節税が会社の成長を妨げ、資金繰りを悪化させる原因になっているかもしれません。どん底の状態からでもキャッシュリッチな優良企業へと会社を生まれ変わらせるための具体的な工程について。
松波竜太著「その節税が会社を殺す」(総合出版すばる舎)を参考にして。
キャッシュリッチ企業への第一歩!月商3ヶ月分の手元資金を確保する3ステップ
会社の資金繰りを改善し、キャッシュリッチな状態を目指すためには、まず「月商3ヶ月分の手元資金を確保すること」が目標となります。
そのための具体的な工程は、次で構成されます。
すぐに出せる利益を出す!短期的な財務改善策
手元資金を確保する動きと同時に、すぐに出せる利益を捻出するための財務改善も一気に進めましょう。
これにより、金融機関への説明材料も増え、交渉を有利に進めることができます。
- 過去の整理を行う
不良債権の償却や、過年度の減価償却不足の解消などをこのタイミングで一気に行います。これらは特別損失として計上できるため、経常利益を傷つけることなく、次年度以降の負担を軽くできます。 - グループ会社間の整理
グループ会社間の取引が不透明な場合、銀行は融資に消極的になりがちです。合併や清算などを通じて関係性を整理し、クリーンな状態にしましょう。 - 銀行への事前交渉
決算期末が近づいたら、試算表を銀行に見せ、「今期はこれくらいの利益が出そうです」「今期は過去の膿を出しますが、来期はこれくらいの利益を出します」といった形で事前に交渉しておくことが重要です。 - 役員報酬変更のタイミング
役員報酬の変更は、決算が終わった後のタイミングがベストです。ただし、極端に下げすぎると個人の保証能力に影響し、再建と見なされない可能性もあるため注意が必要です。
ステップ1:無駄な出費をなくし、手元資金を増やす
具体的には、以下の項目を見直しましょう。
- 役員報酬のカット
- 不要な保険の解約
- 法人税を(過度な節税はせず)きちんと納める
- 毎月の試算表を作成し、利益と目標を正確に把握する
特に、社長自身が、毎月の利益をきちんと確認することが何よりも重要です。
ステップ2:融資を受け、手元資金を厚くする
自己資金だけで手元資金を増やすには限界があります。
会社の再建には「スピード」と「資金」が不可欠であり、躊躇せず一気に行動することが成功の鍵です。
そのために、金融機関からの融資を積極的に活用しましょう。
- 融資に前向きな銀行を選ぶ
- 金利や返済期間などの細かな条件よりも、「まずは融資を受ける」ことを最優先する
- 借りたお金は使わずにキープし、「実質無借金経営」を目指す
手元資金が少ないと、経営者は不安から正常な判断ができなくなりがちです。
まずは融資によって時間を稼ぎ、精神的な余裕を確保することが重要です。
ステップ3:銀行と交渉し、さらに有利な条件を引き出す
手元資金に余裕が出てきたら、次のステージとしてより有利な融資条件を引き出すための交渉を行います。
- 複数の銀行と取引し、競争させる
- 短期借入を長期借入に切り替える
- 保証協会付き融資から、銀行独自のプロパー融資への切り替えを目指す
- 銀行に頭を下げるのではなく、”借りてください”と言わせるような強い財務体質を築き上げる
2〜3年で実現!銀行から好条件を引き出す交渉術
財務体質の改善を進めると、2〜3年後には銀行交渉を有利に進められるようになります。
さらに好条件を引き出し、盤石な財務基盤を築くための具体的な手順について。
利益を武器に交渉を有利に進める
改善プランによって利益が出始めると、銀行との交渉力が格段に高まります。
- コンペの実施
複数の銀行に決算報告を行い、最も良い条件を提示した銀行との取引を拡大する「コンペ」が可能になります。これを機に、自社にとってふさわしくない金融機関には退場してもらうことも検討しましょう。 - 取引銀行の多様化
取引銀行に県外の地方銀行などを加えることで、競争を促し、より有利な条件を引き出しやすくなります。 - 預金の集中
交渉を有利に進めたいメインバンクに預金を集中させることも有効な戦略です。これにより、金利交渉などを有利に進められる可能性が高まります。 - 信用情報の活用
帝国データバンクなどの調査会社に情報提供を行うことで、銀行側からの新規融資の営業(飛び込み営業)が見込めるようになり、交渉の主導権を握りやすくなります。
財務的に安定してくると、銀行に「社債」を引き受けてもらうという選択肢も出てきます。
社債は、元本返済が満期一括で、月々の支払いは金利のみという特徴があります。
銀行による社債の引き受けはプレスリリースされることも多く、引き受けてくれた銀行以外からも信用を集めることができます。
財務的に盤石な体制が整ってきたところで、利益を平準化させる目的で、保険などを活用した節税策も検討していきます。
また、利益をよりコントロールしやすい時期に決算期を変更するなどの検討もしていくことも考えたいところです。です。
それ以前の段階では、節税よりも、納税して内部留保を厚くすることを優先します。
その事業、続けるべき?撤退すべき?冷静な経営判断を下すための損益分岐点分析
経費削減と並んで重要なのが「不採算事業からの撤退」です。
”これだけ投資したのだから、もったいない”という感情は、正しい経営判断を鈍らせます。
判断基準は「将来の利益」のみ
事業を継続するか否かの判断で、過去に投下した資金(サンクコスト)を基準にしてはいけません。
判断基準とすべきは、ただ一つ、「その事業が将来利益を生むか」どうかです。
具体的には、「粗利で固定費を賄えるか」という視点で判断します。
- 粗利
売上から、その売上を得るために直接かかった原価(材料費、商品代、外注費など)を引いた金額。 - 固定費
粗利を計算する際の直接原価以外の経費(人件費、家賃など)。
損益分岐点売上高を計算する
事業継続の可否を判断するために、「損益分岐点売上高」を計算してみましょう。
これは、利益がゼロ(損失もゼロ)になる売上高のことで、以下の式で求められます。
損益分岐点売上高 = 固定費÷粗利率
なお、固定費に含まれる「減価償却費」は、過去の設備投資の費用計上であり、事業をやめても返ってくるお金ではありません。
そのため、事業の継続・中止を判断する際は、固定費から減価償却費を除いて考える必要があります。
経営者が陥る罠を回避し、盤石な経営を築くための最終チェックポイント
会社の財務体質を強化していく最終段階として、経営者が陥りがちな罠とその回避策について。
不採算「取引先」からも撤退する
見直すべきは不採算事業だけではありません。「不採算取引先」との関係も見直す必要があります。
以下のような特徴がある取引先は、赤字の原因になっている可能性が高いと考えられます。
- 発注から納品までの期間が極端に短い
- 頻繁な仕様変更や、締切後の追加要求が多い
- 少量多頻度の発注で、段取り替えの手間ばかりがかかる
こうした取引先との取引をやめると、たとえ売上は一時的に減少しても、会社全体としては黒字化するケースが少なくありません。
安易な新規事業進出は避ける
業績が悪化すると、起死回生を狙って全く別の業種に挑戦したくなる経営者もいますが、これは非常に危険です。
全くの異業種では、成果が出る前に資金が尽きてしまうのが関の山でしょう。
事業を拡大するならば、まずは自社の強みを活かせる「隣接事業」や、既存商品の「新たな販売チャネル」への挑戦から検討するのが賢明です。
