Geminiにアイデアを求めた時、「回答が1パターンで物足りない」「期待通りの優等生な答えは返ってくるがそこからの『もう一押し』がない」という場合に、「パーソナルコンテキスト」に“一文”を加えるだけで、AIが自動的に複数の異なる視点(例えば、王道案、別意見、そして前提を覆す代替案)を提示してくれるようになります。AIの回答を通じて「自分の思考を広げる」ための具体的な設定術と活用例について。
AIの回答が「物足りない」理由と「パーソナルコンテキスト」の可能性
Geminiのような生成AIに質問や相談をするとき、AIは指示された内容に対し、最も「正解」に近い、または最も一般的で「王道」な回答を一つ、提示しようと努めます。
これは非常に優秀な機能ですが、ブレインストーミングや企画立案の際には、その「無難さ」がかえって「物足りなさ」を感じる原因にもなります。
「もっと別の視点はないの?」「リスクを取る案は?」「そもそも、その前提って合ってる?」
こうした「思考の壁打ち」をAIと行うには、文脈を再度説明したり、視点を変えるよう細かく指示したりと、何度も追加でプロンプト(指示)を入力する必要がありました。
Geminiの「パーソナルコンテキスト」(カスタム指示)機能は、この手間を改善します。
これは、Geminiに対し、「あなたは、常にこういう振る舞いをしてください」とあらかじめルールを設定できる機能です。
いわば、Geminiの「デフォルトの思考様式」を、ユーザーの目的に合わせて上書きする強力な機能といえます。
ここに特定の指示文を書き込むことで、AIはあなたの指示(プロンプト)に対して、常に「王道の答え」だけでなく「それに対する別意見」、そして「前提自体を疑うような『水平思考』のプラン」という、常に3つの異なる視点を自動で提示する「最強のブレーン」にすることができます。
※水平思考とは、問題解決のために、既成の理論や枠組みにとらわれず、多様な角度から自由に発想する思考法のこと。
【設定例(パーソナルコンテキスト入力例)】
ひと通りの回答が終了した後、必ず「でも、本当にそうかな?」と言って、考え直して別意見も同じ程度の量で提案し、かつ、水平思考で考えた鋭いプランも出すこと。毎回の出力で必ず行います。本文と「でも、本当にそうかな?」文章との間には区切り線を入れて、本文ゾーンと本当にそうかな?ゾーンとの違いが分かるようにして。また、「でも、本当にそうかな?」の文章と水平思考プラン文章との間には、区切り線を入れて、同じくゾーンの違いが分かるようにして。
1つの指示が「3つの戦略」に
「長崎で、NYの『Milk Bar』のようなベイキングのお店を出たい」とGeminiに相談したところ、 この設定が適用されたAIは、以下のように”1粒で3度美味しい”回答を生成しました。
| 回答の種類 | 戦略タイトル | 概要 |
|---|---|---|
| ① 王道の回答 (正攻法) | 『Nagasaki Nostalgia confusion』 | NYの「懐かしくて新しい」コンセプトを、長崎の素材(カステラ、ミルクセーキ)で”翻訳”する戦略。 ・「カステラミルク・ソフトクリーム」など地元素材で商品を開発。 ・ポップアップストアで検証し、データ収集後に実店舗を展開する、手堅い王道プラン。 |
| ② 別意見 (「本当にそうかな?」) | 『The Traditional Destroyer (伝統の破壊者)』 | Milk Barの「ルールを破る精神性」だけを抽出する戦略。 ・あえて”カステラは、もう古い”と打ち出し、伝統を「解体・再構築」した(カステラ・アフォガート等)商品を開発。 ・あえて寺町など伝統的なエリアに”異物”として出店し、反発リスクを取りつつカルト的ブランドを目指す高リスク・高リターンなプラン。 |
| ③ 水平思考プラン (代替案) | 『ゴースト・ベイカリー戦略』 | 「店舗を持つ」という前提自体を疑う戦略。 ・実店舗を持たず「間借りキッチン」でオンライン受注生産に特化。 ・高単価な「Birthday Cake」を主力に据え、デリバリー体験やDIYキットでブランド体験を提供する、低リスクなプラン。 |
もしこの設定がなければ、おそらく①の「王道の回答」だけが提示されていたと思われます。
しかし、この設定によって、追加の指示なしで、「ハイリスクな別案(②)」と「低リスクな代替案(③)」という、全く異なる2つのプランも同時に手に入れることができました。
重要なのは、単に案が3つあることではなく、「正攻法」「高リスク高リターン」「低リスク」という、事業戦略上の異なるリスク・リターン軸で選択肢が提示されている点です。
これにより、リソースや目的に合わせ、最適な戦略を比較検討できるようになるのです。
Geminiを「アシスタント」から「思考を広げるパートナー」へ
この設定術の真価は、「企画立案」だけに留まらず、あらゆる知的生産活動において、私たちの「思考を広げる」強力な触媒として機能します。
例えば、以下のような場面でも、AIは自動的に3つの視点を提供してくれます。
- 文章作成で:
- ① 依頼の趣旨に沿った「丁寧な文章」
- ② 相手の反論を予測した「論理を補強する文章」
- ③ そもそもメールではなく電話すべき、といった「前提を疑う提案」
- 学習・調査で:
- ① ある事象に関する「一般的な解釈」
- ② それに対する「批判的な見解や弱点」
- ③ まったく別の分野との「意外な共通点や応用例」
- 日常の悩みで:
- ① 状況を改善する「現実的なアクションプラン」
- ② 共感し、気分を切り替える「感情的なアプローチ」
- ③ なぜそれを「悩み」と感じるのか、という「問題自体の再定義」
この設定がもたらす最大のメリット
- 思考の「枠」を強制的に広げる
私たちは無意識に「いつものパターン」で考えがちです。Geminiが「別意見」と「水平思考」を提示し続けることで、自分の「当たり前」を疑うきっかけを自動的に得られます。 - 時間の節約(壁打ちの自動化)
「他の案は?」「別の視点では?」と何度も往復していたプロンプトのラリーが不要になり、最初の1回で深いレベルの議論に入れます。 - アイデアの質が向上する
王道案、対抗案、奇策の3つを比較検討することで、①の王道案の弱点に気づいたり、③の案と①の案を組み合わせる新しいアイデアが生まれたりします。
まとめ
Geminiは、指示されたことを忠実にこなす「アシスタント」として使うだけでは非常にもったいない存在です。
「パーソナルコンテキスト」に一文を仕込むだけで、Geminiは、指示に対し、常に「王道」「別意見」「水平思考」という3つのカードを切ってくれる、まるで3人の専門家からなる”最強のチーム”のような存在に変わります。
Geminiが、ユーザーに「異議を唱えること」を恐れず、時には指示の「前提」すら疑い、より良い提案をしてくれる「思考のパートナー」になるのです。
