【経理業務におけるAI活用を考える】話題の「生成AI」にも苦手なことが?AIの得意・不得意と適材適所を考える

近年、目覚ましい進化を遂げるAIは、経理業務のあり方を大きく変えようとしています。一方で、創造性豊かな「生成AI」の性質と、1円の狂いも許されない経理業務の性質とを照らし合わせると、どこか違和感を覚える方も多いのではとも思います。

目次

アイデアと対話の達人。”生成AI”が得意なこと

話題の「生成AI」について。

生成AIは、まるで人間のように文章を作ったり、要約したり、アイデアを出したりと、創造性や文脈理解が求められる曖昧な分野でその真価を発揮します。

例えば、経理業務においては、以下のような場面で強力なパートナーとなってくれるでしょう。

  • メールや報告書の文章作成
    取引先への丁寧な依頼メールや、経営層への報告書のドラフト作成
  • 業務改善のアイデア出し
    改善の問いに対する壁打ち相手
  • 情報の要約と解説
    ドキュメントを要約させ、ポイントを掴む
  • マニュアル作成の補助
    複雑な会計ソフトの操作手順の文章を、新人向けに分かりやすく書き直す

このように、0から何かを生み出したり、複雑な情報を整理したりする場面で、生成AIは私たちの思考をサポートし、業務の質とスピードを向上させてくれます。

正確性と反復作業のプロ。経理の現場を支える「もう一つのAI」

一方で、生成AIには意外な”苦手分野”も存在していると感じます。

それは、1円の狂いも許されない精密な計算や、ルールに則った地道な反復作業です。

創造性豊かであるがゆえに、時として事実に基づかない情報を生成してしまう(ハルシネーション)可能性がゼロではなく、それは、経理業務を任せたい人にとって不安を抱かせますし、今のところ現実にはそのようなことが起こりがちです。

考えてみたいことに、”生成AIだけがAIではない”という重要な視点があります。

経理業務の根幹である正確性が求められる処理においては、むしろ生成AIとは別の特性を持つAIたち(特化型AI(Narrow AI)=機械学習型AIなど)が活躍すると考えられます。

これらは、決められた任務をミスなく高速に実行する”実行部隊”のような存在です。具体的には、以下のような技術が挙げられます。

AI技術の種類得意な業務(役割)具体例
AI-OCR高精度な文字認識紙の請求書やレシートをスキャンし、取引日・金額・支払先といった必要な項目を正確にテキストデータへ変換する。
機械学習パターン学習と照合過去のデータを学習し、入金データと請求データを自動で照合。
また、勘定科目を推測し、仕訳作業や消込作業を自動化する。
異常検知AI通常とは異なるパターンの発見大量の取引データから「いつものパターン」を学習し、二重請求や不正の可能性がある異常な取引を検知して警告する。
規定適合判別AI規定・ルールとの照合申請された経費レシートが、企業の規定(交際費の上限、認められない品目など)に違反していないかを自動チェックする。
数値予測AI将来の数値予測過去の売上データや季節変動、市場トレンドを分析し、将来のキャッシュフローや予算策定の基礎となる数値を予測する。

これらのAIは、人間が行うと時間もかかり、ミスも発生しがちな「作業」の部分を肩代わりしてくれます。

請求書のデータ化から仕訳、さらには不正のチェックや将来予測まで、経理の現場を最前線で支える、頼もしい存在と言えるでしょう。

”適材適所”を考えることで、可能性を最大化する

ここまで見てきた様々なAIをどう活かせば良いのか。

鍵は、まず私たち自身が「経理業務」の性質を深く理解し、日々の業務フローに落とし込んで考えてみることにあるのだろうと考えています。

どの業務が「創造性」や「対話」を求め、どの業務が「正確な反復作業」を求めるのか。

業務を一つひとつ分解して見ることで、「AIの適材適所」が自ずと見えてきそうです。

すなわち、AIと一括りにせず、それぞれの特性を理解することが重要です。

  • 生成AI:創造的なアイデア出しや対話で思考をサポートする。
  • 特化AI:正確なデータ入力や反復処理で作業を自動化する。

請求書の読み取りや仕訳入力といった正確性が求められる業務は”実行部隊”に任せ、それによって生まれた時間で、人間は”管理職”としての生成AIを活用しつつ経営分析や改善提案といったより付加価値の高い業務に集中する。

実際に、経理分野のAIに詳しい先進的な会社など(例えばLayerX社など)も、”実行部隊”としてのAI技術の役割と意義を重視しつつトータルでのAI活用を考えています。

必要なのは、それぞれの業務の特性を見極め、「この業務はこのAIに任せよう」と采配を振るうプロデューサーのような視点を持つことなのかもしれません。

「AIの適材適所」を考えることこそ、未来の経理業務をデザインする第一歩となりそうです。

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