事業の成長ステージにおいて、金融機関からの融資は強力なエンジンとなる重要なものですが、”どの金融機関とどう付き合えばいいのか”・”どうすれば審査に通りやすくなるのか”と悩む経営者は少なくなく、目安を知っておくことで付き合い方のヒントになると考えられます。
水野剛志著「飲食店経営で成功するための「お金」のことがわかる本」(日本実業出版社)を参考として。
パートナー選びが最重要!事業ステージに合わせた金融機関の選び方
金融機関といってもその種類や特徴は様々で、会社の状況や事業のステージに合わせて最適なパートナーを選ぶことが融資戦略の第一歩となります。
金融機関の種類と付き合うタイミング
主な種類 | 付き合うタイミングの目安 | 特徴と注意点 |
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日本政策金融公庫など | 創業時 | 【特徴】 ・新規開業者や小規模事業者への融資に非常に積極的 ・無担保 ・無保証の制度が充実している 【注意点】 ・通帳は作れないため、融資の受け皿となる民間金融機関の口座が必要 |
信用金庫、信用組合など | 開業後すぐ 〜成長期 | 【特徴】 ・地域密着で地元の事業者への支援に前向き ・きめ細やかなフォローが期待でき、良き相談相手となる 【注意点】 ・メガバンク等に比べると資金調達力は劣るため、融資額や金利条件がやや不利になる場合がある |
地方銀行など | 開業後すぐ 〜成長期 ~事業拡大期 | 【特徴】 ・資金力が豊富で、多額の融資にも対応可能 ・支店数が多く利便性が高い 【注意点】 ・個人事業や1店舗のみといった小規模事業者へのプロパー融資には消極的 ・担当者の異動が多く、関係性が希薄になりがち |
個人事業や創業間もない会社の場合、まずは日本政策金融公庫からの創業融資を目指し、同時に事業所の近くにある地方銀行、信用金庫・信用組合に口座を開設して、日々の取引実績を作っていくのが王道パターンとなります。
事業が成長し、より大きな資金調達が必要になった段階で、より大きな銀行との取引を検討していくと良いと考えられます。
融資審査の仕組みと評価を高める3つの財務指標
金融機関は、融資の可否や金利を決めるために「格付け」という内部的な評価基準を持っています。
金融機関の「格付け」とは?
格付けは、主に決算書の内容を基に融資先を区分するもので、この評価によって金融機関の対応は大きく変わります。
債務者区分 | 銀行の融資スタンス | 概要 |
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正常先 | 積極推進〜推進 | 業況が良好で、財務内容にも問題がない融資先。 |
要注意先 | 現状維持 | 業績不振や延滞など、何らかの問題を抱える融資先。 |
破綻懸念先 | 消極 | 経営難にあり、事業改善の見通しが立たない融資先。 |
実質破綻先 | 取引解消 | 実質的に営業を行っていないと認められる融資先。 |
破綻先 | 取引解消 | 破産など法的手続きが開始されている融資先。 |
融資を受けるためには、少なくとも「要注意先」以上、できれば「正常先」の格付けを得る必要があります。
この格付けの約8割は決算書の数値で自動的に決まってしまうといわれているため、日頃から決算書の内容を良くしておくことが極めて重要になってきます。
金融機関が融資したくなる会社の3つのポイント
まず、金融機関は、「利益が出ている会社」よりも「現預金が潤沢で絶対に潰れない会社」にお金を貸したいと考えます。
これは、利益が赤字でも現預金があれば会社は存続できますが、たとえ黒字でも現預金が尽きれば倒産してしまうからです。
融資を受けやすい「潰れない会社」になるためには、以下の3つのポイントを意識しておきたいところです。
- 現金及び預金
会社の安全性を最も分かりやすく示す指標です。
月商の2〜3ヶ月分の現預金があれば、財務的に優秀と評価されます。
少なくとも1ヶ月分は確保したいところです。
融資を受けた資金であっても、手元の現預金は多いほど安全性が高いと見なされます。 - 自己資本
返済不要の”会社が蓄積してきた利益”の合計です。
総資産に占める自己資本の割合(自己資本比率)は30%以上を目指したいところです。
増やすためには、増資をするか、税金をしっかり納めて利益を会社に残すしかないということになります。 - 借入金
借入金が月商の何か月分かを示す「借入金月商倍率」を意識しましょう。
3ヶ月以内が適正値、6ヶ月を超えると過大と判断され、新規融資が難しくなります。
ただ、「役員借入金」に関しては実質的に資本とみなしてくれることがあるため、通常の銀行借入金とは勘定科目を分けて表示しておくほうがよいと考えられます。
主な融資タイプと信頼関係の築き方
主な融資タイプ
融資の申し込み時には、必ず「資金の使いみち(資金使途)」を聞かれます。
これは大きく2種類に分かれており、状況に応じ、適切な融資タイプで申し込みをしたいところです。
資金使途 | 概要 | 具体例 | 返済期間 |
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設備資金 | 店舗や機械など、資産となる設備を購入するための資金 | ・不動産の初期費用 ・内装工事費 ・厨房機器、車両など | 比較的長期 (原則15年以内、実質10年以内) |
運転資金 | 事業を円滑に回すための日々の経費に充てる資金 | ・食材などの仕入れ代 ・人件費 ・家賃、水道光熱費 | 比較的短期 (原則7年以内) |
「プロパー融資」と「保証協会付き融資」
- プロパー融資
金融機関が100%リスクを負って直接融資する方法。
金融機関からの信用が厚くなければ利用は難しい。 - 保証協会付き融資
信用保証協会が公的な保証人となる融資。
万が一返済不能になった場合、保証協会が金融機関に代位弁済します。
これにより金融機関のリスクが減るため、創業者や中小企業でも融資を受けやすくなりますが、借主は保証協会に保証料(借入額の0.5〜1.5%程度)を支払う必要があります。
金融機関は事業を成長させるパートナー
最終的に融資判断を左右するのは”経営者自身への信頼”です。
決算書の内容はもちろん重要ながら、経営者の人柄や事業への情熱が、”この会社を応援したい”という担当者の気持ちを動かすことも少なくありません。
金融機関と日頃からコミュニケーションを取って良好な関係を築きつつ、健全な財務体質を作る努力を続けることが、ひいては金融機関を事業成長の力強いパートナーにしていくことへとつながっていくと考えられます。