DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を感じてはいるものの、「何から始めたらいいのかわからない」「自社にはまだ早いのでは」と思ってしまいがちです。DXは決して大企業だけのものではなく、むしろ迅速な意思決定が可能な中小企業や個人事業主の皆様にこそ大きなチャンスがあります。DX推進の確実な第一歩を踏み出すための「基本の3ステップ」について。
【ステップ1】まずはここから!アナログ作業のデジタル化
DX達成に向けた最初の一歩は、身近にある「アナログ作業のデジタル化」です。
複雑化する現代のビジネス環境で生産性を高めるには、デジタル技術の活用が不可欠です。
1. 「アナログ作業」を見つける
まずは、社内にどのようなアナログ作業が残っているかを洗い出してみましょう。
日々の業務に溶け込んでいると、それが「アナログ作業」であると認識すること自体が難しいかもしれません。
しかし、「アナログ作業=人間の手が加わる作業」と捉え直すことで、改善点が見えやすくなります。
- 手書きの出納帳や日報、勤怠管理表
- 電卓での集計作業(売上集計、経費計算など)
- FAXでの注文書の送受信、そしてその内容の転記
- 紙で印刷し、押印・郵送する契約書や請求書の管理
- 複数のシステムへの同じ内容の単純なデータ入力作業
これらは、長年慣れていると「このままで問題ない」「変える必要がない」と思われがちですが、この変革こそがDXの最も重要な土台となります。
2. 「デジタル化」のメリット
アナログ作業をデジタル化すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。単に「楽になる」だけではありません。
- 例1:手書きの出納帳を表計算ソフトに
- 入力するだけで残高が自動計算され、計算ミスがなくなります。
- 日付や金額の修正が簡単になり、履歴も残せます。
- データとして保存・共有できるため、事務所に戻らなくても最新の状況を確認でき、紛失リスクも防げます。
- 例2:請求書処理にOCR(光学文字認識)を活用
- 請求書に印字された内容(取引先名、金額、日付)を自動で読み取り、会計ソフトに入力可能なデータとして抽出できます。
- これにより、月初の煩雑な集計業務や振込業務が劇的に効率化されます。
- 例3:単純な入力作業にRPAツールを活用
- RPA(Robotic Process Automation)ツールにパソコン操作を覚えさせることで、人間のかわりに自動で作業を行います。
- 入力ミスなどのヒューマンエラーを防ぎ、24時間稼働も可能です。何より、従業員を単純作業から解放し、より創造的な業務やお客様対応に時間を使えるようになります。
こうした大小さまざまなアナログ作業のデジタル化が、DXへの確実な第一歩となります。
【ステップ2】業務の流れを改善!個別の業務プロセスのデジタル化
ステップ1で個々の作業(点)をデジタル化したら、次は「ひとつの業務に対する一連の流れ(線)」、すなわち業務プロセス全体をデジタル化していきましょう。
例えば、「現金出納帳の入出金を会計ソフトに入力する」業務で考えてみます。
改善前の業務フロー
- 経費を支払う。
- 領収書をもとに、出納帳へ「手書き」で記帳する。(アナログ)
- 月末に、記帳した出納帳を見ながら、会計ソフトに一件ずつ「手入力」する。(アナログ)
このフローでは、ステップ2と3で「記帳」と「入力」という二重の手間が発生しています。
時間がかかるだけでなく、転記ミスや入力漏れといったヒューマンエラーが起こりやすい状態です。
改善後の業務フロー(ステップ1・2実施後)
- 経費を支払う。
- 領収書をもとに、「表計算ソフト」の出納帳へ入力する(デジタル化)。
- 月末に、作成した出納帳データを会計ソフトに「インポート(取込み)」する(デジタル化)。
近年多くの会計ソフトには、データを一括で取り込む「インポート機能」が標準搭載されています。
あらかじめソフトが指定する形式で出納帳データを作成しておけば、ステップ3の作業は文字通り一瞬で完了します。
これにより、業務時間は劇的に短縮され、データの正確性も向上します。
もし利用中のシステムにインポート機能がない場合や、紙の領収書・請求書など、どうしてもデータ化できないものが残る場合でも諦める必要はありません。
ステップ1で紹介したOCRやRPAツールを活用することで、これらのアナログな部分を自動化し、業務プロセス全体の負担を大幅に減らすことが可能です。
【ステップ3】企業全体のDXへ!全体の業務プロセスの最適化
ステップ1で「点」(個々のアナログ作業)、ステップ2で「線」(一連の業務プロセス)をデジタル化してきました。
最後のステップは、それらを「面」(企業全体)で捉え、真のDXに向けて最適化することです。
DXの本来の目的は、単なる業務効率化ではなく、デジタル技術を活用して「企業としての競争力を向上させる」ことにあります。
しかし、部門ごとがバラバラにデジタル化を進めても、企業全体として最適化されていなければ、データが連携されず、かえって業務が属人化してしまう(特定の人しかできなくなる)危険性すらあります。
そうならないために、以下の3つを意識して、企業全体の業務プロセスを最適化しましょう。
1. 部署・部門間の連携(組織横断)
営業、総務、経理など、業務内容ごとに部門が分かれていると、どうしても組織は縦割りになりがちです。
しかし、例えば「営業部門が受注したデータが、自動で経理部門の請求システムに連携される」といった仕組みがなければ、本当の効率化は達成できません。
企業全体のDX達成のためには、各部門が持つ課題やデータを共有し、部署や部門を横断して課題解決に取り組む視点が不可欠です。
2. 定期的なプロセスの見直し
一度デジタル化した業務フローも、ビジネス環境や社内体制の変化とともに、いつの間にか実態に合わなくなってしまうことがあります。これが、いわゆる「レガシーシステム化」です。
また、「その作業はAさんしかやり方を知らない」といった業務の「ブラックボックス化」は、特に人員が限られる中小企業にとって大きなリスクとなります。
突然の退職などで業務が停止してしまうことのないよう、半年や1年に一度は業務フローや人員配置を見直し、常に改善を続ける意識が重要です。
3. 第三者からの評価
業務プロセスが本当に最適化されているかは、毎日その業務に慣れている社内の人間だけでは、客観的な判断が難しい場合があります。
「昔からこのやり方だから」という視点に陥りがちなためです。
貴社の業務フローを理解しつつも、客観的な視点を持つ第三者からの評価やアドバイスを受けることは、新たな改善点を発見するために非常に有効です。
【補足】DX推進に役立つ!主なITツールの基礎知識
3つのステップと合わせて、DX推進の助けとなる代表的なITツールについても知っておきましょう。自社の課題に合うツールを活用することで、デジタル化は一気に加速します。
クラウドサービス
「クラウド」とは?
従来、ソフトウェアはパソコンにインストールしたり、自社でサーバーを構築したりするのが一般的でした(これを「オンプレミス型」といいます)。
それに対し「クラウドサービス」は、インターネットを通じて、必要なサービスを必要な分だけ利用する仕組みです。
データやソフトウェアがインターネットという“雲(クラウド)”の向こう側にあって、そこから借りて使うイメージです。
メリットは?
- 導入が早い
ハードウェアの購入や構築が不要なため、すぐに利用を開始できます。 - 場所を問わない
インターネット環境さえあれば、オフィス、自宅、外出先などどこからでもアクセス可能です。 - コスト管理が容易
高額な初期投資が不要で、月額利用料などの定額(サブスクリプション)で利用できるサービスが多くあります。
知っておきたいポイント
デメリットとしては、提供される機能の範囲内での利用が基本となり、自社専用の細かいカスタマイズが難しい場合があります。
RPA(Robotic Process Automation)ツール
「RPA」とは?
RPAは、人がパソコン上で行う定型的な作業を、ロボット(ソフトウェア)が自動化する技術です。
AI(人工知能)と混同されがちですが、AIが学習して「判断」するのに対し、RPAはあらかじめ設定された「ルールや手順通り」に作業を実行するのが得意です。
何ができる?
- 表計算ソフトのデータを会計ソフトに転記する
- Webサイトから特定の情報を収集して一覧表にする
- 定型的な見積書や報告書を作成する
- 経費や交通費の精算処理
RPAは、同じ作業を繰り返し行うルーティン業務に最適です。
人間と違ってミスなく、24時間365日稼働できるため、従業員はより生産性の高い「考える業務」に集中できます。
知っておきたいポイント
RPAは比較的簡単に導入できる反面、管理部門が把握しないまま各部署で導入が進むと、管理者が不在の「野良ロボット」問題が発生することがあります。
業務フローが変わった際にロボットが誤作動を起こすリスクもあるため、社内での管理ルールを決めておくことが重要です。
グループウェア
「グループウェア」とは?
企業内部のコミュニケーションを活性化し、情報共有や業務効率化を図るためのツールです。
複数の機能が一つにまとまっているのが特徴です。
主な機能
- 情報共有
社内掲示板、マニュアルや文書を共有するファイル共有機能など。 - スケジュール管理
他の従業員の予定をカレンダーで共有し、会議室の予約なども行えます。 - ワークフロー
稟議書や経費精算など、社内の承認プロセスを電子化できます。 - コミュニケーション
チャット機能やWeb会議機能が含まれるものもあります。
テレワークの導入など、離れた場所で働く従業員同士のつながりをスムーズにするためにも非常に有効なツールです。
知っておきたいポイント
多機能な反面、導入する「目的」を明確にしないと、「導入したものの使われない機能だらけ」という事態になりがちです。
まずは「スケジュール管理の徹底」「申請業務のペーパーレス化」など、解決したい課題を絞ってから検討するのが成功のコツです。
コミュニケーションツール(チャットツール)
「チャットツール」とは?
メールよりもスピーディで気軽にメッセージを送受信できるツールです。
個人間のやり取りだけでなく、セキュリティや管理機能を強化したビジネス向けのツールが普及し、企業間取引での利用も増えています。
主な機能
- チャット
1対1はもちろん、複数名でのグループチャットが可能です。
定型的な挨拶なしで本題に入れるため、情報伝達の速度が上がります。 - 通話・オンライン会議
テキストでは伝わりにくい内容を、音声通話やビデオ会議で補完できます。
資料を画面共有しながらの打ち合わせも可能です。
知っておきたいポイント
メールに比べて情報が流れやすいため、「重要な決定事項」や「正式な依頼」はメールやグループウェアの掲示板を使うなど、社内での使い分けのルールを決めておくと混乱を防げます。
