【ひとり社長向け】社長の役員退職金を計画的に準備する3つの視点

企業の代表者にとって、将来の退職金をご自身で計画的に準備することは、経営の重要なテーマの一つです。法人においては、国の制度などを適切に活用することで、会社の経費として計上しつつ税制上の優遇を受けて効率的に資産を形成することが可能になります。

目次

いかにして貯蓄する?退職金原資を確保する制度の活用

これらの制度を会社の状況や個人のライフプランに合わせて組み合わせ、計画的に退職金原資を積み上げていくことが重要です。

優先的に検討したい国の共済制度

  • 小規模企業共済
    小規模企業の経営者や役員、個人事業主のための「退職金制度」です(個人名義での加入)。
    最大のメリットは、掛金が全額所得控除の対象となる点で、個人の所得税・住民税の負担を軽減しつつ将来の退職資金を積み立てることができます。
  • 経営セーフティ共済(倒産防止共済)
    本来は取引先の連鎖倒産を防ぐための制度ですが、40ヶ月以上掛金を納付すれば解約時に掛金の全額が戻るため、退職金原資の確保にも活用できます(法人名義での加入)。
    掛金は全額を会社の経費(損金)に算入できるため、法人税の節税に繋がります。

保障と貯蓄を両立する選択肢

  • 生命保険
    万が一の際の事業保障を確保しつつ、解約返戻金を退職金原資に充てる方法です(法人名義での加入)。
    保険商品によっては、支払う保険料の一部を損金に算入できます。
    基本的に若いうちに加入する方が保険料負担は軽くなるため、早い段階での検討が有効です。

資産形成を加速させる選択肢

  • iDeCo(個人型確定拠出年金)
    掛金が全額所得控除、運用益が非課税、そして受給時にも税制優遇があるなど、税制メリットの大きい私的年金制度です(個人名義での加入)。
    ただし、原則60歳まで資金を引き出せない点には注意が必要です。

いくらまで経費になる?役員退職金の損金算入と適正額

役員退職金は、株主総会の決議等、適正な手続きを経て支給されれば、会社の経費(損金)として認められます。
しかし、法人税法では「不相当に高額な部分の金額」は損金として認められないと定められており、その金額には限度があります。

適正額の一般的な算定式

実務上、役員退職金の適正額は、以下の功績倍率法という計算式を用いて算出されるのが一般的です。

最終の役員報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

「功績倍率」は役職に応じて変動し、税法で明確な規定はありませんが、過去の判例などから代表取締役社長で最大で3倍程度といわれています。

この計算式は、あくまで実務上の目安であり、 税務上は、同業種・同規模の法人の支給事例と比較し、社会通念上妥当な金額かどうかが重視されます。

算出した金額が相場から大きく乖離している場合には、高額と判断され、超過分が否認されるリスクがあるため、金額の決定は慎重に行う必要があります。

受取時の税金はどうなる?退職所得の税制

退職金は、長年の功労に報いるための資金という性格から、税負担が軽減されています。

給与所得など他の所得とは別に税額を計算する「分離課税」が適用され、税率が低く抑えられやすい仕組みになっています。

退職所得の計算方法

退職金にかかる所得税の基本は、以下の計算式で算出されます。
※受給時に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出することが必須要件です。

(退職金収入金額 − 退職所得控除額) × 1/2 × 税率

この計算式には、税負担を軽減する2つの大きなポイントがあります。

  1. 退職所得控除
    勤続年数に応じて課税対象額から大きく控除されます。
    勤続1年あたり40万円(20年を超える部分は1年あたり70万円)が控除額となります。
  2. 1/2課税
    上記の控除額を差し引いた後の金額を、さらに半分にして税率を適用します。

シミュレーションで見る税負担の違い

例として、勤続30年の経営者が3,000万円を受け取る場合の税負担を、役員報酬(給与)と比較。

項目役員報酬で受給退職金で受給
税・社会保険料の合計約1,223万円約171万円
税負担率40.8%5.7%

健全な財務基盤の構築を目指して

役員退職金の準備は、経営者個人の資産形成であると同時に、会社の出口戦略を考える上で非常に重要です。

各種制度を有効活用し、計画的に準備を進めることで、税負担を最適化しながら将来に備えることができます。

ただし、節税を意識するあまり、不要な経費支出を重ねて利益を過度に圧縮することは、会社の財務体力を損なうことに繋がりかねません。

目先の納税額を減らすことだけが経営の目的ではなく、適正な利益を確保し、納税を通じて社会に貢献し、そして内部留保を充実させて強固な財務基盤を築くことが、企業の持続的な成長には不可欠です。

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