事業拡大に伴い人材の確保を考える際、「雇用」ではなく「業務委託」という選択肢が注目されています。外注費として計上することで節税に繋がるなど、会社にとって様々なメリットがある一方で、その運用には大きな落とし穴も存在します。
業務委託契約がもたらす4つのメリット
業務委託を選択する企業が増えている背景には、主に以下の4つのメリットがあります。
労働基準法など雇用関連リスクの回避
従業員を雇用する場合、企業は労働基準法をはじめとする各種法令を遵守する義務を負います。
残業代の支払いや有給休暇の管理など、その責任は決して軽くありません。
一方、対等な事業者間の契約である業務委託では、これらの雇用関連法規の適用を受けないため、企業側の労務リスクを大幅に軽減できます。
社会保険料の会社負担分の削減
従業員を雇用すると、企業は厚生年金や健康保険といった社会保険料の約半分を負担する必要があり、この負担は企業の資金繰りにおいて大きなウェイトを占めます。
業務委託契約の場合、委託先は個人事業主として自身で国民年金や国民健康保険に加入するため、企業側の社会保険料負担は発生しません。
消費税の節税効果
従業員に支払う給与は、消費税の計算上、課税対象外(不課税取引)です。
これに対し、業務委託先に支払う外注費は原則として「課税仕入」に該当します。
これにより、会社が納める消費税額を計算する際に、売上にかかる消費税から外注費にかかる消費税を差し引くことができます。
源泉徴収の計算がシンプルになる
給与の源泉徴収税額は、社会保険料を控除した後の金額や扶養家族の人数に応じて、複雑な税額表を用いて算出します。
一方、業務委託報酬(デザイン料や原稿料など、一部の源泉徴収対象となる報酬の場合)の源泉徴収税額は、原則として支払金額に対し一律10.21%(100万円を超える部分は20.42%)を乗じるだけで計算でき、経理事務の簡素化に繋がります。
最大の落とし穴 ―「名ばかり委託」と判断されるリスク
前述の通り、業務委託は企業にとって多くのメリットがあります。
しかし、そのメリットだけを見て安易に導入すると、税務調査で「実態は雇用である(名ばかり委託)」と判断され、手痛いペナルティを受けるという重大な落とし穴があります。
税務署は、契約書の名称が「業務委託契約」であっても、その中身、つまり働き方の実態を最も重視します。
もし実態が雇用関係と変わらなければ、それは「給与」と認定され、過去に遡って消費税や源泉所得税の追徴課税が発生する可能性があります。
「雇用」か「業務委託」か?判断の目安
契約の実態を判断する上で、明確な法的基準はありませんが、実務上は以下の点が総合的に考慮されます。
| 判断項目 | 雇用契約性 | 業務委託契約性 |
|---|---|---|
| 業務遂行の拒否権 | 会社からの業務依頼を断れない | 業務内容に応じて受託を判断できる |
| 会社への専属性 | 他社の業務を行うことが制限される | 複数の会社と契約・業務が可能 |
| 業務の指揮監督 | 業務の進め方を細かく指示される | 裁量権があり、自身の判断で業務を進める |
| 勤務場所の指定 | オフィスなど特定の場所での勤務が義務 | 原則、場所の指定はない |
| 勤務時間の拘束 | 始業・終業時刻などが決められている | 原則、時間の拘束はない |
| 報酬の算定根拠 | 時間給や月給など、時間で計算される | 成果物ごと、案件ごとに報酬が設定される |
総合的に見て「会社の指揮監督下にある」と判断される要素が強いほど、リスクは高まります。
業務委託を適切に活用するために
業務委託契約は、正しく運用すれば、事業の成長を加速させる有効な手段です。
しかし、そのメリットの裏側には「実態と契約内容の乖離」という大きなリスクが潜んでいます。
節税や社会保険料負担の軽減といったメリットだけを目的とし、従業員を形式的に業務委託へ切り替えるようなことは絶対に避けるべきであり、重要なのは、契約内容と働き方の実態を一致させることであると考えられます。
業務委託という形態を導入する際は、
- 委託する業務内容を明確に切り分ける
- 相手方が事業者として独立して業務を遂行できる環境を整える
- 報酬は成果物に対して支払う形を基本とする
といった点を徹底し、契約書を作成するだけでなく、日々の運用においても「雇用」と誤解されるような指揮監督を行わないよう注意が必要です。
