”地域密着で誰にでも愛されるお店”・”お客様のすべての要望に応えたい”という考えは、小さなお店においては、埋没し疲弊してしまうかもしれません。大手チェーン店と同じ土俵で戦い、便利さや安さで選ばれようとすると、資金力のない小規模店は必ず行き詰まってしまいます。接客やサービスといった”周辺価値”に頼るのではなく、本質としての”商品力”(基本価値)で顧客と深くつながるためには。
中谷嘉孝著「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」(株式会社クロスメディア・パブリッシング)を参考として。
”地域密着”の落とし穴、「周辺価値」の限界
接客やサービスは「本質」ではない
「笑顔での接客」「居心地の良さ」「お子様へのお菓子プレゼント」といったサービスはとても重要ですが、これらはあくまで商品の魅力を補完する「周辺価値」に過ぎないといえます。
例えば、”ごく普通のカフェ”で考えてみると、コーヒーの味(基本価値)は平凡で他店と変わらないとしたら、”Wi-Fiがつながる”・”椅子がふかふか”・”モーニングがお得”といった付加価値(周辺価値)で勝負するしかなくなります。
ただ、周辺価値だけでつながった顧客は脆いもので、隣にもっとWi-Fiが速くて、もっと安い店ができれば、お客様は簡単に乗り換えてしまいます。
その「乗り換え」を止める決定打がないからです。
”誰でもいい”=”どうでもいい”
多くの小さなお店は、”地域密着”を掲げ、近隣住民すべてをターゲットにしようとする結果、”老若男女どなたでも大歓迎”・”朝から晩まで営業”・”なんでもやります”などになります。
このスタンスは、一見親切に見えますが、恋愛に置き換えてみると異様さがあることに気づきます。
- 「タイプは選ばないよ。誰でもいいからデートしてよ。」
- 「暇だから一日中待ってるよ。」
- 「電話くれれば会いに行くよ。場所にどこでもいいよ。」
事業においても同じで、「誰にでも好かれようとする店」は、結局のところ、「誰にとっても特別ではない店(どうでもいい店)」になってしまいます。
競合に勝ち抜く上では、なんでもいいから合わせようとするのではなく、「あなたのお店でなければならない理由」を明確に持つ必要があります。
嫌われる勇気から始まる”リアルブランディング”
他では手に入らない独自の価値(基本価値)を磨き上げることを、著書では、「リアルブランディング」と定義しています。
リアルブランディングとは何か?
【リアルブランディングスキルの定義】
中谷嘉孝著「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」(株式会社クロスメディア・パブリッシング)より
「その店に通う理由」「その店でなくてはならない理由」になりうる価値。
恋愛に例えると「わたし、あなたじゃないとダメなの」の理由になりうる明確な基本価値のこと。
【リアルブランドの定義】
中谷嘉孝著「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」(株式会社クロスメディア・パブリッシング)より
規模の大小にかかわらず、揺るぎない信念と志から生まれた「明確なリアブラ力」(その店でなければならない理由)を持ち、ブレずに研ぎ澄まされた経営を実践している企業・お店のこと。
【リアルブランディングの定義】
中谷嘉孝著「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」(株式会社クロスメディア・パブリッシング)より
リアルブランドを構築するための方法。
揺るぎない信念と志から生まれた「明確なリアブラ力」を浸透させ、正当な価値交換を実現することにより、ユートピアビジネス(大好きな人たちに囲まれて、幸せな時間を過ごしながらも、きちんと儲かる状態)が育まれる。
単に知名度を上げることや高級なイメージを作ることではなく、「誰に、何を、どう売るか」をハッキリさせ、お客様がお店に通う理由を明確にすることであるといえます。
「尖った価値」
パクチー料理専門店を考えてみたときに、独特の香りが強いパクチーは、”大好物”という人と”絶対に無理”という人がはっきりと分かれる食材でもあります。
もしも店主が”パクチーが苦手な人もいるから”と気を使って、パクチーの量を減らしたり、クセのない無難な味付けに変えてしまったらどうなるか?
あの強烈な香りが好きだったのに、と失望し、既存の熱狂的なファンは離れていきます。
一方で、パクチーが苦手な人は、味が薄くなろうとも、そもそも来店することがありません。
結果として、誰の心にも刺さらない店になってしまいます。
このように、集客のツボは、値引きでもなく、やみくもに数を稼ぐことでもなく、スピードでもなく、「基本的な品質」であるといえます。
「情報価値」で選ばれるお店になる方法
商品力(基本価値)があることは大前提ですが、とはいえ、それだけではお客様には伝わりません。
つまり、「この店に通う理由」を明確な言葉にしたうえで、そのことを「情報価値」として届ける必要があります。
同じ商品でも言葉ひとつで価値が変わる
例えば、900円のオムライスがあるとして、A店はただ「昔ながらのオムライス」と書いてあり、B店は「佐賀県産の平飼い卵を3個使用し、じっくり3日間煮込んだデミグラスソースをかけた、ふわとろオムライス」と書いてあるとします。
味や値段が全く同じだとしても、B店のオムライスの方が、”美味しそう”・”こだわりがありそう”と感じさせる可能性が高いです。
これが「情報価値」の力であるとされ、この「伝え方」に差が生じるとされます。
リアブラ力を明確にする「3つの問い」
そのお店だけの”物語”を見つけ、「情報価値」を高めるために、著書では、以下の問いを投げかけてくれています。
問1:
あなたは自分のビジネスにおいて「この仕事をしていてよかった!」と感じたことがありますか?もしあるとしたら、それはどんな瞬間ですか?
問2:
あなたの提供する技術や商品は、お客様のどんな欲求を満たしてあげられるでしょうか?
問3:
あなたが一生付き合いたいと思う理想のお客様とは、いったいどんなタイプの人なのでしょうか?
この答えが見つかったとき、そのお店の「エレベーターメッセージ(ひとことで言える強み)」になります。
また、正確な口コミを発生させるためにも、「ミッション(使命)」の言語化があるとよいということになります。
そして、それを、ターゲットとなるお客様のライフスタイルに合わせた適切な媒体で伝えていくことが重要です。これは、常に「お客様のストーリーを考える」ということでもあります。
売り手と買い手の”相思相愛”
最終的に目指すべきは、売り手と買い手が価値観を共有し、ストレスなく喜びを分かち合える「ユートピアビジネス(相思相愛状態)」であると考えられます。
安売りしない
リアルブランディングにおいて、”安売り”は最もやってはいけないことであるとされます。
安さに惹かれて来る人というのは、もっと安い店が出れば、すんなり去っていってしまいます。
しかしながら、あなたの「こだわり」や「哲学」に共感し、高い価格でも納得して来店してくれる人は、あなたのお店との間に「相思相愛」の関係を築こうとします。
「価格」ではなく、「価値」を分かってくれるお客様のみを大切にすべきと考えられます。
理想の客が集まれば、スタッフも輝く
理想のお客様だけを集めることは、求人やスタッフ育成に、劇的な効果をもたらすことになります。
- お店の想いに共感してくれる「相思相愛」のお客様だけが集まる。
- 想定外の無理な要求をする客が存在しなくなり、顧客満足度とリピート率が上がる。
- スタッフは大好きなお客様だけに囲まれて仕事ができ、モチベーションが上がる。
この好循環が生まれると、お店は単なる”職場”ではなく、スタッフにとって”自分”を表現できる「舞台」になります。
まるで俳優のように、スタッフ一人ひとりが自分の役割に誇りを持ち、自信を持って、お客様をもてなすことができるようになります。
必要なのは、経営者の覚悟
必要なのは、「経営者の覚悟」だけであると考えられます。
流行に流されることなく、安売りに逃げることなく、自分たちの「価値」を信じて磨き続けること。
そして、生まれた「物語」に共感してくれるお客様こそは、あなたのお店を支え続ける生涯のファンとなります。
集客とは、頭数を集めることではなく、「あなたのお店じゃなきゃダメだ」と言ってくれる運命の相手を見つけることでもあります。
