会社と個人の両方にお金を残すための節税策や役員報酬の決め方について。
お金が残る節税策とは
会社にお金を残しながらできる節税策には、どのようなものがあるか。
これらは、会社の防衛や将来の貯蓄にもつながるため、優先的に検討したい節税策です。
お金が残る節税策の代表例
- 役員報酬
- 非常勤役員報酬
- 小規模企業共済
- 企業型確定拠出年金(iDeco)
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
- はぐくみ企業年金
- 出張旅費日当
- 社宅家賃
- 生命保険
これらの中でも、法人設立後にまず最初に設定し、節税の基本となるのが”役員報酬の活用”です。
なぜ役員報酬が節税につながるのか
個人事業主の場合、「事業の利益」がそのまま事業主の所得になります。
一方、法人化すると、会社(法人)と社長(個人)は別人格として扱われるため、会社から社長へ給与、つまり「役員報酬」を支払うことができます。
事業で得た利益を、法人に残す分と、個人の役員報酬として受け取る分とに分散させることで、所得税の税率が上がることを抑え、結果として、法人と個人を合わせたトータルの税金を節税することができます。
また、役員報酬は給与所得となるため、個人事業主の事業所得とは異なり、税金の計算上、「給与所得控除」という控除が認められている点もメリットです。
役員報酬を経費にするための2つのルール
役員報酬を会社の経費として認めてもらうためには、税務上のルールを守る必要があります。
特に中小企業にとって重要なのは、以下の2つの要件を両方満たすことです。
- 定期同額であること
原則として、事業年度の途中で額面金額を変更できません。
例えば、「今期は予想以上に儲かったから、今すぐ月々の役員報酬を増やそう」ということは認められず、役員報酬の金額を変更できるのは、原則として事業年度が開始してから3ヶ月以内に限られています。 - 不相当に高額でないこと
同業他社の状況や自社の利益状況など、世間一般の相場からあまりにもかけ離れた高額な報酬を設定した場合、税務調査で経費として認められない(否認される)場合があります。
社長が原則として”賞与(ボーナス)”が支給できない
従業員には賞与を支給できても、社長が賞与を受け取るのには注意が必要です。
社長への役員賞与は、税務上、原則として、経費にできない(損金不算入)と定められています。
社長に臨時報酬を支給しようと考える場合には、「事前確定届出給与」制度を検討してみることになります。
役員報酬を設定する目安
具体的に役員報酬をいくらに設定すれば良いのか。
金額を決めるときの関心事として、次の2つの視点で考えてみる必要があります。
- 自分や家族の生活・貯蓄に足りる金額か?
- 会社と個人の税金がどうなるか?
まずは最低限の生活費を見積もってみる必要があります。
シミュレーションの具体例
売上3,000万円、役員報酬以外の経費が2,200万円、役員報酬を支払う前の利益は800万円とし、役員報酬額を変えた場合の税負担を比較してみます。
シミュレーション条件
- A:役員報酬を0円にする
- B:役員報酬を400万円にする
- C:役員報酬を800万円にする
- D:役員報酬を1,000万円にする
| A: 役員報酬 0円 | B: 役員報酬 400万円 | C: 役員報酬 800万円 | D: 役員報酬 1,000万円 | |
|---|---|---|---|---|
| 法人税等 | 207万円 | 92万円 | 7万円 | 7万円 |
| 個人の税・社会保険料 合計 | 23万円 | 88万円 | 209万円 | 277万円 |
| 税負担トータル | 230万円 | 180万円(ベスト) | 216万円 | 284万円(ワースト) |
このシミュレーション結果を見ると、Bのように、法人と個人で利益をほぼ半分ずつ分ける形が、最も税負担が軽くなりました。
一方で、役員報酬を最も高く設定したD(1,000万円)のケースでは、会社の決算は赤字になりますが、個人の税負担が非常に重くなり、トータルでは最も損な結果となっています。
年収2,000万円の壁
会社の利益が大きくなってきた場合、役員報酬はどこまで上げられるのか。
以下の表は、役員報酬(年収)と、それにかかる個人の税・社会保険料の負担率を示したものです。
| 額面給与 年収 | 税負担等 合計 | 税負担率(%) |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 277万円 | 27.7% |
| 1,500万円 | 484万円 | 32.3% |
| 1,800万円 | 619万円 | 34.4% |
| 2,000万円 | 706万円 | 35.3% |
| 3,000万円 | 1,223万円 | 40.8% |
| 5,000万円 | 2,273万円 | 45.5% |
年収2,000万円で個人の税負担率は「35.3%」となります。
これは法人における所得800万円超部分の法人税等の実効税率「約35%」とほぼ同じになります。
つまり、これ以上役員報酬を増やすと、法人税率よりも高い税率が個人にかかってしまい、トータルでみると、かえって手残りが減ってしまう可能性が高くなるということになります。
つまり、税負担を考慮するのであれば、残りの利益は会社に内部留保として残す戦略も有効です。
まとめ
重要なのは、以下の点を意識することであると考えられます。
- 法人と個人の税負担トータルで考える
必ずシミュレーションを行い、全体の税負担が最も軽くなるバランスを見つけましょう。 - 会社の資金繰りを考慮する
役員報酬を高く設定しすぎると、会社のキャッシュが不足し、いざという時に困る可能性があります。 - 将来を見据える
会社に残したお金(内部留保)は、将来引退する際に「退職金」として受け取る方法もあります。社長の退職金は税制上、非常に優遇されています。
