市場が伸びている、利益率が高い、知り合いがその分野で成功している。そうした理由は事業を選ぶ入り口にはなりますが、それだけで踏み出すと、思わぬところでつまずくことがあります。事業が続くかどうかを左右する要素の中心にあるのは、”自分自身がその商品やサービスの一番のお客になれるか”という問いであると考えられます。
事業家bot著「金儲けのレシピ」(実業之日本社)を参考にして。
”儲かりそう”で選んだ事業がつまずく理由
詳しくない分野は、見えない落とし穴が多い
自分がよく知らない分野は、外から見ると儲かって見えても、中に入ると勝手が違うことがよくあります。
仕入れの相場。
客が本当に気にする点。
忙しい時期と暇な時期の波。
こうした肌感覚は、外から眺めているだけでは身につきません。
詳しくない分野ほど、想定外の出費や手間がかさみ、当初の計画からさも簡単にずれていきます。
看板の力を、自分の実力と取り違えない
大きな会社で長く活躍してきた人ほど、気をつけたい落とし穴があります。
これまで仕事がうまく回っていたのは、会社の信用や肩書きの力だった、という可能性。
取引先が会ってくれたのも、商品が売れたのも、その人個人ではなく、背後にある会社の名前を見ていたのかもしれない、という可能性です。
肩書きが外れた状態で、ゼロから同じ成果を出せるかどうか。
ここを冷静に見積もらないまま独立や新規事業に踏み出すと、見込んでいた売上が立たず、資金繰り、つまり手元のお金の出入りが一気に苦しくなることがあります。

”誰でも簡単に儲かる”話が、長続きしない理由
詳しくない分野の危うさに加えて、もう一つ知っておきたい現実について。
それは、儲かる商売には必ず人が集まる、という競争のしくみ。
儲かる話には、人が殺到する
ある商売がよく儲かると分かると、それを見た人たちが次々に同じ商売を始めます。
欲しい人の数に対して提供する店がまだ少ないうちは、価格を高めにしても売れ利益が大きく残ります。
ところが、提供する側が増えれば、当然、価格の競争が起き、1つあたりの利益はどんどん薄くなっていきます。
急に流行した飲食業態、しばらくすると街のあちこちにでき、やがては姿を消していく。
あの動きは、儲かる場所に人が集まり、利益が平らにならされていく流れそのものといえます。
”誰でも簡単に必ず儲かる”は、そもそも言葉として成り立たない
もし本当に、誰でも簡単に確実に儲かる方法があれば、世界中の人がいっせいにそれを始めるはず。
ということは、提供する側がすぐにあふれ、その儲けはあっという間に消えてしまうはず。
つまり、”誰でも、簡単に、必ず儲かる”という三つの条件は、現実的に考えて同時には成り立ちません。
”こうすれば必ず儲かります!”という手法そのものを売る商売を見かけたら、なぜその人は自分でやり続けずに、わざわざ他人に売るのかと一度立ち止まって考えてみる必要があります。
だからこそ、簡単に真似されない強みがいる
人が集まって利益が薄くなっていく世界で生き残るには、他人が簡単に真似できない何かが必要です。
その有力な一つが、「自分自身がその商品を深く理解している」という強みです。
ここで、最初に挙げた「自分が一番のお客になれるか」という問いに戻ってきます。
言いかえれば、重装備で正面から張り合わなくても、自分が深く知る場所で小さく始めて立ち回ることで十分に戦えるということです。
”自分が一番のお客”であることの強さ
競争のなかで消えずに残る強みは、外から買ってくるものではなくて、自分の内側にあるといえます。
一番のお客は、ニーズを内側から知っている
自分が日頃から使い、満足できないところに不満を感じている。
そういった商品をつくる人は、客が何に困っているかをわざわざ調査をしなくても肌で分かっているということになります。
”こういうものが欲しいのに世の中にない”という気持ちは、事業を前に進める強い動機になります。
自分自身が確かな利用者であるほど、改善の方向を見誤りにくく、ぶれない基準を自分の内側に持つことができます。
強みは「経験」だけでなく「深い関心」からも生まれる
”自分がよく知っている”という条件は、必ずしもその業界で働いた経験だけを指すわけではないといえます。
1人の利用者として誰よりも深くその分野に向き合ってきた、という形でも成り立ちえます。
欲しい品質のものが見つからず、自分で作り始めたことが事業のきっかけになったという例は少なくないものです。
大切なのは、”肩書きや経歴”ではなく、”その商品を本当に欲しいと思える当事者であるかどうか”です。
初期投資の重さは、経営の自由を奪う
選ぶべき事業の中身が見えてきたなら、次に「どれだけの元手で始めるか」という構えにも目を向けたいところです。
重い投資は、失敗したときの傷を深くする
最初に大きなお金をかける事業は、うまくいかなかったときの損失も大きくなるということになります。
一方、たとえ当たっても、得られる利益には思ったより上限があることが少なくありません。
例えば、客席を構える商売においては、置ける席の数、客が来る時間帯、料理や接客の回転の速さに、おのずとそれぞれ上限があるものです。
堅実にお金を運用して得られる資産運用が年に利回り数パーセントといわれるのに比べると、重い初期投資はその回収に長い時間がかかり、かつ、途中の変化に弱くなりがちです。
損するリスクは大きく、得には上限がある(ハイリスクローリターン)ということはよく把握しておく必要があります。
固定費は、毎月静かに体力を削る
また、重い初期投資は、たいていは大きな固定費とセットになります。
固定費とは、売上があってもなくても毎月出ていくお金のことで、家賃や人件費、設備の維持費などがこれにあたります。
売上が落ちた月でも固定費は変わらず出ていくため、手元の資金は静かに削られていくことになります。
始める前に、毎月いくらが必ず出ていくのかを把握しておくことは、資金繰りを守る最初の一歩になります。
まず軽く始めて、手応えを確かめる
最初から大きく構えるのではなく、”小さく始めて反応を見る”、という選び方もあります。
少ない元手で試し、資金を回収しやすい形から入れば、たとえ見込み違いがあったとしても傷は浅くてすみます。
”自分が一番のお客でいられる領域で、まず軽く試してみる。”
この組み合わせが、無理のない出発点になります。

踏み出す前に確かめたい、お金に関する問い
3つの問いで、計画を検算する
新規事業に踏み出す前に、次の3つを自分の言葉で答えられるかどうかを確かめてみるとよいと考えられます。
- 自分は本当にこの商品の一番のお客といえるか
- 毎月必ず出ていくお金がいくらになるかを、はっきりつかめているか
- 今の会社の看板による後押しを差し引いても、その事業は成り立つか
キャッシュフローが、勘の甘さを教えてくれる
詳しくない分野ほど、お金が入ってくる時期と出ていく時期のずれを読み違えがちになります。
売上が立つ前に仕入れや人件費が先に出ていき、手元の資金が先に細っていく。
これは利益が出ているかどうかとは別の問題なのです。
帳簿の上で黒字でも、手元の資金が尽きれば事業は止まってしまいます。
キャッシュフロー、つまり手元のお金の出入りを早い段階で数字に置き換えておくと、勘だけでは見えないリスクが先に見えてきます。
自分が客である場所から、一歩ずつ広げる
自分がよく知り、一番のお客でいられる場所を起点にすれば、挑戦の成功率はぐっと上がると考えられます。
外から来るものを何でも取り入れるのではなく、価値を見極めて選び取る。
そうした構えで、自分の強みのすぐ隣にある領域へ一歩ずつ広げていくほうが、無理なく遠くまで行けるはずなのです。

