業員が業務のために支払いを立て替えることも少なくありません。
しかし、この経費精算のプロセスに明確なルールがないと、会社にとって多くのデメリットが生じる可能性があります。
なぜ、経費精算のルールをきちんと整備する必要があるのか。
- コスト削減の機会損失
従業員が個々の判断で備品購入などを行うと、場合によっては、会社としてまとめて購入することによる価格交渉の機会を失うことになります。
本来であれば、相見積もりを取るべきような高額な買い物も、個人の判断で行われてしまうと、結果的にコスト増につながることになります。 - 経理業務の非効率化
従業員がバラバラのタイミングで経費精算を申請すると、経理担当者は精算業務に追われ、経理コストが上がってしまうことになります。 - 月の業績の不正確化
経費申請が遅れて、費用が発生した月と計上される月がずれてしまうと、毎月の正確な利益を把握できなくなります。
これでは、月ごとの業績を正しく評価して、迅速な経営判断を下すことが難しくなります。 - 不正行為のリスク
ルールが曖昧な場合、残念ながら領収書の改ざんや架空請求といった不正行為が起こりやすくしてしまいます。
これらの問題を未然に防ぎ、会社の健全な成長を促すために、経費精算のルール化は不可欠です。
経費精算ルール構築の3つのポイント
では、具体的にどのようなルールを構築すれば良いのか。
ポイント1:対象範囲と承認プロセスの明確化
まず、「何を」「いくらまで」「誰の承認を得て」経費として精算できるのかを明確に定めます。
- 経費精算の対象範囲と上限額の設定
従業員が立て替えられる経費の種類を、例えば「旅費交通費」「消耗品費」などに限定し、それぞれに上限額を設けます。
これにより、無計画な支出を防ぎます。 - 決裁プロセスのルール化
「1万円未満は課長決裁」「5万円未満は部長決裁」というように、金額に応じて誰の承認が必要になるかを「決裁規程」などで定めます。
特に、交際費や寄付金など、金額にかかわらず役員の事前承認を必要とする費目を設けることも重要です。
ポイント2:申請・精算サイクルの設定
次に、経費精算のタイミングを統一し、業務の効率化を図ります。
- 締切日と精算日を設定する
「申請の締切は毎月5日、精算は10日にまとめて振り込む」といったサイクルを設けることで、経理部門の業務を大幅に効率化できます。 - 前月分を翌月初頭には精算することを原則とする
「当月中に発生した経費は、翌月5日までに申請し、当月分の費用として計上する」というルールを徹底します。
ポイント3:経費精算システムの活用
手作業での経費精算は、手間がかかる上にミスも起こりがちです。
申請から承認までをオンラインで完結できる便利なクラウド精算システムが多く存在するため、これらのシステムを利用することで、経費精算業務の効率性と迅速性を検討します。
経費精算の決裁のチェック項目
ルールを定めたら、そのルールが正しく運用されているかをチェックする体制を整えることが重要です。
インボイス制度に対応するためにも必須のチェックです。
チェック項目 | 確認内容 |
---|---|
① 発行者名、インボイス番号 | 会社名、インボイス登録番号が記載されているか |
② 取引年月日 | 日付が空欄になっていないか |
③ 取引の内容 | 「お品代」ではなく、具体的な内容が記載されているか |
④ 取引価格と適用税率 | 税抜価格や消費税率(8%または10%)が正しく記載されているか |
⑤ 消費税額 | 消費税額が明記されているか ※小売・飲食の領収書は記載不要 |
⑥ 宛名 | 宛名が会社名になっているか ※小売・飲食の領収書は記載不要 |
もし従業員が領収書を紛失した場合は、始末書を提出させるなどのルールを設けたほうがとよいと考えられます。
接待交際費のチェックポイント
接待交際費は、私的な支出との線引きが難しく、特に慎重なチェックが求められます。
- 同じ内容で二重に精算していないか
- 1名だけの飲食ではないか
- 家族のための私的な支出が紛れ込んでいないか
- 購入した実際物品等と領収書の品目が同一か
- 不自然な日付ではないか
- 20万円を超えるような高額な贈答品ではないか
- 当社が全額負担することが不自然ではないか
- 事業との関連性が明らかか社内の申請手続きの要件を満たしているか
また、税務上のルールも複雑なため、正しく理解しておく必要があります。
- 飲食等のあった年月日
- 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名・名称、その関係
- 飲食等に参加した者の数
- その飲食等に要した費用の額
- 飲食店等の名称と所在地
- その他飲食等に要した費用であることを明らかにするための必要な事項
出張旅費日当のポイント
出張旅費や日当は、「出張旅費規程」を整備する必要があります。
- 従業員のメリット:非課税
規程に基づき、社会通念上妥当な金額(通常必要と認められる範囲)で支給される日当や宿泊費は、受け取った従業員の給与所得とはならず、所得税がかかりません。 - 会社のメリット:消費税の課税仕入れ
国内出張で支給する旅費や日当は、規程に基づいて「通常必要であると認められる部分」であれば、インボイス(領収書)がなくとも、帳簿への記載のみで消費税の仕入税額控除が認められます。
※「通常必要と認められる」金額の基準として、役職間のバランスが取れており、同業他社の水準と比べても妥当であることが求められます。