飲食店開業における資金計画と資金調達は、開業後の安定した経営を左右する重要な要素となります。飲食店開業を成功に導くための資金計画の立て方と、資金調達のポイントについて。
水野剛志著「飲食店経営で成功するための「お金」のことがわかる本」(日本実業出版社)を参考として。
開業資金の全体像を把握する
飲食店開業には多額の資金が必要となります。
日本政策金融公庫の調査(2014年度)によると、飲食店の開業資金の平均調達額は1037万円と公表されており、多額の資金が必要であることが分かります。
開業資金を考える際には、以下の3つの主要な項目に分解して算出することが重要になります。
物件取得費
- 保証金(家賃の6〜10ヶ月分)
- 礼金(家賃の1〜3ヶ月分)
- 前家賃(家賃の1ヶ月分)
- 仲介手数料(家賃の1〜2ヶ月分)
- 保証会社への保証料金(家賃の1ヶ月分)
店舗造作費
- スケルトンの場合、1坪あたり60万円が目安
- 居抜きの場合、1坪あたり10万円〜30万円が目安
運転資金
- 毎月発生する経費の3ヶ月分(最低でも2ヶ月分)
開業当初は売上が安定しないため、不足分を補うための運転資金を用意しておく必要があります。
運転資金を用意せずに開業すると、資金繰りが厳しくなり、店舗運営に集中できなくなるなどが生じえます。
資金調達と投資計画のバランスを検証する
初期投資の金額が明確になったら、その資金をどのように調達するかを検討します。
資金調達の方法には、自己資金、借入金、リースなどがあります。
特に重要なのは、初期投資の金額が調達限度額の範囲内に収まっているかを検証することです。
投資計画と資金計画のバランスが取れていないと、運転資金にしわ寄せがいき、資金がほとんどない状態でスタートすることになってしまいます。
例えば、以下の表のような初期投資計画と資金調達計画があったとします。
必要な開業経費 | 金額(万円) |
---|---|
物件取得費 | 300 |
店舗造作費 | 800 |
運転資金 | 200 |
合計 | 1,300 |
資金調達方法 | 金額(万円) |
---|---|
自己資金 | 400 |
借入金 | 800 |
リース | 100 |
合計 | 1,300 |
この例では、開業資金として必要な1,300万円を、自己資金、借入金、リースでまかなう計画になっています。
創業融資の場合、自己資金が少ないと借入金で調達できる金額も少なくなるため、開業資金とその調達可能性を事前に検討することが必要です。
収支計算によるコンセプト検証と成功への道筋
月間の経費を見積もる
- オーナー給与、社員・アルバイトの人件費、家賃、水道光熱費、その他諸経費、借入金返済額など、1ヶ月間に発生が見込まれる経費を詳細に見積もります。
- 特に人件費は、オーナー、社員、アルバイトに分けて具体的に算出することが重要です。
1日あたりの売上予測を立てる
- 売上予測は、目標、標準、最低の3パターンを想定します。
- 客数×客単価に落とし込んで算出します。客数は席数×回転率で算出すると、具体的な営業イメージが持ちやすくなります。
月間の収支計算を行う
- 収支計算も3パターンの売上予測(目標、標準、最低)で行うことで、計画の実現可能性を高めることができます。
- 上記で算定した月間の経費と、1日あたりの売上予測を基に、月間の収支計算を行います。
計画の段階で収支計算を行い、”継続可能な状態”になっているかを検証することが成功の鍵となります。
最低月商での営業利益が赤字になっていないか、標準月商での初期投資回収年数が目標年数を下回っているかをチェックすることで、計画段階で問題点を洗い出すことができます。
これらのチェック基準を満たさない場合、店舗コンセプトの見直しが必要となります。
店舗コンセプトの修正と検証を繰り返すことで、実現性の高い計画を立てることができ、成功への確実性がぐっと高まります。
開業後、営業が軌道に乗るまでに半年以上かかる飲食店が6割超に上るという調査結果(日本政策金融公庫)もあります。
この期間を乗り越えるためにも、計画段階での綿密な収支計算と資金計画が、飲食店の成功を左右するといえます。