経営層やリーダーが陥りがちな「現場からの乖離」を防ぎ、顧客の真の姿を知るための視点について探ります。事業を再成長させるヒントは、データの中だけではなく、意外なほど身近な場所にあるのかもしれません。
ジョン・スポールストラ著「エスキモーに氷を売る」(フォレスト出版)を参考にして。
浮き世離れの罠と「エド・ゲルスソープのルール」
事業で一定の成果を上げ、役職が高くなっていくと、周囲の配慮によって知らず知らずのうちに顧客の日常から遠ざかってしまうことがあります。
著者が提唱する「エド・ゲルスソープのルール」は、あえて自分を一般大衆の中に置くことで、この「浮き世離れ」を防ぐというものです。
かつて、ジレット社の社長を務めたエド・ゲルスソープ氏は、運転手付きの車が用意されていたにもかかわらず、毎日バスで通勤していました。
その理由は、エグゼクティヴの中に閉じこもるのではなく、自社の商品を買う一般の人々を観察し、その雰囲気を「感じ」とる必要があったからです。
現場の感触を失うリスクを避けるために、現在の状況が以下のようになっていないか、振り返ってみるのも一つの方法かもしれません。
| 状況 | 顧客の「感じ」を掴みづらくなる要因 |
|---|---|
| 専用のボックス席や特等席での観戦・観覧 | 観客の声が直接聞こえにくく、一般の顧客が経験している不便さに気づけない場合があります。 |
| 優先駐車場や各種特典の利用 | 駐車場を探す苦労や、自腹で商品を購入する際の細かな心理的なハードルを忘れてしまう可能性があります。 |
| 報告書やデータの検討のみに終始する | 数字は正確に把握できても、顧客が新商品に示したリアルな「表情」までは見えてこないかもしれません。 |
顧客の「生の声」と「痛み」を直接体験する工夫
著者は、ニュージャージー・ネッツの社長時代、あえて「安い2階席の最前列」に座り、ファンの反応を直接肌で感じるようにしたそうです。
事業を再始動(ジャンプ・スタート)させるためには、顧客が抱く喜びだけでなく、不便さや「痛み」をリーダー自らが体験することが大切だといえます。
具体的に、現場感覚を取り戻すためのアクションとして、以下のような工夫が挙げられます。
- 自分の電話には自分で出る
秘書による「ふるい分け」をやめ、直接電話に応対することで、顧客や周囲との壁を取り払い、率直な意見を直接受け取る機会を作ります。 - 手強い苦情を自ら引き受ける
不満を抱く顧客は、何が間違っているかを率直に教えてくれる貴重な情報源になり得ます。直接対話することで、改善のヒントを深く理解できるかもしれません。 - 自社の商品を身銭を切って買う
顧客と同じ条件で購入・利用してみることで、サービスの細かな欠点や、実際に「支払う価値」があるかどうかを再確認する機会になります。 - あえて不便な導線を試してみる
例えば、混雑する駐車場から会場まで歩いたり、一般の列に並んで飲食物を買ったりすることで、顧客がどこでストレスを感じているかを肌身で知ることができます。
こうした一見「非効率」に見える行動が、机上の空論ではない、血の通った事業施策を生む原動力になると考えられます。
事業成長の源泉は現場の「フィーリング」にある
ジャンプ・スタート・マーケティングは、緻密な楽譜通りに演奏するシンフォニーというよりは、その場の即興や感性を大切にする「ジャズ」に近いものだと言えるでしょう。
もちろん、データや市場リサーチは重要な要素ですが、それだけに判断を委ねてしまうと、顧客が本当に求めている「感じ(フィーリング)」を見失ってしまう懸念があります。
現場に足を運び、自ら顧客と同じ空気を吸うことで得られる感覚こそが、事業を前進させるための革新的なアイディアを生む土壌になります。
