事業を始めるにあたり、多くの方が直面する「資金調達」の壁。”何から手をつければいいの?”・”審査に通るか不安…”といったことを思いがちです。創業融資の基本的な知識から、金融機関がどこを見ているのかという審査の重要ポイント、具体的な手続きの流れまで解説。
創業融資とは?2つの代表的な選択肢
創業融資とは、これから事業を始める方や、事業を始めて間もない方を対象とした融資制度のことです。
実績がない状態でも融資を受けられるように設計されており、創業者にとって心強い味方となります。
ここでの代表的な選択肢として、「日本政策金融公庫」と「制度融資」の2つがあります。
- 日本政策金融公庫
政府が100%出資する金融機関で、小規模事業者や創業者の支援を積極的に行っています。創業者にとって最も頼りになる金融機関の一つと言えるでしょう。 - 制度融資
都道府県や市区町村などの「自治体」、銀行などの「金融機関」、「信用保証協会」の3者が連携して行う融資制度です。お住まいの地域の自治体の制度を利用することになります。
比較項目 | 日本政策金融公庫 (新創業融資制度など) | 制度融資 |
---|---|---|
窓口 | 日本政策金融公庫の各支店 | 地域の銀行、信用金庫など |
特徴 | ・創業前や実績がなくても申込可能 ・審査が比較的スピーディー(約3週間~1ヶ月) ・無担保、無保証人で利用できる制度がある | ・自治体による利子補給などで金利が低くなる場合がある ・信用保証協会の保証がつくため、金融機関は融資しやすい ・審査に時間がかかる傾向(約1ヶ月半~2ヶ月) |
おすすめな方 | ・スピーディーに資金調達したい方 ・手続きをシンプルに進めたい方 | ・地域の金融機関との関係を築きたい方 ・自治体のサポートを受けたい方 |
飲食店の開業など、物件の契約が絡む場合は、特に緻密なスケジューリングやスピードが重要になります。
制度融資は融資実行までに営業許可が必要なケースが多く、その分スケジュールが遅れるリスクもあります。
この点、日本政策金融公庫の場合には、融資実行後に営業許可を提出すればよい場合が多いため、スムーズに開業準備を進めやすいというメリットがあります。
申込みから実行までの流れ
日本政策金融公庫と制度融資、それぞれの申し込みから融資実行までの具体的な流れについて。
日本政策金融公庫の融資手続き
日本政策金融公庫の融資手続きは、以下の流れで進みます。
申し込みから融資実行までは、スムーズに進めばおよそ1ヶ月程度です。
基本的な流れ
手続き | 内容 |
---|---|
(1) 書類の作成 | 「借入申込書」や「創業計画書」などを作成します。 用紙は公庫のホームページからダウンロード可能です。 |
(2) 融資の申し込み | 管轄の支店に書類を持参します。 郵送やホームページからの申し込みもできます。 |
(3) 面談・実査 | 担当者との面談を行います。 計画の根拠となる資料などを持参し、公庫担当者による現場の実査が行われることもあります。 |
(4) 結果の通知 | 面談が終わってから10日程度で、融資結果の見通しについて電話などで連絡があります。 |
(5) 契約・融資実行 | 融資が決定したら契約手続きを行い、指定の口座に融資金が振り込まれます。 |
主な必要書類リスト
- 借入申込書
- 創業計画書
- 履歴事項全部証明書(法人の場合)
- 見積書(設備資金を借りる場合)
- 代表者個人の預金通帳のコピー(過去半年~1年分)
- 身分証明書(運転免許証など)
- 許認可証のコピー(飲食店営業許可など、取得済みの場合)
制度融資の融資手続き
制度融資は関係する機関が多いため、申し込みから融資実行まではおよそ1ヶ月半から2ヶ月程度の期間をみておく必要があります。
基本的な流れ
手続き | 内容 |
---|---|
(1) 金融機関の選定・相談 | 申込み窓口となる地域の銀行や信用金庫などを自分で決める必要があります。 事前に担当者へ相談しておくとスムーズに進みます。 |
(2) 書類の作成 | 「借入申込書」や「創業計画書」などを作成します。 用紙は金融機関によって異なるため、事前相談の際に取得するのが望ましいです。 |
(3) 融資の申し込み | 作成した書類を、通常は申し込み窓口の金融機関へ提出します。 |
(4) 審査・面談・実査 | 窓口の金融機関と信用保証協会の2段階で審査が行われます。 担当者による事業所の調査(実査)や面談も実施されます。 |
(5) 結果の通知 | 面談後、10日程度で融資結果の見通しについて通知されます。 |
(6) 契約・融資実行 | 融資が決定し、金融機関と契約手続きが完了すると、融資金が口座に振り込まれます。 |
■ 主な必要書類リスト
制度融資の必要書類は、利用する自治体の制度や窓口となる金融機関によって異なります。
一般的には日本政策金融公庫と同様に「借入申込書」や「創業計画書」などが必要となりますが、必ず事前に相談先の金融機関に確認するようにしたほうがよいです。
融資担当者は何を見る?押さえるべき3つの重要ポイント
金融機関の担当者が融資の審査で最も重視しているポイントは、”この人にお金を貸して、きちんと返済してもらえるか”という点です。
事業実績のない創業者を判断するために、担当者は主に以下の3つのポイントを見ています。
自己資金
どれだけ自己資金を準備したかは、”計画的に準備を進めてきたか・事業に対して本気か”という姿勢を示す重要な指標です。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、”開業資金の10分の1以上の自己資金”が要件とされていますがこれはあくまで最低ラインであり、実際には”開業資金の3分の1以上の自己資金”が目安であると考えられます。
親族から一時的に借りたお金(見せ金)ではなく、ご自身の給与などからコツコツ貯めてきた経緯がわかる個人の預金通帳を提示することで、その本気度やお金に関する計画性を示していくことになります。
経験と能力
”これから始める事業を、責任を持って遂行できる人物か”という点も厳しく見られます。
例えば、飲食店を開業するなら飲食業界での勤務経験、ITサービスを始めるなら関連する分野での職務経歴などが評価の対象となります。
さらに管理職などの経験もあると、数字を見る経験などを積めていることも多く、銀行とのやり取りやその後の経営にもアドバンテージはあると考えられます。
これまでのキャリアで培ってきたスキルや経験が、事業の成功にどう結びつくのかを具体的に説明できるように準備しておきたいところです。
事業計画書
”その事業に将来性があり、継続して利益を生み出せるか”を判断するための最重要書類が事業計画書です。
ここでは、熱意を伝えるのではなく、客観的なデータに基づく説得力ある内容が求められます。
- 創業の動機:なぜこの事業を始めたいのか
- 経営者の略歴:事業に関連する経験や強み
- 取扱商品・サービス:どのような価値を提供するのか
- 必要な資金と調達方法:何にいくら必要で、自己資金と借入でどう賄うか
- 事業の見通し(収支計画):売上予測や利益計画を具体的な根拠と共に示す
特に「事業の見通し」では、「客単価 × 座席数 × 回転率」といった計算式や、周辺の競合調査など、売上予測の根拠を明確に示すことが不可欠です。