紙ベースの情報管理や手作業の多さ、特定の担当者に業務が集中する「属人化」に対して、バックオフィス業務をいかに効率化し、経営を加速させるか考えます。
経理
経理業務は、請求・支払い・経費精算など、どの企業にも存在するバックオフィス業務の中核です。
しかし、これらの業務は特に「属人化」しやすく、担当者が不在になると業務自体が止まってしまうリスクを抱えています。
また、紙での情報管理や手作業が多いと、資料作成が煩雑で時間がかかり、経営者が求める情報を迅速に提出できない原因にもなります。
業務改善とリスク回避のためにも、経理業務のDX推進は有効な手段となります。
請求
請求業務は、企業のキャッシュフローに直結する非常に重要な業務です。
経営者としては毎月のキャッシュフローを早く確認したいものですが、その情報が確定するまでに多くのリソースが割かれている実態を把握していないケースも少なくありません。
請求業務のDXとは、請求に関わる情報をデジタル化し、少ないリソースで会計ソフトへ反映できる業務体制を構築することです。
これにより、経営者が早期に情報を把握し、より早い意思決定を下せるようにすることが、DX推進のゴールです。
こんなお悩みはありませんか?
- 業務フローのどこからDXを進めればよいかわからない
- 自社に最適な会計ソフトの要件がわからない
- 取引先の協力が得られず、デジタル化が進まない
請求業務のフローと課題
一般的な請求業務は、見積書の提出、契約、納品を経て、請求書を発行します。
その後、承認・押印、印刷・封入・郵送を行い、期日通りの入金を確認し、未入金の場合は督促作業が発生します。
このフローには、DX化によって解決すべき以下のような課題が潜んでいます。
| 課題 | 詳細 |
|---|---|
| 管理する情報の種類が多い | 見積もりや契約の状況、取引先の締め日・支払方法、入金の有無など、管理すべき情報が多岐にわたります。管理を怠ると、誤った請求書の発行や貸倒れのリスクにつながります。 |
| 発行・保存作業が煩雑 | 紙の請求書は、捺印、封入、郵送といった手作業が多く発生します。また、発行した控えは7年間保存する義務があり、ファイリングの手間と保存場所の確保が必要です。 |
| 会計ソフトへの情報連動 | 請求書発行業務と会計ソフトが連動していないと、転記作業に手間がかかり、入力ミスを誘発します。 |
このように、請求業務は適切に管理・作業すべき事項が多く、企業の成長に伴って作業量も増大します。
請求業務DX推進の3つのポイント
DXが進まない理由として、「取引先に電子データの請求書を依頼しにくい」、「属人化していても何となく回せているので、IT化の必要性を感じない」 といった現場の声があります。
まずは小さな一歩から始めることが成功の鍵です。
- ポイント1:現行業務を洗い出し、無駄な作業を削る
まず行うべきは、業務の洗い出しです。
特に、管理情報が多いことで発生しがちな「二重入力」作業は、経営者が気づいていない隠れたボトルネックであることが多いです。
担当者へのヒアリングを通じて無駄な作業を見極め、業務自体を削減できるようなアドバイスが求められます。 - ポイント2:一部業務の省力化から提案する
業務の洗い出しが終わったら、IT化の検討に入ります。
例えば、インターネットバンキングを利用するだけでも、通帳記帳が不要になり、入金状況を画面で確認・データ取得できるため、入金確認の省力化につながります。
業務変更に不安を抱く担当者にも配慮し、「焦らずゆっくり」と成果を実感してもらいながら進めることが大切です。 - ポイント3:多機能または連携が可能なシステムを提案する
IT化の提案時には、各工程の情報を連携できるシステムを検討しましょう。
電子請求書の発行機能だけでなく、取引先管理、入金管理・督促機能、そして会計ソフトとの連携など、必要な情報の一括管理や作業代行機能を持つシステムを選ぶことが重要です。
支払
請求業務と表裏一体なのが、請求書を受領して支払いを行う「支払業務」です。
従来は紙の請求書が中心でしたが、最近はメール添付やウェブサイトからのダウンロードなど、受取方法が多様化し、管理が煩雑になっています。
また、2024年1月からは電子データで受け取った請求書は電子データのまま保存することが義務化されており(電子帳簿保存法)、経理担当者の業務プロセス見直しが必須となっています。
支払業務のフローと課題
支払業務は、①各部署(営業担当など)または経理部が請求書を受領し、②内容を確認した上で経理担当者に回付、③経理担当者が期日までに振込作業を行い、④完了後に会計ソフトへ仕訳登録、という流れが一般的です。
このフローにおける課題は以下の通りです。
- 課題1:関係部署が多い
請求書を経理担当者以外(例:営業部門)が受け取ることも多く、経理担当者に請求書が渡るまでのフローが確実でないと、支払漏れが発生し、企業の信頼を損なうことになります。 - 課題2:受領方法の多様化
受領方法が多様化し、特にメールで届いた電子請求書は、他のメールに埋もれて処理が漏れるケースが多く見受けられます。 - 課題3:法制度への対応(電帳法)
電子取引データ保存の義務化に対応するため、従来の紙中心の業務フローや管理方法の変更が余儀なくされています。
支払業務DX推進のポイント
支払業務は、「請求書のフォーマットが取引先ごとにバラバラだから、結局は人が目で確認するしかない」と考えられ、DX化が難しいと思われがちな領域でした。
しかし、近年の技術進化により、この常識は変わりつつあります。
- ポイント1:業務フローの見直しを提案する
まずは、法制度への対応(電帳法)が必須であることを踏まえ、業務フローの見直しを提案します。- Step1: 各部署での電子データ受領の割合と方法をヒアリングします。
- Step2: 電子データを各担当者が処理するか、経理部で一元管理するかを決定します。
- Step3: 紙で受領する請求書の運用方法も併せて検討します。
- Step4: 電子データと紙、それぞれの業務フローを新たに作成します。
- ポイント2:「AI OCR」の活用を伝える
支払業務はDX化できることをしっかり伝えることが重要です。
ひと昔前は請求書の読み取り精度が低かったOCRですが、昨今は「AI OCR」(学習機能があるOCR)が進化しています。
フォーマットが異なる請求書でも、AI OCRが取引先、金額、支払期限といった必要な情報を高い精度でデータ化できるようになりました。 - ポイント3:システム連携を前提に選定する
請求書をデータ化するだけでなく、そのデータを元に支払データを作成し、インターネットバンキングと連携させることが可能です。
もちろん、会計ソフトへの連携も実現できます。
システム選定の際は、「①電子帳簿保存法に対応しているか」「②AI OCRの精度は十分か」「③他システム(FBデータや会計ソフト)との連携性」などを確認し、最適なシステムを提案しましょう。
会計
会計業務は、会社のお金の流れを帳簿に記録・処理することです。
会計は、社内向けの経営判断に活用する「管理会計」と、株主や金融機関など社外向けに報告する「財務会計」に分けられます。
日々の請求業務や支払業務の処理を積み重ね、月次決算書を作成し、最終的に年次決算を行うのが会計処理の大まかな流れです。
月次決算を早期化できれば、毎月の営業成績や財政状態をタイムリーに把握でき、経営判断のスピードアップにつながります。
会計業務のDX化への課題
会計業務は請求書や領収書など「紙」を取り扱う機会が非常に多く、紙文化が根強く残っている部門です。
コロナ禍においてテレワークを導入しようにも、請求書の発行・受取や、経費精算の処理のために出社せざるを得ないケースが多く見られました。
このように非効率な体制のままでは、経理部門は日々の業務をこなすだけで手一杯になり、経営判断に資する「管理会計」の実施まで手が回らず、結果として経営判断の遅れにつながる悪循環に陥ります。
■会計業務DX推進のポイント
この状況を打開するため、以下の手順でDXに着手することをお勧めします。
- ポイント1:会計ソフトのクラウド化
まずは会計ソフトを「クラウド型」に移行することを検討しましょう。
インターネット環境さえあればどこからでもアクセス可能になります。
・リアルタイム共有
従来のインストール型ソフトでは、税理士がデータを確認している間、企業側は入力を停止する必要がありましたが、クラウド型ならその必要がありません。
・業務効率化
企業側と税理士が常に同じ画面を見ながら打ち合わせができるため、資料の事前準備なども不要になります。 - ポイント2:証憑書類の電子化
前述の「請求」や「支払」業務のDX化を進めることで、仕訳入力作業そのものをシステムに任せることが可能になります。
担当者は入力作業から解放され、データの「チェック」のみに集中できます。 - ポイント3:データ連携による省力化
各システムでチェックした仕訳データを、手入力ではなくデータ連携で会計ソフトに取り込むことで、工数を大幅に削減できます。
・証憑連携
請求書や領収書の画像データも仕訳データと同時に連携(紐付け)できれば、後からの確認作業が格段に楽になります。
・自動仕訳
スキャナ保存やバンキングデータ(銀行明細)と連携し、AIが仕訳を自動で作成してくれるソフトも増えています。
まずは「会計ソフトのクラウド化」と、「人が手入力する」業務スタイルを見直すことからスタートしましょう。
出張管理
営業部門などでは出張業務も多く発生します。出張費(交通費、宿泊費など)は高額になることもあり、社内規程が複雑になりがちです。
出張管理の課題
課題は、規程の複雑さからくる「チェック機能の形骸化」と「不正リスク」です。
複雑な出張規程をすべて把握している上長は少なく、チェックが行き届かない結果、「規定額以上のホテル利用」や「架空出張の申請」といった不正が発生する余地が生まれてしまいます。
根本的解決のために規程を厳格化するよりも、むしろ「簡素化したい」という声が圧倒的に多いのが実情です。
出張管理ツールのポイント
こうした課題は、出張の手配から精算までを一元管理できる「出張管理ツール」の活用で解決できます。
- ポイント1:立替・精算業務の削減
ツールを通じて会社が一括で旅費を支払う(後日一括精算する)仕組みを導入すれば、従業員の「立替負担」がなくなります。
これにより、従業員への精算業務そのものも不要になります。 - ポイント2:出張規程のシステム反映
ツール内に自社の出張規程(例:宿泊費の上限額)を登録しておくことができます。
規程に違反する申請はエラーが出るなど自動で制御できるため、上長や経理担当者のチェックコストを大幅に下げ、不正防止にもつながります。 - ポイント3:会計ソフトとの連携
出張費用は、部署別やプロジェクト別などで経費按分する煩雑な作業が発生しがちです。
出張管理ツールが会計ソフトの様式に合わせたデータを出力できれば、経費按分の手間も大きく削減できます。
経費精算
経費精算とは、従業員が業務で立て替えた交通費や備品購入費などを、会社が従業員に支払う(精算する)ことです。
ここでも「紙の領収書」を「手渡し」で申請・処理するアナログな運用が多くの企業で残っており、テレワークの妨げになっています。
アナログな経費精算の課題
例えば、従業員が手土産代と電車代を立て替えた場合、①領収書をもらい、②ICカードで移動し、③申請書に手土産の領収書(原本)を貼り、④交通費(定期区間を除く)を調べて記入し、⑤上長の承認(押印)をもらい、⑥経理に提出、というフローが発生します。
この運用には、以下のような課題があります。
- 申請者・承認者の手間
手書きの申請書は読みにくく、交通費の定期区間控除や運賃が正しいかを経理が再確認する必要があり、膨大な時間がかかります。 - 経理担当者の手間
上長が多忙で承認が遅れることもあります。さらに、集まった証憑(領収書原本)は最低7年間保管する必要があります。
経費精算システム導入のメリット
経費精算システムの導入メリットは、申請者側と管理者(経理)側の双方にあります。
| 対象者 | メリット | 詳細 |
|---|---|---|
| 申請者 | 入力業務の削減 | スマートフォンで領収書を撮影(AI OCR)するだけでデータ化できます。 交通費も乗換案内機能で自動算出され、定期区間も自動で控除されます。 |
| ステータスの見える化 | 申請が今「誰で止まっているか」が可視化され、承認遅れを防ぎやすくなります。 | |
| 管理者 | 確認作業の時間削減 | 交通費などが自動計算されるため、金額間違いの確認作業が不要になります。 不備があった際の差し戻しもシステム上で完結できます。 |
| 振込データの作成 | 承認されたデータに基づき、インターネットバンキング用の振込データを自動作成できます。 | |
| 会計ソフトとの連携 | 精算データから仕訳データを作成し、会計ソフトに手入力する手間を削減できます。 |
システムのポイント
経費精算システムは多数ありますが、選定の際は「コスト面(従量課金か定額制か)」や、「他のバックオフィス業務(勤怠管理や給与計算など)との連携性」の確認が必要です。
総務
総務部門は、従業員が円滑に仕事をするためのサポート(福利厚生、受付、物品管理など)を一手に担う部門です。
業務範囲が広く柔軟な対応が求められるため、業務が「属人化」しやすく、DX化が難しいという印象を持たれがちです。
しかし、「昔ながらの習慣で『人』でないと対応できない」と思い込んでいる業務も、システムに合わせて業務フローを見直すことでDX化が可能です。
こんなお悩みはありませんか?
- テレワークをしたいが、出社しないとできない仕事(電話番や押印など)が多い
- 事務作業が属人化しており、DX化できるイメージがわかない
電話対応
「固定電話のために会社に誰か残らなければならない」という声は、テレワーク導入の第一の難関としてよく聞かれます。
しかし、会社の代表電話番号をスマートフォンで受発信できるようにする「クラウドPBX」というサービスなどを利用すれば、自宅や外出先でも会社の電話対応が可能になります。
固定電話が理由で出社せざるを得ないお悩みは、DXで解決できます。
受付
コロナ禍で来客が減り、有人受付のあり方を見直す企業も増えました。
かといって有人受付を廃止し、総務担当者が都度対応すると業務負担が増えてしまいます。
そこで、受付にタブレット端末(受付システム)を設置し、無人化するDXが有効です。
来客者がタブレットから担当者を直接呼び出せるため、総務担当者の手を煩わせません。
また、会議室の入退室管理と連携させれば、会議室の利用状況の可視化にもつながります。
座席管理
テレワークと出社のハイブリッド勤務を導入した結果、「フリーアドレス」にしたものの、座席の管理が課題になっているケースがあります。
紙や表計算ソフトで毎日の座席表を管理するのは困難です。
座席管理業務をDX化(座席管理システムを導入)すると、誰がどこに座っているか、どこが空いているかが可視化されます。
事前に座席を予約できるため、出社してから席を探す無駄な手間も省けます。
法務
契約書は、企業間取引だけでなく雇用契約などにも関わる重要書類であり、その締結や管理は企業の存続にも直結します。
しかし、従来の「紙と押印」による契約業務は、締結までに多くの部門(営業、法務、バックオフィス)が介在し、時間がかかる上、紛失リスクも伴います。
こんなお悩みはありませんか?
- 契約書の押印のためだけに出社しており、テレワークが進まない
- 契約書関連の業務フローが煩雑で時間がかかる
- 電子契約に興味はあるが、紙の契約書と何が違うのかわからない
契約締結・管理
法務(Legal)と技術(Technology)を組み合わせた「リーガルテック」という言葉が注目されています。
特に導入が進んでいるのが「電子契約システム」です。
最大のメリットは、電子契約では「印紙」が不要になる点であり、契約金額が大きく印紙代が高額になりがちな業種では、大きなコスト削減につながります。
電子契約システムの仕組み
電子契約システムは、契約業務のプロセスをデジタル上で完結させます。
- 作成から申請・承認まで一元管理
システム上で契約書を作成(またはPDFをアップロード)し、そのままシステム上で承認フロー(ワークフロー)に回すことができます。紙の原本を回覧する必要がなくなります。 - メールを利用した「電子署名」で押印が不要に
承認された契約書は、取引先のメールアドレス宛に送信されます。
郵送にかかる費用と時間が大幅に削減されます。取引先がそのシステムを使っていなくても、メールさえあれば締結が可能です。
※注意点:この「電子署名」が、紙の「押印」と同等の意味を持ちます。そのため、送信先(相手方)のメールアドレスの保持者が、押印権限を持つ方かどうかを事前に確認する必要があります。 - データ管理が容易に
双方が電子署名を完了すると、ほぼ同時に「タイムスタンプ」が付与され、締結完了となります。
契約書データは自動的にシステムに格納されるため、契約書の回収作業やファイリング、保管場所の確保が不要になります。
電子契約と紙契約の違い
電子契約を導入する上で、紙契約との法的な違いを理解しておく必要があります。
| 比較項目 | 紙契約 | 電子契約 |
|---|---|---|
| 準拠法 | 民事訴訟法 | 電子署名法 |
| 証拠力 | 署名または押印 | ①電子署名、②タイムスタンプ |
| 原本 | 押印された紙 | 電子署名・タイムスタンプが付与されたPDFデータ |
電子契約 導入時の3つの注意点
- 原本は「PDFデータ」である
電子署名とタイムスタンプの情報はPDFデータにのみ記録されています。そのため、PDFを印刷した紙は法的な証拠になりません。必ずPDFデータを原本として保管する必要があります。 - 電子署名・タイムスタンプの確認方法
これらの情報は、Adobe Acrobat Readerなどの特定のソフトでないと確認できない場合があります。 - 契約書の「末尾文言」の変更
紙契約で一般的な「本契約書2通を作成し、各々記名押印の上、1通ずつ保管する」といった文言は、電子契約用に変更する必要があります。
例えば、「電磁的に作成し、記名押印に代わる電磁的処理を施し、双方保管する」のように、電子的処理を前提とした内容に変更しなければ、万が一の際に証拠として認められないおそれがあります。
人事労務
働き方改革関連法の施行により、「時間外労働の上限規制」や「年5日の有給休暇取得義務」、そして「労働時間の客観的な把握」が企業に厳しく求められるようになりました。
従業員の適切な勤怠管理は、今や企業の義務です。
こんなお悩みはありませんか?
- 勤怠の集計期間(月末月初)は、担当者が忙殺されていて話しかけにくい
- 従業員が新しい勤怠管理システムに対応できるか不安だ
- 勤怠管理システムの種類が多く、どれを選べばよいかわからない
勤怠管理
適切な勤怠管理は、従業員の過重労働を防ぎ、健康維持(ひいては企業の生産性向上)につながります。
アナログな勤怠管理の課題
タイムカードや手書きの出勤簿、表計算ソフトでの管理は、一見コストが安く簡単に見えます。
しかし、以下のような大きな課題があります。
- 不正・ミスの温床
他人による代理打刻(不正)が可能です。
また、打刻漏れに気づきにくく、集計時に表計算ソフトへ手入力する際にミスが発生しやすいです。 - 集計の手間
担当者が毎月、タイムカードの時刻を転記し、労働時間、残業時間、休暇日数などを手作業で集計する必要があり、膨大な手間がかかります。 - 長時間労働に気づけない
最大の問題は、1ヶ月分の集計が終わるまで、誰がどれだけ残業しているかをリアルタイムで把握できないことです。
集計が終わって初めて「残業時間が上限を超えていた」と発覚するようでは、法律が求める「労働時間の客観的な把握」ができているとは言えません。
勤怠管理DX推進のポイント
「コストをかけたくない」「従業員が混乱する」といった理由でIT化が進まないケースもありますが、法令順守の観点からもDXは急務です。
- ポイント1:法令順守の必要性を認識してもらう
まずは経営者自身が、従業員の適正な勤怠管理は法律で義務化されていることを理解することが先決です。 - ポイント2:システム導入のメリットを伝える
勤怠管理システムを導入すれば、日々の打刻が即座に集計され、その日までの労働時間や残業時間がリアルタイムで確認できます。
これにより、上限を超過しそうな従業員に事前にアラートを出すなど、法令を順守した働き方改革が実現します。
また、集計結果をCSVデータで書き出し、給与計算システムにインポートすれば、手入力作業もゼロになります。 - ポイント3:企業に合ったシステムを提案する
導入当初は、社内ルール(就業規則)をシステムに正しく設定したり、従業員への操作説明が必要だったりといった手間はかかります。
しかし、これは一時的なものです。
企業の勤務形態(シフト制、フレックスなど)に対応しているか、職場環境に合った打刻方法(ICカード、スマホ、PCなど)が選べるか、他システム(給与計算)と連携できるかなどをヒアリングし、最適なシステムを導入しましょう。
給与計算
給与計算は、従業員の生活に直結する重要な業務であり、頻繁に変わる法律や税率への対応も求められる繊細な作業です。
月々の計算だけでなく、賞与や年末調整もあり、業務内容がブラックボックス化しやすく、属人化の傾向が強い業務です。
担当者の退職や休職によって給与支払いが遅れるリスクを避けるためにも、IT化が推奨されます。
給与計算業務の課題
給与計算システムを導入している企業でも、その前後の作業がアナログなままであることが多いです。
- 課題1:登録する個人情報が多い
従業員情報(住所、扶養、口座、社会保険情報など)の登録項目が多く、これらが正しく登録されていないと計算ミスにつながり、信頼関係を損ねます。 - 課題2:手作業に伴う確認作業
勤怠管理の集計結果や各種手当など、変動する項目を表計算ソフトなどから給与計算システムへ「手入力」している場合、入力ミスを防ぐための確認作業に多くの時間が割かれます。 - 課題3:給与計算後の後作業が多い
計算確定後も、①インターネットバンキングに従業員ごとの振込金額を「手入力」し、②給与明細書を印刷・封入し、従業員へ配布する、といった作業が発生します。
ここでも入力ミスや配布ミスが許されないため、担当者は常に神経を使っています。
給与計算DX推進のポイント
「これ以上どうすることもできない」と思われている業務にも、DXの余地はあります。
- ポイント1:手作業の業務を洗い出す
まずは業務フローを可視化し、どこで「二重入力」や「手作業」が発生しているかを経営者にも把握してもらいましょう。 - ポイント2:デジタル化・IT化を提案する
- データ連携
勤怠データをCSVでインポートする、振込データをインターネットバンキング用に作成する、といった機能だけでも、手作業によるミス防止と確認作業の時間を大幅に短縮できます。 - 給与明細の電子化
給与明細を紙ではなくPDFでメール配信したり、システム上で閲覧できるようにしたりすれば、印刷・封入作業がなくなり、ペーパーレス化(コスト削減)にもつながります。
- データ連携
- ポイント3:連携可能なシステムを提案する
現在は、人事、労務、勤怠、給与計算、年末調整までを一連で管理・連携できるシステムが多くあります。
例えば、入社時の情報登録や年末調整の申告書を、従業員自身がスマホなどから直接入力できるシステムを活用すれば、労務担当者の入力誤りや業務負担を劇的に減らすことができます。
人材管理
労働人口の減少が予測される中、新しい人材の獲得競争はますます激化しています。
また、獲得した人材の能力やスキルを把握し、適切に配置・育成することも、企業の競争力維持に不可欠です。
こんなお悩みはありませんか?
- 煩雑な採用事務に追われ、応募者の見極めに集中できない
- 従業員の能力やスキルを把握し、適切な人材配置を考えたい
- 従業員個人のノウハウが共有されず、社内に蓄積しない
採用
採用業務は、応募から採用に至るまでのプロセス管理が煩雑になりがちです。
このプロセスを一元管理し、効率化できるのが「採用管理システム」です。
システムを導入することで、求人募集、応募受付、応募者との連絡調整、面接の進捗管理といった作業を効率化し、採用担当者が”人材の見極め”という本来の業務に注力できるようになります。
システムのポイント
システムを選定する際は、以下の点を確認しましょう。
- どのような採用がメインか?
新卒採用、中途採用、アルバイト・パート採用では、適したシステムが異なります。
例えば、アルバイト採用で応募数に課題がある場合、利用率の高い求人検索エンジンやメッセージアプリと連携できるシステムが有効です。 - どの業務を効率化したいか?
「オンライン面接機能が欲しい」「面接官のカレンダーと自動で日程調整したい」など、特に効率化したい業務は何かを明確にします。 - 機能と使いやすさ(ユーザビリティ)
自社の採用プロセスを網羅できる機能があるかはもちろん、操作画面が見やすく、現場の担当者が使いこなせるかを事前に確認することが重要です。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員のスキルや経験、人事評価といった情報を一元管理・分析し、経営目標を達成するために戦略的な人材配置や育成を行う人事管理の手法です。
タレントマネジメントシステムのポイント
このシステムは、ただ導入するだけでは失敗しやすい(活用されずに終わる)ため、提案には注意が必要です。
- ポイント1:導入目的を明確にする
最も重要なポイントです。目的が曖昧なまま導入すると、闇雲にデータを収集してしまい、いざという時に必要な情報が引き出せず活用できない、という事態に陥ります。
まずは、「将来、会社に必要になるのはどんな人材か?」「業績を上げるため従業員はどう動くべきか?」といった人材戦略をお客様に熟考していただく必要があります。 - ポイント2:トップダウンで必要性を周知する
従業員に「なぜ自分の情報を提供しなければならないのか」という必要性が納得されていないと、情報収集に協力してもらえず、システムが機能しません。
経営陣が主導し、「集めたデータをどう活用するか(例:適切な配置や育成に役立てる)」を従業員に説明し、全社的な協力体制を築くことが導入成功の鍵となります。
教育研修
「仕事で得たノウハウが個人の経験にとどまり、組織に蓄積しない」という悩みは業種を問わずありがちです。
事例共有システムの導入
社内でよくある質問(Q&A)や過去の事例、仕事の進め方などを「ストック情報」として蓄積・検索できる「事例共有システム」の導入が有効です。特に、新人教育の効率が格段に向上します。
動画マニュアルの活用
新人教育をOJT(実務を通じた教育)中心で行うと、教える上司の多忙さや能力によって、教育の成果や業務品質にバラつきが生じがちです(育成の属人化)。
そこで、業務マニュアルを動画化することが注目されています。
動画活用のメリットは以下の通りです。
- 必要な時に、必要な箇所を繰り返し視聴できるため、理解度がアップする
- 教え方や環境に左右されず、均一な内容の教育を受講できる
- 上司が不在でも新人が「聞けない」という悩みを解消できる
- 上司が新人に付きっきりで教える必要がなくなり、双方の生産性が上がる
営業
営業活動は、名刺交換から始まり、顧客管理、案件管理と、顧客にまつわる多くの情報を管理する必要があります。
しかし、中小零細企業では、これらの情報管理が担当者個人の手帳や名刺ファイル、表計算ソフトに依存しているケースが少なくありません。
これでは、会社として案件の進捗や売上見込みを把握するのが困難な上、担当者が休職・退職した際の引継ぎがうまくいかず、顧客満足度を低下させるリスクがあります。
こんなお悩みはありませんか?
- 名刺管理を個人任せにしており、社内で情報共有できていない
- 顧客情報が一元管理できていない
- 案件管理が属人化しており、会社として売上見込みを把握しづらい
名刺管理
名刺は重要なビジネスツールですが、個人がファイリングしているだけでは「個人の資産」でしかありません。
名刺管理ソフトを導入し、名刺情報をデジタル化して社内で共有することで、名刺は「会社の財産」となります。
社内での接点や過去の経緯が把握でき、見込み客の発掘やマーケティング活動にも生かせます。
オンライン面談で名刺交換しないケースが増えている昨今、オンライン名刺交換機能を備えたソフトも有効です。
顧客管理・案件管理
顧客情報や案件進捗を表計算ソフトで管理していると、誤ってデータを削除してしまったり、ファイルが部署ごとに分散して情報が一元化できない、といった問題が起こりがちです。
CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援)と呼ばれるシステムを導入し、顧客の基本情報、過去の取引情報、現在の案件内容、商談履歴などを一元管理することで、これらの情報は「会社の財産」となり、「ビジネスの種」となります。
- 現場(営業担当)のメリット
営業の進捗状況や滞っている案件を可視化できます。
また、商談履歴が残るため、急な担当者変更があっても顧客フォローが可能になります。 - 経営層のメリット
蓄積された情報をデータ分析やマーケティングに活用し、経営判断の材料として使えます。
システムのポイント
ただし、システムを導入した結果、営業担当者の主な仕事が「入力作業」になってしまっては本末転倒です。
「入力がしやすいか」「移動中(スマホ)でも入力・確認ができるか」「会社として管理したい項目が管理できるか」といった現場目線(ユーザー目線)でのシステム選定が重要です。
まとめ
DX推進は、単にITツールを導入することではありません。
まずは「業務の洗い出し(可視化)」を行い、「どこに無駄がありどんなリスクが潜んでいるか」を把握することから始まります。
そして、いきなり全てを変えようとせず、まずは「二重入力の削減」や「紙とハンコの廃止」など、現場の担当者が成果を実感しやすい小さなステップから始めるとよいと考えられます。
DX化は、これまで日々の作業に追われていた従業員を単純作業から解放し、より付加価値の高い業務(分析や改善提案など)に集中してもらうための経営戦略であるといえます。
