ChatGPTなどの生成AIとどのように向き合うか、スタンスが難しいところです。
2024年10月1日段階の今、感じていること。
ChatGPTの登場と導入でつまづいた1年前
2022年11月に、OpenAI社がGPT3.5を搭載した「ChatGPT」を公開し、生成AIがとても話題になりました。
そして、それを起点とし、さらなる進化と様々な生成AIのバリエーションが非常に速いスピードで進んでいるところです。
当事務所では、当初2022年11月段階ではなんだか対岸の火事を見ているような心持ちで、どんな距離感で受け止めればよいか分からずに、ニュースで知っていた程度でした。
ただ、その後、2023年10月20日の「MoneyForwardの士業サミット2023」でのセッション「AIと士業はどう向き合っているか」(株式会社マネーフォワードの辻庸介社長をファシリテーターとして、サン共同税理士法人の朝倉歩税理士、株式会社the guildの深津貴之社長、株式会社Kaizen Platformの須藤憲司社長との対談)をアーカイブ動画で見て、自分ごととして興味を持ち、身近に感じるようになってきました。
※士業サミット2023の開催レポートはこちら
その後すぐに、ChatGPTの有料プランに登録し、事務所内で色々と使ってみたものの、、
生成AIを使い始めた初期のつまづきとしてよく語られる、最初に”検索”として使ってしまってハルシネーション(ChatGPTが情報不足により事実に基づかない情報を生成してしまう現象)が多発してしまって使い方・使い道が分からなくなり、有料プランを解約し、その後は無料プランのChatGPTやGemini(旧Bard)をぼちぼちと使う程度の状態へと移行しまっていました。
2年後の今、情報が豊富であることはビハインドのメリット
税理士業界の繁忙期である冬春が過ぎて2024年の夏になった頃、再び生成AIに大きく興味を持つきっかけが2つほどありました。
1つ目は、九州北部税理士会が本格的な生成AIの勉強会を企画してくださり、それに参加するようになったこと。
2つ目は、戸村涼子税理士の生成AIパスポート試験のYoutube動画を見て、素養として受験してみようと思ったこと。
ChatGPTの登場から2年経ちましたし、乗り遅れた感はあるものの、逆に考えると、ネットやYoutubeなどにたくさんの情報や活用事例などが充実したため、情報を得やすい・取り組みやすい環境になっているなと感じます。
YoutubeやXだけでも有用な情報や活用事例が溢れており、情報収集には実にこと欠くことがありません。
特に、株式会社the guild深津貴之さんのお話などは、例えも多く、説明が分かりやすく、実際のプロンプト(生成AIへの指示文)の話から、社会の大枠な方向性に至るまで、とても参考にになります。
他にも、野口竜司さんの動画や、その他の様々なYoutuberの方の動画は見てみると、実に目からウロコなものばかりです。
生成AIを使ってみて、感じているメリット・可能性
2024年10月1日時点で、生成AIを色々と使ってみて、感じているメリットや可能性について。
ちなみに、今、当事務所で使っている状況(役割配置)は以下。
悩みごとの50%くらいは解決できるので楽になった
使ってみての意外なこと。
自分自身、割と色々なことを悩みがちな性格で、自分でも持て余し、時々落ち込んでしまったりしていました。
ただ、悩みの半分くらいは、ChatGPTなどの生成AIに聞いてみると、明確に課題や対処法や方向性が見えたりするものばかりということが分かり、悩みごとの50%くらいは解決でき、精神的に楽になったなぁと感じています。
残りの半分は、”なんだかモヤモヤしていて言語化できないこと”であったり気分的なものであったりするので、今のところ生成AIでは解決できなさそうでありますが、、
分かったのは、”人の悩みの性質は平等ではないということ”。
ひとことで悩みといっても、糸口があればすぐに解決できるものもあったり、あるいは、深いものであったり。
このうち、糸口があればすぐに解決できるものであれば、その糸口に生成AIがなってくれるのであれば、それもひとつの解決方法かな、とメリットを感じています。
迷いや躊躇が減る分、行動が加速している
”なんとなくできなさそう”という障壁がありました。
自分の場合で言うと、例えば、コーディングであったり、関数であったり、イラストであったり、デザインであったり、専門分野に直接関係しないけれど知っておかなければいけないとっつきにくい分野の情報や行政文書であったり、あるいは、リスクや盲点が気になって踏み出せずにいることであったり。
これらすべて、ほとんどの部分を生成AIで解決することができるようになってきています。
もちろん、よりしっかりとした成果を出そうと思うと、引き続き人間がしっかりと努力して深堀りして考える必要はあるように思います。
しかしながら、これまで0点が当然だったものが、30~60点くらいは取れるようになってきた状況から、可能性の広がりを感じることができるようになり、そこに迷いや躊躇がなくなり、行動が加速しています。
例えば、これまで、コード(GAS)は取っつきづらくて敬遠していたのですが、GoogleDrive内のPDFタイトルをテキストでリストアップしたいときがあり、これまでであれば人力でやってしまっていたところが、ChatGPTに相談してみると、GASの活用を提案してくれました。
考えてくれたコードを実際に使ってみて、エラーが出たところはスクショでChatGPTにクリア方法を聞きながら対応したところ、初めてコード(GAS)を使って効率よく対処することができました。
一般論や逆張りを知ることで、考え方の軸足が取りやすくなった
ChatGPTなどの生成AIは、指示文(プロンプト)に対する確率論でテキストを生成しており、プロンプトの内容が一般的なものであると、一般的なアイデアを生成してくれます。
これだけでも一般論的なアイデアを網羅的に知ることができ、抜け漏れがないか・盲点はないかなどの確認ができてとても重宝するのですが、これを見ると逆張りしたいポイントも知ることもできます。
(あるいは生成AIに一般論を出し尽くさせて、逆張りのアイデアを聞くことも可能です。)
一般論的に進めたいとき、逆張り的に進めたいとき。
特に経営判断においては、上記の判断は重要になってきますし、その軸足の取り方を知るきっかけを得ることができるのは大きいなと感じています。
自社環境の既存ソフトばかりがあるなかでは使えないのでは、とは思わなくなった
生成AIの活用を考えるとき、テキストによるやり取りやアイデア出しをするほか、自社環境ですでに使っているツール類があるなかでどのように活用すればよいのかが分からずにいました。
ただ、GASやPythonなどのコードを使えば、SaaSなどのクラウドツール同士であればつなぐこともできる可能性も見えてきますし、そうでなくとも、効率化アイデアが、生成AIに相談するなかで色々と生まれてきそうと考えるようになっています。
ハルシネーションを極限まで抑える方法もあることが分かった
生成AIで怖いのはやはりハルシネーション(ChatGPTが情報不足により事実に基づかない情報を生成してしまう現象)で、”生成AIのもっともらしい嘘をどのように見抜くことができるか”に対する厄介さはあります。
特に、税務業務にはまだ怖くて使い道は限定的と感じます(お客様の全体の財務情報などは怖くて到底渡すことはできませんし。)。
ただ、ハルシネーションそのものについては、プロンプト(指示文)に、「分からないときは分からないと返答して」と添えることでも抑えることはできます。
また、ハルシネーションを極限まで抑えつつ、また、そのリスクを回避しながは専門分野に対する調査研究を行っていくツールとしては、「NotebookLM」(リソースを限定し、AIに分析してもらうツール)に活用価値を感じており、自身の専門分野にはこれが相棒になってくれそうに感じています。
お客様との壁打ちの相棒になってくれる→発展性を感じる
税理士として顧問契約していると、税務以外の経営相談は多岐に渡ります。
他の専門分野の質問に関しては、初動以外はそれぞれの専門家に振っていくという方針は不変にはなりそうですが、アイデア出しなど(例えば、売上を上げていくための行動の選択肢など)にはうまく使うことができそうに感じています。
また、マーケティング分析など初動の専門知識が不足している分野であったとしても、教科書的な体系が存在している分野であれば、生成AIの得意分野であるので、初動対応の強化策として生成AIを活用することができそうに感じています(それでお客様がより専門的に深めていきたい心持ちになれば、各専門家へと繋げることもできる。)。
このように、お客様対応の自分の専門分野以外の初動部分を強化することにより、お客様様の幅広い・より深い経営のサポートができるような可能性・発展性を感じることができています。
生成AIとの向き合い方(2024年10月時点)
生成AIとどう向き合うかは難しい問題ですし、まだモラルやガイドラインはできていない状況ではあるように思います(ここも、おおむね3年程度で一応のモラルやガイドラインはできるであろうと考える専門家もいるようです。)。
生成AIを使うことで、人間は考えなくてよくなり、退化するのではないかと懸念する意見もあります。
しかしながら、実際に生成AIを使ってみて思うことは、考えなくてよくなるわけではないということです。
- 当面は、ファクトチェック(正しいかどうか)が重要な課題として存在し続けるということ
※税務や財務など人間にとって命の次に大事なお金を扱う専門分野においては特に - 権利義務の主体は人間=責任は人間に帰属する、という事実は変わらず、人間が関与するという事実(人間がどうしたいか・何を選ぶか・責任が取れるか)は変わらないということ
文明の利器の出現は初めてではないという事実
長い歴史で見てみると、人間にとって、文明の利器の出現は特に初めてではありません。
スマホ、インターネット、PC、ワープロ、家電製品、車、蒸気機関、蒸気船、もっと遡ってみると、鉄砲、鉄など、人間は道具を使うことによって生きてきたといわれています。
いずれの時代も、使うことによって何かがだめになるのではないかという懸念もありつつも(スマホやネットなどは新しい分、現在進行系で社会問題は進行中ですが)、便利なもの(文明の利器)の進展や流れは止まりようがない傾向があります。
例えば、弓や刀を長期間に鍛錬して使えてこそ武士であると考えてみても、足軽が扱う鉄砲にはかなわなくなってしまい、明治後には段々と弓や刀という戦闘手段は限定的なものになっていったとおり、やはり文明の利器の進展は止められないところがあります。
この流れが分かりにくいところとしては、白兵戦であれば刀の扱いが得意な方が勝つという意味で残り続けるわけですし、限定的であっても残り続けるという点。
車が登場し、馬車や籠や徒歩での移動は少なくなってはいるものの、なくなったわけでもありません。
人間にできることから逆算し、最適な役割分担を考える
- 当面は、ファクトチェック(正しいかどうか)が重要な課題として存在し続けるということ
※税務や財務など人間にとって命の次に大事なお金を扱う専門分野においては特に - 生成AIは、物理空間までは把握できない/味覚嗅覚触覚は備わっていない
- 権利義務の主体は人間=責任は人間に帰属する、という事実は変わらず、人間が関与するという事実(人間がどうしたいか・何を選ぶか・責任が取れるか)は変わらないということ
これらから考えられる”人間にできること”として、あくまで権利義務の主体は人間である限り、また、物理空間を含めた全体空間が人間の生きる空間であってより快適に便利になるようにと求める限り、
あくまで、何をどうしたいか・何が疑問であるか・何が課題であるかなどの「問いを立てる」のは人間であり、「問いを立てる力」が求められると考えられます。
例えば、店舗の売上をどう伸ばせばよいかと考えるとき、単純に生成AIに聞いてみても解決にはならないと考えられます。
生成AIは、物理空間を含めた全体を人間の五感・感性・感覚として正確に捉えることができず、よって前提や課題を正確に捉えることができないことから、その次工程をどれだけ速く正確に処理したとしても、正しい結果を生む可能性は低くなるということになります。
あくまで、人間が、実際の店舗に行ってみて感じること・お客様目線で考えてみることを起点とし、”問いを立てる”ことではじめて、その後の工程の生成AIなどの活用などによって加速度的に検討を進めることができ、実際の解決へと繋がっていくものと考えられます。
また、生成AIが様々に処理・提案してくれる選択肢のうち、何がよいのかは、何が人間にとって心地よいかで決める必要があります。
ともなって、決めたことの責任も人間に属することになります。
※視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚を正確に捉えるテクノロジーが進展する可能性もあるので、これも変わるかもしれませんが、、