価格競争の渦中から抜け出す鍵は、単なる「質の向上」や「特典の追加」ではないといえます。なぜなら、真の価値とは「相手にどれだけの変化をもたらしたか」という変化量で決まるためです。顧客が真に求める「本質価値」を見極めて、独自の強み(異常値)へと転換するための具体的なステップについて。
菅原健一著「厚利少売」(匠書房)を読んで。
価値の再定義と、足し算思考の罠
多くの人が「高く売るためには、質を上げる、あるいは特典を増やすべき」と考えがちです。
これは単なる”足し算思考”であって、ターゲットが求めていない質の追求や、相手の変化量に影響しない特典というものは、かえって”不要なもの”と考えられてしまう可能性があります。
まずは、「価値」というものを、正しく分類する必要があります。
- 価値の定義:「価値 = 相手の変化量」である
顧客が抱える課題が解決され、理想の状態へと導かれる、その「変化量」が、対価の根拠である。 - 本質価値
商品・サービスそのものの核心業務であり、お客様が自分の事業に求めているであろう価値。 - 付加価値
商品・サービスの本質価値に追加されるもの・補完的な価値。
むやみに付加価値(おまけ)を増やすのではなくて、顧客にとっての「変化量」を最大化させる要素がどこにあるのかを見極めることが重要です。
「付加価値」と「本質価値」とを再構成し、「異常値」を生む
業界の”当たり前”を本質価値だと信じ込んでいると、競合と差別化できません。
例えば、マッサージの本質価値は「施術の技術力」だと思われがちですが、顧客によっては「リラックスできる環境でお喋りしたい」「スキンケアの相談もしたい」「ヘアアレンジの相談もしたい」「ネイルもお願いしたい」「非日常生活を味わいたい」というニーズが、実は価値としての本質である場合も考えられます。
一般的に「付加価値」だと思われているものを、「本質価値」であると打ち出すことによって、特定のターゲットにとっての「代えがたい存在(異常値)」になることができます。
一般的な本質価値に対し、新たな”本質価値”を生み出した事例
| 企業・製品 | 従来の「本質価値」 | 新たに定義した「本質価値」 |
|---|---|---|
| ダイソンの掃除機 | 吸引力の強さ | 吸引力の維持 |
| Apple Watch | 正確な時間 | ヘルスケア |
| ライター | 文章のクオリティ | 思考の整理・壁打ち |
新たな「本質価値」を見つける方法
独自のポジションを築くには、「提供したものによって、相手がどう変わったか」を丁寧にヒアリングし、予想外の答えが返ってきたらそれを深く掘り下げて、そこから新たな本質価値を見つけ出すということが有効です。
本質価値を見つけるヒント
自分の事業において、どこに「本質価値」を置くべきか迷ったときには、以下の「人が高いお金を払ってもいいと感じるジャンル(人間が本能的社会的に強い価値を感じる領域」を参考にしてみるとよいと考えられます。
- お金(自分・自社の利益になるもの)
- 時間節約(効率化し、自由な時間を生むもの)
- 手間ゼロ(面倒な作業を代行してくれるもの)
- 耐久性(壊れにくく、長く使えるもの)
- 健康(体にいいもの、寿命を延ばすもの)
- プロフェッショナルの知見(専門家の意見やアドバイス)
- 限定的・独特(限定的で、選ばれた人だけのもの)
- 安全性(人や財産を守るもの)
- 知名度向上(ブランドや個人の認知を高めるもの)
- 社会的地位向上(社会的地位や認知を向上させるもの)
- カスタマイズ(自分だけに最適化されたもの)
- 感情的価値(感情的結びつき・思い出・心の充足感を与えるもの)
- 特別な体験(他では絶対に味わえない体験)
- パフォーマンス向上(能力を物理的・知的・精神的に高めるもの)
- 美容・外見の向上(外見をより良く見せるもの)
- 教育(知識やスキルを習得できるもの)
- 家族や愛する人のためになるもの(大切な人の幸せのためのもの)
- 環境への貢献(環境保護につながるもの)
これらの要素を自身のサービスと掛け合わせることによって、価格競争とは無縁の「独自の強み」が見えてくると考えられます。
「過剰なもの」・「希少なもの」
現代社会において、何が「過剰」で、何が「希少」かを知ることも、新たな本質価値を生み出す大きなヒントになります。
過剰なものを生み出したとしても利益は少ないですが、希少なものを生み出せば大きな価値となります。
| 過剰なもの(利益が少ない) | 希少なもの(新たな本質価値) |
|---|---|
| 正解 | 問題(課題) |
| モノそのもの | 意味(なぜそれが必要か) |
| データ化されたもの | ストーリー(共感を生む物語) |
| 利便性 | ロマン(ワクワク) |
| 説得(論理) | 共感(価値観の共有) |
| 競争(奪い合い) | 共創(共に創り上げる) |
言葉にする
素晴らしい本質価値を見つけても、それが顧客に伝わらなければ存在しないのと同じです。
本質価値は、言葉やビジュアルにして初めて認知されます。
- 肩書きやキャッチコピーを作る
「何者であるか」を端的に表すネーミングを言語化します。 - ビジュアルで直感的に伝える
機能美を視覚化したり、本質価値を連想させるイメージ画像を用意する工夫が求められます。
「これ、なんだろう?」と相手に思わせる仕掛けがあってこそ、独自の強みは輝き出します。
求め続ける
本質価値を鮮度高く保ち続けるためには、”自問自答”が重要になってきます。
本質価値は時代や顧客の状況によって変化していきます。
「この価値は、今もお客さんが求め続けているものなのか?」
常にこの問いを自分に投げかけ、必要であれば新たな本質価値を再構築する姿勢が必要です。
自分の業界や経験に縛られずに、これまでの経験に縛られずに、「お客様の声に耳を傾けてキャッチアップすること」が大切であると考えられます。
「ブランド」と「チーム」の作る基準
厚利少売を支える事業の構造は、「3階建て」で構成されていると考えられています。
これらを順番に積み上げ、磨き続けることが、高い利益率を維持する秘訣であると考えられます。
つまり、「安心・信頼(=ブランド)」の部分で手を抜いてしまうと、本質価値は見出されないと考えられます。
具体的には、販売者の顔が見えない、情報がまったく出てこない、悪い口コミがたくさんある、問合せしても粗雑な対応をされるなどです。
ビジネスを支える「3階建て」構造
| 3階 | 付加価値 | 本質価値をさらに魅力的に見せる補完的要素 |
| 2階 | 本質価値 | 顧客に圧倒的な変化をもたらす、独自の強み |
| 1階 | ブランド (安心・信頼) | 土台となる信頼 「ブランド・マントラ」の確立、顧客との誠実な対話によって醸成されるもの |
「ブランド(安心・信頼)」をつくる4つのヒント
せっかくの本質価値も、安心感がなければ購入には至りません。
以下の4点を意識して土台を固めるべきと考えられます。
- ブランド・マントラを確立する
自社のDNAを簡潔に表現する言葉を持つということです。
例えば、Appleのように、事業の方向性や製品の性質をひと言で示すことが”他己紹介”されやすさにつながります。 - 既存の信頼と組み合わせる
シアトルの文化を取り入れたスタバのように、すでに市場で信頼されている文化やブランドを参考として、自身の強みと組み合わせることにより、信頼を醸成できます。 - お客様と対話する
ユーザーのアイデアを取り入れたり、制作過程を公開したりすることで、ファンとの共創ストーリーが生まれ、独自のブランド愛着が深まります。 - もらったお金は”投資されている”と捉え、再投資する
高い対価は「期待」の裏返しであり、いただいたお金をサービス向上や自身の成長に投資し続ける姿勢こそが、プロフェッショナルとしての最大の信頼(ブランド)になります。
チームマネジメントにおける本質価値の見極め
厚利少売を支えるのは「人」ですが、人件費は最大のコストでもあります。メンバーのエンゲージメントを高める際も「本質価値」の視点が欠かせません。
- 事例:GAPの勤務スケジュール改善 多くの小売業が「給与」で満足度を上げようとする中、GAPは従業員にとっての真の本質価値が「予測可能で一貫した勤務時間」であることを見抜きました。シフトの標準化を行った結果、生産性が6.8%向上し、売上も大幅に増加しました。
従業員が求めているのは「高い給与」だけとは限りません。「成長機会」や「柔軟な働き方」など、自社が提供できる「異常値(独自の魅力)」に共感してくれるメンバーを選ぶことが、少数精鋭で高い利益を出す鍵となります。
