新規事業を成功させる鍵は、魅力的なコンセプト作りと、そのコンセプトが「儲かる」仕組みになっているかを見極める「収支計算」にあります。感覚だけで事業計画を進めてしまうと開始後に資金繰りが苦しくなることも少なくありません。具体的で現実的な事業計画を立てる3ステップについて。
水野剛志著「飲食店経営で成功するための「お金」のことがわかる本」(日本実業出版社)を参考として。
まずは経費から!正確な経費見積もりのポイント
なぜ経費から計算するのか?
事業計画というと、まず売上目標を立てがちですが、成功のためには経費の見積もりから始めることが重要です。
なぜなら、計画段階で売上を正確にコントロールすることは難しい一方、経費はかなりの確度でコントロールできるためです。
まず、事業を1ヶ月運営するためにいくら必要かを正確に把握しましょう。
人件費の具体的な算出方法
経費の中でも大きな割合を占めるのが人件費です。
経営者、正社員、パート・アルバイトなどに分けて具体的に算出することで、事業運営のイメージがより明確になります。
- 経営者の役員報酬
生活を維持できることを前提としつつも、特に事業開始当初は、事業の継続性を最優先した現実的な金額に設定するのが安全です。 - 従業員の給与
- 必要な人数と総労働時間から算出します。
事業の繁閑に合わせて必要な人員を考えると、より具体的になります。 - 給与水準は、事業を展開するエリアや業界の求人情報を参考にするとよいでしょう。
- 必要な人数と総労働時間から算出します。
固定費の見積もり方
毎月必ず発生する固定費を正確に見積もります。
費目 | 算出方法の例 |
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オフィス・店舗家賃 | 物件情報サイトなどで、事業展開エリアの賃料相場を調査し、概算します。 |
水道光熱費 | 同規模の事業所の平均的な数値を参考にします。 |
その他諸経費 | 通信費や消耗品費、広告宣伝費など、事業運営に必要な経費をリストアップします。 |
借入金返済 | 融資を受ける場合、元金を返済回数で割って月々の返済額を計算します。 |
売上予測の精度を高める!3つのパターンで考える売上計画
なぜ3つの売上パターンが必要なのか?
経費を把握したら、次に売上を予測します。
このとき、単一の目標だけを立てるのではなく、計画の実現可能性を高めるために3つのパターンを想定しておくことが重要です。
- 目標売上: 目標とする理想的な売上
- 標準売上: 事業が軌道に乗れば達成できるであろう現実的な売上
- 最低売上: 最低限維持すべき売上
売上予測の具体的な計算式
売上は、「顧客数 × 顧客単価」に分解して予測します。
特に顧客数は、事業モデルに応じて具体的な指標(例:Webサイトのアクセス数×成約率、営業担当者数×契約獲得率など)で算出すると、より現実的な予測ができます。
- 計算式:
顧客数 = [事業モデルに応じた指標]
(例:見込み客数 × 成約率
)売上高 = 顧客数 × 顧客単価
月間売上高 = 1日あたりの平均売上高 × 営業日数
予測精度を上げるための3つの調査
売上予測の精度は、計画全体の確度に直結します。
以下の調査を行うことで、より現実的な数値を導き出すことができます。
- 市場調査
ターゲットとする市場の規模や成長性、顧客層の属性(年齢、性別、年収など)をデータで把握し、需要がどれだけ存在するかを確認します。 - 競合調査
競合他社の製品・サービス、価格設定、強み・弱みを分析し、自社の事業の勝算を測ります。 - テストマーケティング
小規模なプロモーションやアンケート調査を通じて、見込み顧客の反応を直接確認し、価格設定やサービス内容の妥当性を検証します。
継続していける仕組みを作る!月間収支計算とコンセプトの見直し
月間収支をシミュレーションする
前記で見積もった「経費」と「売上」を基に、月間の収支を計算します。
この時、売上パターン(目標・標準・最低)ごとにシミュレーションすることが重要です。
項目 | 計算方法 |
---|---|
売上高 | 前記で算出した月間売上予測 |
売上原価 | 売上高 × 原価率 (原価率は業種により異なります) |
人件費 | 前記で算出した金額 |
固定費 | 前記で算出した金額 |
営業利益 | 売上高 - 売上原価 - 人件費 - 固定費 |
チェックすべき2つの基準
シミュレーション結果が出たら、その計画が本当に実現可能か、以下の2つの基準で必ずチェックします。
- 基準①:最低売上シナリオでの営業利益が赤字になっていないか?
万が一、業績が振るわなかった場合でも、事業が存続できるかどうかを判断する重要な指標です。
最低限の売上でも収支が合うようにすることが大切です。 - 基準②:標準売上シナリオでの営業利益で、初期投資を目標年数内に回収できるか?
事業活動で得られる利益によって、開業時にかかった費用(初期投資)を早期に回収できる計画になっているかを確認します。
基準に満たない場合、事業コンセプトを見直そう
もし、算出した収支計画が上記の2つの基準を満たさない場合は、事業コンセプトの見直しが必要です。
例えば、「固定費を削減する」「顧客単価や顧客数を増やす施策を講じる」といった具体的な対策を考え、再度収支を計算します。
この修正と検証のプロセスを繰り返すことで、計画の段階で”持続可能な”事業モデルを確立することができます。
感覚だけに頼らず、数字に基づいた計画を立てることが、事業を成功へと導くのです。