コミュニケーション能力というと、流暢に話すスキルや明るいキャラクターを想像される方が多いかもしれません。しかし、ビジネスの現場において課題を解決していくプロセスでは、自身のトークスキル以上に、相手の思考を整理する「聴く力」が重要になる場面が多々あります。相手をありのままに映し出す「全身鏡」のような役割を担い、問題の核心(センターピン)をともに探るためのヒアリングのアプローチについて。
和仁達也著「コンサルタントの言語化力」(かんき出版)を参考にして。
雄弁さよりも大切な、「聴く」という言語化の形
「言語化力」という言葉には、立て板に水のように話せるスキルというイメージが伴いがちです。
しかし、ビジネスにおいて求められる言語化力の一つに、自分がうまく話すことではなく、「相手の思考を言語化する力」があります。
人は自分が話すことに懸命になるあまり、相手の言葉を深く聴くことが難しくなる場合があります。
相手の話に意識を向け、「この人は何を考えているのか」を丁寧に汲み取ろうとする姿勢が、相手の頭の中を整理し、隠れた課題を言葉にしていくための第一歩となるようです。
指示やアドバイスから離れ、相手を映す「全身鏡」になる
相談を受けたりヒアリングを行ったりする際、私たちは無意識のうちに「こうした方がいい」と自分の意見を伝え、相手を導こうとしがちです。
しかし、多くの場合、人は自分の人生の「主人公」であり、大切な決断は自ら下したいと考えるものです。
一つのアプローチとして有力なスタンスとして、「相手を等身大に映す全身鏡」になるという姿勢です。
正解を教えたり説得したりするのではなく、相手の現状や悩み、感情の全体像をそのまま映し出し、「今、考えているのはこういうことでしょうか?」と、相手自身の気づきを促します。
| アプローチの違い | 役割 | 相手の反応の傾向 |
|---|---|---|
| 指示・アドバイス型 | 自分が主役の立ち位置になり、相手を導こうとする | 受け身になりやすく、根本的な納得感が得られにくい場合がある |
| 全身鏡(ヒアリング)型 | 相手を主役(主人公)とし、自分は伴走者に徹する | 自身の盲点に気づき、自ら問題を解決しようとする意識が芽生えやすい |
単に黙って話を聞くのではなく、適切な相づちや質問を交えながら、相手が自分自身と向き合いやすくなるような「鏡」としての役割を目指すことが大切です。
課題の核心である「センターピン」を見つけるための問いかけ
ボウリングで真ん中の1本(センターピン)を倒せば他のピンも連鎖して倒れるように、複雑に見えるビジネスの課題にも「ここを解決すれば状況が好転する」という核心が存在することがあります。
このセンターピンを見つけるためには、相手が大切にしている価値観を引き出すための、少しの工夫を取り入れた問いかけが効果的です。
ポイント1:クッション言葉で心理的なハードルを下げる
いきなり本質的な問いを投げかけると、相手は戸惑ってしまうかもしれません。
例えば、質問の冒頭に「ちなみに」と添えるだけで、雑談のようなやわらかい雰囲気になり、相手も答えやすくなる傾向があります。
語尾も「〜でしょうか?」など、問いただすような印象を与えない表現を選ぶと良いかもしれません。
ポイント2:「理由」ではなく「意味」を問う
例えば、赤字事業を続けている相手に対し「なぜ(どんな理由で)続けているのか?」と直接的に問うと、相手は防衛本能から「言い訳」を探してしまう可能性があります。
しかし、「どんな意味を持ちますか?」と尋ねることで、相手の奥底にある価値観や本音に触れやすくなります。
ポイント3:「ご自身にとって」という主語を明確にする
「この事業を続ける意味は何ですか?」とだけ聞くと、「取引先が困るから」など、第三者の視点で答えてしまうかもしれません。
「ご自身にとってどんな意味を持ちますか?」と問いかけることで、相手自身の考えや思いにフォーカスしやすくなります。
ポイント4:先回りして代弁せず、本人の言葉を待つ
相手が話し始めたときに、「つまり、〇〇ということですね」と先回りして代弁してしまうのは避けたほうがよいかもしれません。
大切な価値観こそ、相手自身の言葉で語ってもらうことに意味があります。
「あえてお聞きしたいのですが、それはどういう意味でしょうか?」とさらに深掘りしながら、相手から言葉が出てくるのを待つ姿勢が大切です。
結論
ヒアリングの目的は、必ずしも解決策を提示することだけではありません。
相手の人生の伴走者として「全身鏡」に徹し、表現を丁寧に練り上げた質問を通じて、相手のセンターピンを一緒に探り当てることも重要な役割です。
相手が鏡に映る自分自身の姿から「本当の課題」に気づけたとき、その人は再び自分の足で前へ進み始める力を取り戻せるのです。
