ひとり社長(個人事業主含む)は、経費の考え方がサラリーマン時代とは違います。そのことから、経営における税金計算の基本的な考え方まで。
サラリーマンとは全く違う!ひとり社長(個人事業主含む)の「経費」の本当の意味
独立してまず理解すべき最も重要な違いの一つが、「経費(損金)」という言葉の本当の意味です。
サラリーマン時代と同じ感覚でいると、気づかぬうちに会社の現金を危険なレベルまで減らしてしまう可能性があります。
- サラリーマンの「経費」
「経費で落ちる」とは、文字通り「会社が支出を100%精算してくれる」ことを意味します。
例えば10万円のパソコンの経費精算をすれば、自分のお財布は一切痛みません。
これはあくまで所属している会社のルール上の話です。 - ひとり社長の「経費」
ひとり社長にとって「経費で落とせる」とは、”税金の計算上、経費として計上できる”という意味に過ぎません。
重要なのは、その支払いはまぎれもなく自分自身のお金から出ていくという事実です。
税金は確かに減りますが、それ以上に手元に残る現金は確実に減ります。
例えば、経費として10万円の支出をしたとします。これにより納める税金が3万円安くなったとしても、あなたのお金は差し引きで7万円も減ってしまっているのです。
この感覚の違いを理解せず、「節税になるから」という理由だけで不要な支出を重ねることは会社経営において非常に危険な行為です。
「節税」「申告漏れ」「租税回避行為」「脱税」の違い
「節税」と「脱税」とは全くの別物です。
税務調査で思わぬ指摘を受けないためにも、これらの違いを正しく整理しておきたいところです。
| 項目 | 内容 | イメージ |
|---|---|---|
| 節税 | 税法のルールに則って、合法的に税負担を軽減する行為。 各種控除や非課税制度の活用などがこれにあたります。 | ホワイト |
| 申告漏れ | 売上や経費の計上ミス、計算誤り、税法の解釈の違いなど、 故意ではないミスによって納税額が少なくなること。 | ミス |
| 租税回避行為 | 合法ではあるものの、通常の商取引ではあり得ないような 異常な取引形態を利用して、税負担を減らす行為。 | グレー |
| 脱税 | 二重帳簿の作成、売上の意図的な除外、架空経費の計上など、 故意に(意図的に)税金を逃れようとする違法行為。 | ブラック |
”お金を使う(なくなる)節税”5つの事例
一般的に「節税」と言われるものの多くは、現金支出を伴う「お金がなくなる節税」であり、その仕組みを理解しながら十分に検討する必要があります。
商品券の大量購入
商品券や切手、収入印紙などは「購入しただけ」では経費にならず、実際に「使用」してはじめて経費として計上できます。
ということは、期中に大量に購入しても、未使用のまま期末を迎えた商品券は、経費にならないということになります。
さらに、その目的によって税務上の扱いが次のように変わるため、さらに注意が必要です。
- 取引先に配布 → 接待交際費
- 従業員に配布 → 給与(源泉徴収が必要)
- 社長がプライベートで使用 → 経費にならない
”消耗品”節税の特例
事務用品や作業用消耗品などについては、以下の要件をすべて満たす場合は、購入した年度に全額を経費として計上できる特例があります。
- 毎年おおむね一定数量を購入するものであること
- 毎年経常的に消費するものであること
- この処理方法を継続して適用すること
「4年落ちの高級外車」は本当にお得なのかどうか?
「4年落ちの高級外車は節税になる」とよく言われます。
これは中古資産の”減価償却”の仕組みを利用したものです。
まず、前提として、パソコンや車、設備などの高額な固定資産は、購入時に一括で経費にすることはできない点はよく知っておくべきで、減価償却(分割で経費にしていく仕組み)という形を取ることになります。
このうえで、中古資産についての減価償却の計算については、普通乗用車の法定耐用年数は6年ですが、4年落ちの中古車の場合には残りの耐用年数が2年となります。
定率法であれば、購入初年度にほぼ全額を経費にできることになります。
ただし、これはあくまで「初年度の」節税効果が高いだけで、経費にできる総額は新車でも中古車でも変わりません。
むしろ、古い車は修理費用がかさむリスクも考慮すべきです。
4. 減価償却の少額特例
減価償却には特例があり、取得価額が30万円未満の資産であれば、一定の要件(青色申告など)を満たすことで、一括で経費計上することができます(上限:年間300万円)。
5. 特別償却&税額控除
大規模な設備投資を行う際に検討したいのが、「特別償却」と「税額控除」という特例制度です。
- 特別償却:
通常の減価償却費に上乗せして経費計上できる制度。将来の償却費を前倒しする”課税の繰延”です。 - 税額控除:
算出した法人税額から、投資額の一定割合を直接差し引ける制度。こちらは”永久的な節税”効果があります。
これらの制度の具体例として、以下があります。
・ 中小企業投資促進税制
・中小企業経営強化税制 など
キャッシュを増やすことが目的、節税は手段
様々な節税策を紹介してきましたが、会社経営においては、”節税が全てではない”という点です。
節税のために不要なものを買ったり、無理な設備投資をしたりして、会社のキャッシュを減らしてしまっては本末転倒です。
まずは自社の経営を円滑に進めて利益を出し、会社の財務状況をしっかりと把握したうえで、必要な投資や経費支出の一環として節税策を検討するという位置づけや順番を誤らないようにすることが重要と考えられます。
