”税金は安い方がいい”は本当?9割の経営者が知らない、会社の成長を加速させるお金の話⑤

会社の成長に、銀行との良好な関係は不可欠です。その関係を真のパートナーシップへと深化させるには、戦略的な視点が求められます。銀行の判断基準を深く理解し、交渉の要点を押さえることで、会社の成長を加速させるための関係性の構築とコミュニケーションについて考えます。

松波竜太著「その節税が会社を殺す」(総合出版すばる舎)を参考にして。

目次

銀行との対等なパートナーシップを築く基本戦略

銀行交渉には、実は金融機関を問わず通用する”セオリー”があります。

銀行は、社会インフラとして預金者保護という重要な使命を担っており、その融資判断には共通の原則があるためです。

まずはこの”セオリー”を理解することが、交渉のための第一歩になります。

基本的に、銀行が融資で重視するポイントは以下の通り。

銀行が融資で重視する4つの視点
  • 預金者保護の観点から、貸出しの「安全性」を最優先する
  • 客観的な指標として、過去の「実績」をシビアに分析する
  • 返済能力の証として、「手元資金の厚さ」を高く評価する
  • 他の金融機関の動向も参考に、協調性を保った判断を行う

これらの視点は、銀行が、健全な経営を続ける上で不可欠なものです。

つまり、これらのポイントを押さえて、自社の強みを的確に伝えることができれば、銀行にとってあなたは”貸したい相手”に変わるということになります。

次に、その上で、経営者が交渉の際に考えておくべき「3つの原則」について。

3つの原則
  • 自社が”優良な融資先”であるという点について十分にアピールする。
  • 複数の銀行と取引し、健全な競争環境を自ら作り出す。
  • ”対等なパートナー”という態度で交渉に臨む。

そして、行く先としては、「借入限度額まで長期資金を借り、手元資金をとにかく厚くする」ということです。

交渉のベストタイミングと切り出し方

銀行との交渉を進めるには、タイミングが非常に重要です。

交渉に最適な「時期」と「月」

交渉の前に、以下の2つの前提を確認しましょう。

  1. 交渉しなければ好条件は出ない
    銀行も営利企業なので、こちらからアクションを起こさない限り、わざわざ自分たちの利益を削るような有利な条件を提示してくることはありません。
  2. 複数の銀行と取引している
    取引先が1行だけでは、交渉が決裂した際に逃げ道がありません。「他行に乗り換える」という選択肢があるからこそ、銀行は真剣に交渉に応じてくれるのです。

この条件を満した上で、交渉に最適なタイミングは「折り返し融資」または「新規借入」の時であるといえます。
※「折り返し融資」とは、借入金の返済がある程度進んだ段階で、銀行側から当初の融資額まで枠を戻すことを提案してくるものです。返済実績があるため、銀行もぜひ次も貸したいと思いやすく、絶好の交渉チャンスとなります。

また、交渉に適した「月」もあります。

銀行の決算月である3月、中間決算の9月、そして年末の12月は、ノルマ達成のためにキャンペーンを張ることが多く、好条件を引き出しやすい時期です。

逆に、人事異動が多い4月や10月は避けた方が無難でしょう。

融資の申し込みから実行までは一般的に1ヶ月ほどかかりますので、タイミングを逃さないようこれらから逆算して早めに交渉を始めたほうがよいと考えられます。

決算月から3ヶ月が経過すると、融資審査のために試算表の提出を求められることが一般的であり、試算表よりも決算書の方が信頼性は高いため、決算書が完成した直後のタイミングで交渉できるのが最も望ましいと言えます。

最強の交渉=決算説明コンペ

通常時は、銀行窓口に出向くのではなく、担当者に来てもらうのが基本ではあります。

経営者がしょっちゅう銀行に出向くと、”業績が悪化して返済の相談に来たのではないか”と警戒される可能性があるからです。

そのうえで、最も効果的な交渉としては、決算が終わったタイミングで複数の銀行に一斉に声をかけ、個々の銀行へ赴き、決算報告を名目とした顔合わせ(=コンペ=交渉)を行うことであると考えられます。

”年1回の資金調達”として機会を絞ることにより、銀行も真剣になります。

決算説明を成功させ、”数字に強い社長”と印象付けるためのポイントは以下の3つです。

  1. 売上の2期比較
    増減の理由について、社長自身の言葉で説明できるように準備します。
  2. 専門家を同席させる
    細かい数字の説明は、会計事務所の担当者や経理担当者に任せ、自身の話しやすさを確保します。
  3. 今期の予定調達額を計算しておく
    事前に調達額を計算しておき、質問されたら即座に答えます。

この時、銀行側においては、担当者だけでなく、支店長や融資担当の役席者にも同席を依頼するのがポイントです。

決裁権を持つ人物に直接アピールすることで、話がスムーズに進み、より良い条件を引き出せる可能性が高まります。

また、往訪して支店内の複数の人に顔を知ってもらうようにすることで、その後の支店間の人事異動に備えることもできます。

こうした定期的かつ効果的な顔合わせを行う(=あくまで、借りたいときではないタイミングで会うようにする)ことにより、”必要なので貸してください”という立場から脱却し、”うちから借りてください”と銀行に言わせる関係性へと転換させることができます。

また、この複数行コンペの際には、必ず締切りを設けます。

”好条件なら借りてもいいですよ”という姿勢を見せることができれば、交渉は有利に進みます。

最も重要な注意点としては、こちらから”貸してください”と言わないようにすることだと考えられます。

このときに、他行の動向を探ってくる銀行は、融資に前向きな証拠です。

あくまで「良いご提案があればお聞かせください(条件が良ければ借りることを検討します)」というスタンスを貫くことが大切です。

「いくら借りたいですか?」と聞かれたら何と答えるか

銀行との面談で必ず聞かれるのが「いくらご入用ですか?」という質問です。

この質問にどう答えるかで、その後の交渉の主導権が決まります。

交渉の基準となる「今期の予定調達額」を計算しておくと、話が具体的になります。

計算式は以下の通りです。

必要調達額 = 「1年内返済長期借入金」ー「営業キャッシュ・フロー」+「当期の設備投資額」

そのうえで、銀行から融資希望額を聞かれたら、「いくらぐらいまでなら貸していただけそうですか?」と逆に質問してみます。

こちらの希望を先に伝えるのではなく、銀行側の考えを探る(かつ、こちら側でも事前に予定調達額を試算しておくことで、その考えの良し悪しの判断が可能になる)のがポイントです。

まずは「月商の3ヶ月の現預金を確保すること」を当面の目標とします。

この水準に達するまでは、銀行が「貸します」と言ってくれるのであれば上限額まで借りるというスタンスで問題ないと考えられます。

そして、月商3ヶ月分の預金を達成した後は、長期借入金の年間返済額を算出し、その返済額分を毎年借り入れることで、常に一定の預金残高を維持し、安定した資金繰りを実現することができます。

銀行の「支店の裁量権」を意識する

融資をスムーズに進めるためには、銀行の”支店の裁量権(支店決裁枠)”を意識することが重要です。

支店長の裁量で決められる金額の範囲内であれば審査はスムーズですが、それを超えると本部決裁となり、審査が厳しくなります。

支店の決裁枠は、銀行の種類や規模、そして取引実績によって異なります。以下に一般的な目安をまとめました。

銀行の種類・規模新規取引標準取引支店決裁
信金または地銀の小型支店500万円まで1,000万円まで
国金500万円まで1,000万円まで
都市銀、地銀大型支店、信金大型支店1,000万円まで3,000万円まで1億円まで
中小公庫・商工中金1億円まで2億円まで

この目安を参考に、相手の規模に見合った額を申し込むのがセオリーです。

なお、特に新規取引の場合、民間金融機関からは「1~2年返済」という短期の条件を提示されることが少なくありません。初回取引では多少条件が厳しくても、まずは取引実績を作ることが重要です。

一方、政府系の金融機関であれば、初回取引であっても「5~7年返済」という長期の条件で借りられることが多いため、うまく活用しましょう。

また、借入の際は、使途が限定される短期資金ではなく、使途の制限がない「長期の運転資金」として借りるのが、資金繰りを安定させる上で最も有利です。

つまり、企業側から見ると、銀行からの見直しの頻度が少ないほど有利になります。
よって、返済期間が長ければ長いほど、経営は安定します。

逆に返済期間が短いと、その都度銀行の判断を仰ぐことになるため、立場が不安定になりがちです。

よって、賞与や納税、大きな取引の都度、短期の融資を申し込むのではなく、それらも見越した上で、使途に制限のない「長期運転資金」としてまとめて調達する方が、はるかに有利であるといえます。

もちろん、銀行はリスクを減らしたい立場から、手形貸付などの短期融資を勧めてくることもありますが、安易に応じるべきではありません。

また、工場や機械といった設備を購入する場合には、必ず「設備資金」として融資を申し込むようにしてください。

運転資金と設備資金は別枠で見られることが多いですが、手続きが簡単なため、担当者から運転資金での調達を勧められるケースがありますが、資金繰りの観点から、「耐用年数を返済期間とする」融資を受けることが非常に重要です。

金利と返済期間はトレードオフの関係にありますが、資金繰りに不安があるうちは、金利よりも返済期間の長さを優先させましょう。

借入理由は”正直”が一番!銀行が納得する言葉で語る

融資を申し込む際、頭を悩ませるのが「借入使途(使い道)」です。

大前提として、借入の際に伝えた使い道は厳密に守る必要があります。

例えば、「設備資金」として借りたお金を運転資金に流用するなど、嘘の報告をすると、契約違反として一括返済を求められる可能性もあります。

多くの方が”何か特別な理由がなければ借りられない”と勘違いしていますが、実は、無理に理由をひねり出す必要はありません。
運転資金の借入であれば、以下のようなあいまいとも思える理由で十分です。

「何かあると心配だから、手元資金を厚くしておきたい」

下手に言い訳がましい理由を考えるよりも、よほど銀行員は納得してくれます。

最強のキーワード「増加運転資金」

さらに交渉をスムーズに進めるための、とっておきのキーワードがあります。

それが「増加運転資金」です。

これは、売上が順調に伸びているときに使える理由です。

一般的に、売上が増えると、売掛金の増加や在庫の積み増しが必要になるため、手元資金は逆に減少する傾向にあります。

この「売上増に伴う資金需要」は、企業の成長を示す前向きな理由であるため、銀行としても非常に融資しやすい案件となります。

よって、前期と比較して売上高が増えているタイミングで交渉すると、スムーズになると考えられます。

”儲かっているのにお金がない”という状況は、決して恥ずかしいことではなく、それは”成長の証”といえます。自信を持って「儲かっているから借りたい」と堂々と伝えるとよいと考えられます。

最強の交渉カードは、”借りたお金そのもの”

借入残高よりも多い資金を持っているポジションでいるようにする

企業側が「いつでも一括返済できるポジション(=借入残高よりも多い資金を持っているポジション)」にあれば、銀行より強い立場に立てるということです。

例えば、手元資金が6,000万円ある企業が、A銀行から1,000万円、B銀行から5,000万円を借りているとします。

この場合、B銀行の借入金を使えば、A銀行にはいつでも一括返済が可能です。

この状況でA銀行と交渉すれば、”条件が合わなければ取引をやめます”という万が一のカードを切ることもできます。

そのためには、まずは、融資額が最も小さい銀行から交渉を始め、そこで引き出した好条件を元手に、他の銀行とも交渉していくのがセオリーになります。

”実質融資額”について

交渉をさらに有利にする考え方が、”実質融資額”です。

実質融資額とは、融資額からその銀行への預金額を差し引いた金額をいいます。

銀行にとって、自行に多くの預金をしてくれる融資先というのは、リスクが低く、実質利息も高利率となるため、”とてもよい融資先”ということになります。

ここで役立つのが、預金機能のない日本政策金融公庫からの借入です。

公庫から借りた資金を、交渉したい民間銀行の口座に預けるだけで、簡単に「実質的には、銀行からは借りていない(むしろ銀行に対して貸している)」という状況を作り出すことができます。

「残高をもっと置くようにしたら良い条件を出してもらえますか?」といった要求も通りやすくなるのです。

また、加えて、その口座を使うことによる振込手数料収入、あるいは、社員の給与振込口座が取れるなどがあれば、銀行にとってメリットのあることであるため、これらをカードとして使うことができます。

「預金をどこに置くか」ということは、交渉の材料になりえると考えられます。

ですので、少なくとも、”借り入れのない銀行がメイン口座”という状態にはなっていないようにしたいところです。

銀行から「貸してください」と言わせる仕組みと、次のステージへ

地銀や都市銀行は、融資できる見込みのない企業に飛び込み営業をかけることはほとんどありません。

彼らが新規の優良な取引先を探す際に利用するのが、「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」といった調査会社のデータです。

したがって、これらの調査会社から調査依頼があった際には快く応じ、決算書も提出しておくことが、優良企業としてリストアップされ銀行からの飛び込み営業を呼び込むコツになります。

また、創業期にはお世話になることも多い「保証協会」ですが、会社のステージが上がれば、いずれ卒業すべき制度です。

保証協会付きの融資のデメリット
  • コストの増加
    銀行金利とは別に、保証料を支払う必要がある。
  • 実質的な融資元の単一化
    どの銀行から借りても、結局は同じ保証協会が審査するため、実質的に会社の命運を一つの組織に握られてしまう。
  • 銀行の当事者意識の低下
    万が一返済不能になっても保証協会が8割を肩代わりしてくれるため、銀行が真剣に融資に取り組まなくなる。
  • 融資枠の制限
    保証には限度額があり、事業拡大の足かせになる可能性がある。

ですので、以下の条件を満たしたら、保証協会を外す交渉を始めていきます。

  • 手元資金が月商の2ヶ月分以上ある
  • 融資額が1,000万円以上
  • 3期以上連続で黒字である
  • 自己資本比率が20%以上である

銀行は何かと理由をつけて保証を外すことに抵抗しますが、粘り強く交渉することが重要です。

特に交渉しやすいのは、以下の条件に当てはまる銀行ということになります。

  • 県外地方銀行の支店
  • 手元資金で一括返済が可能な状態になっている銀行
  • メイン口座として利用している銀行
  • 飛び込み営業で取引が始まった銀行

これらの銀行に対し、折り返し融資や新規借入のタイミングで交渉するようにします。

一行でもプロパー融資に応じてくれれば、それを実績として、「保証協会を外してくれなければ、プロパーで貸してくれる銀行に借り換えます」と、他の銀行にも交渉を広げていくことが可能になります。

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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