社内に眠る議事録や契約書などの「非構造化データ」。単なるファイル保存では伝わらない文脈や暗黙知を、”LLMが活用できる資産”に変える鍵といわれるのが「ナレッジベース」です。ベクトル検索やメタデータを駆使し、AIの回答精度を飛躍的に高めるデータ整理のありかたについて。
松本勇気著「生成AI「戦力化」の教科書」(株式会社日経BP)を参考にして。
LLMのための「ナレッジベース」とは? ただのデータ保存と何が違うのか
多くの企業では、日々の業務で膨大な情報が生成されていますが、それらはPCやファイルサーバーに無造作に保存されがちです。
しかし、GeminiなどのLLM(大規模言語モデル)にとって、単にファイルが保存されているだけでは「知識」として活用できません。
なぜなら、LLMが知っているのは「学習時の一般知識」と「プロンプト(指示)に含まれた情報」だけであるためです。
社内固有の歴史やノウハウをLLMに理解させるために、人間用のデータベースとは異なる、LLM専用の「ナレッジベース」を構築する必要があります。
AI活用を阻む大きな壁が、データの形式です。
- 構造化データ
- ExcelやCSVのように行と列で整理されたデータ。
- コンピュータが扱いやすく、処理が得意。
- 非構造化データ
- 議事録、メール、契約書のPDFなど、形式が自由なテキストや画像。
- 人間には読みやすいが、コンピュータには意味の抽出が難しいデータです。
ビジネスの現場にある情報の多くは「非構造化データ」です。
これをLLMが扱えるようにするには、バラバラのデータをただ集める(データレイク)だけでなく、目的に合わせて整理・加工(データウェアハウス)し、検索しやすくする仕組みが不可欠になります。
AIに文脈を伝える技術:「ベクトル検索」と「メタデータ」
非構造化データをAIに「理解できる知識」として渡すためには、検索技術とデータのタグ付けが重要になります。
キーワード検索とベクトル検索の違い
従来の「キーワード検索(全文検索)」は、単語の一致を探すもので、明確な検索ワードがわかっている場合には有効です。
しかしながら、言葉のゆらぎや意味までは理解できません。
そこで注目されているのが「ベクトル検索」です。
これは言葉を数値の配列(ベクトル)に変換し、「意味の近さ」で検索する技術です。
- キーワード検索
- 特徴: 単語が一致するかどうかで文書を探す。
- 具体例: 「解約」で検索しても、「契約終了」のみを含む文書はヒットしない。
- ベクトル検索
- 特徴: 言葉の意味の近さ(ベクトル)で文書を探す。
- 具体例: 「解約」と「契約終了」は意味が近いため、関連文書として発見できる。
この2つを組み合わせた「ハイブリッド検索」を用いることにより、より精度の高い情報抽出が可能になります。
メタデータとチャンキングによる情報の最適化
検索精度をさらに高めるのが「メタデータ」です。
これは図書館の本の分類タグのようなもので、「作成者」「部署」「契約種別」などの属性情報をデータに付与します。
AIは、このメタデータを見て、膨大な情報の中から「法務部の文書だけ」「2024年のデータだけ」といった絞り込み(ファセット検索)が可能になり、回答の精度が向上します。
また、長い文章をそのままAIに渡すと処理しきれないため、意味のある単位で分割する「チャンキング」という処理も重要です。
適切に分割することで、AIは必要な情報をピンポイントで参照できるようになります。
知識を資産に変える運用サイクルと結論
ナレッジベースは一度作って終わりではなく、「ワークフロー」と連携させ、業務の中で知識が循環する仕組みを作ることが目的となります。
例えば、契約書のレビュー業務であれば、過去のレビュー結果をナレッジベースから参照することで、AIは一貫性のあるチェックが可能になります。
そして、そのレビュー結果をまたナレッジベースに保存することで、知識は常に最新化され、資産として蓄積されていきます。
ナレッジベース構築の7ステップ
実際に取り組む際は、以下のステップを意識してみるとよいとされています。
- 何のために作るのか(例:ヘルプデスクの自動化)を決める。
- 必要な文書(規定、マニュアル等)を洗い出す。
- 更新頻度や管理方法を把握する。
- ベテラン社員がどう情報を探しているかを分析する。
- システムを作る前に、プロンプトで試して精度を確認する。
- 検索エンジンなどを組み合わせて実装する。
- 情報を常に最新に保つ。
ナレッジベースで「暗黙知」をAIの戦力にする
生成AIを実務で戦力化するためには、社内に散らばる「非構造化データ」を、AIが理解できる「ナレッジベース」へと昇華させる必要があります。
ベクトル検索で「意味」を捉え、メタデータで「文脈」を補強し、適切なチャンキングで「読みやすく」する。
この一連のプロセスを経ることで、AIは単なるチャットボットから、社内の暗黙知を使いこなす頼れるパートナーへと進化していくことになります。
