”チャットボットを入れたけれど業務に定着しない”・”具体的にどこで使えばいいかわからない”といった課題に対し、あらゆる企業で等しく発生する書類業務に関し、「転記・抽出・作成」「レビュー」「整理・共有」の3つのパターンに分解し、生成AI(LLM)を具体的に「戦力」として業務フローに組み込むための方法について。
松本勇気著「生成AI「戦力化」の教科書」(株式会社日経BP)を参考にして。
「転記・抽出」・「作成」:暗黙知を言語化しAIに教える
書類業務の基本である「データの転記」と「文書の作成」。
これらは一見単純に見えるものの、実は人間の「判断」や「暗黙のルール」が多く含まれています。
従来の自動化とLLMの違い
これまでもAI-OCRやRPAツールで領収書の転記などは行われてきましたが、決算書から業績を読み解くような「文脈」や「一貫性」が必要な高度な転記は困難な状況でした。
LLMは過去の判断や文脈を参照できるため、こうした人間らしい柔軟な対応が可能になります。
業務をフローチャートに落とし込む
AIに的確に指示を出すためには、人間が無意識に行っている手順を言語化する必要があります。
「作成」業務においても同様で、稟議書や契約書には特有の「型」や、組織独自の「暗黙のルール」が存在しています。
AIに任せる際は、以下のステップをワークフローに組み込むことが重要です。
- 視点の定義
書類のどこを見るべきか(例:第○条、ヘッダーなど)を特定し、関係ない情報の誤抽出を防ぎます。 - ルールの明文化
「売上高は最新年度のもの」「契約期間は開始・終了をセットで」など、具体的な抽出・作成ルールを定義します。 - 整合性のチェック
過去のデータや他の項目と矛盾がないか確認させ、精度を高めます。 - フォーマットの指定
後工程で使いやすい形式(CSV、Markdown、指定テンプレートなど)で出力させます。
このように人間が教えていく(オンボーディングする)ことで、LLMは精度の高いドラフトを作成してくれるようになる道筋を作ることができます。
「レビュー」:AIによる事前チェックで手戻りをゼロに
作成された書類を確認する「レビュー」は、品質担保に不可欠ですが、多くの時間を要するボトルネックになりがちです。
ここでLLMを活用することは、業務スピードを劇的に向上させる鍵になり得ます。
「シフトレフト」で手戻りを削減する
ソフトウェア開発の概念である「シフトレフト(品質保証を工程の前段階で行うこと)」を書類業務にも適用します。
上司や法務部などの人間がレビューする前に、LLMによる自動レビューを受けます。
これにより、誤字脱字や必須項目の欠落といった基本的なミスを提出前に潰すことができ、レビュー担当者の負担と手戻りの回数を大幅に減らすことができます。
LLMが得意な3つのレビュー観点
LLMには、主に以下の3つの観点でレビューを行わせることが可能です。
- 正確性
数値の誤り、事実関係の齟齬、誤字脱字、根拠資料との整合性(ズレがないか)などがチェックされます。 - ルールへの合致
社内規定や業界標準、法律、マニュアル、指定フォーマットに準拠しているかが判定されます。 - 妥当性
過去の類似事例、事業方針、論理的整合性と照らし合わせ、内容が適切かどうかがチェックされます。
また、LLMは24時間365日稼働するため、経験の浅い社員にとっては、いつでもフィードバックをくれるメンターのような存在となり、人材育成の効果も期待できます。
「整理・共有」:ナレッジベースがAI活用の要
せっかく作成・レビューした書類も、活用されなければ意味がありません。
しかし、情報の整理は手間がかかり、陳腐化しやすいのが常でした。
AIは”賢い司書”になる
LLMを活用すれば、ベテラン社員が頭の中で行っているような高度な情報の整理を自動化できます。
- 自動タグ付け・分類
文書の内容を読み取り、検索しやすいタグやカテゴリを自動付与します。 - 要約の生成
文書を開かなくても中身がわかるよう、要点をまとめた要約を作成します。 - 構造化データの抽出
契約金額や期間などの重要項目をメタデータとして抽出し、検索性を高めます。
AIを「ツール」から「戦力」へ
整理されたナレッジベースは、人間が検索しやすくなるだけでなく、RAG(検索拡張生成)を用いたAIシステムの精度を飛躍的に高めます。
3つのパターン(転記&作成・レビュー・整理)は、バラバラに存在するものではなく、相互に連携しています。
- 転記・抽出でデータを集め、
- 作成で文書化し、
- レビューで品質を高め、
- 整理・共有で次なるAI活用のための知識として蓄積する。
このサイクルを回すことで、LLMは単なる便利ツールを超え、組織の知恵を継承し成長する「頼れる戦力」となります。
