人の心などは決して即断できない分からないものである。そのことを分かっておくための努力を絶やさないようにしようと思っています。
河合隼雄「こころの処方箋」(新潮社)を読んで学んだこと。
「分からない」ということを分かっておくこと
河合隼雄さんの書籍に、「こころの処方箋」という書籍があります。
河合隼雄さんとは、臨床心理学者で、日本人として初めてユング研究所でユング派分析家の資格を取得し、日本での分析心理学の普及・実践に貢献した方です。文化庁長官も務められました。
この書籍は冒頭章から衝撃的なタイトルで始まります。
「人の心などわかるはずがない」というタイトルです。
臨床心理学者の書籍で、このタイトルは非常に衝撃的だと感じる方が多いように思います。
書籍全体を読んでいくと分かるのですが、冒頭でのこのタイトルは、河合隼雄さんが言いたいことのすべてが詰まっていると言っても過言ではありません。
一般に、臨床心理学というと、「他人の心がすぐに分かるのではないか」「他人の心を見透かすことができるのではないか」というイメージを持たれがちですが、実際にはそうではないのです。
人の心というものは大変複雑で、分かっていることといえば、心理学という学問においてもまだまだ一部に過ぎないのです。
臨床心理学というのは、「人の心がいかに複雑で分からないものであるか」ということを確信をもって知っていることを差すのだと。
一般に出回る「心理学」といえば、あたかも人の心を分かり、分析し、見透かし、探りを入れ、操り、自分の思い通りにできるか、といった謳い文句であることが多いものですが、少なくとも、こと「臨床心理学」に限っては、それらは安易な謳い文句なのだということが分かります。
人の心に向き合えば向き合うほど「分からない」ということが分かるのであって、むしろそうであることが自然だと知っておくこと。
なぜなら、決めつけることは逃げともいえる場合も多いのであって、あくまで決めつけることなく、その人の道筋をともにし、その先に生まれ出てくるであろうあらゆる可能性も見逃さない姿勢こそが大事なのだ、ということです。
この書籍を読んだのは、私が20歳の頃でした。
この臨床心理学という分野における河合隼雄さんの姿勢は、私自身の人生に計り知れない影響を与えています。
私自身も、他人によくよく接するにあたっては、可能な限りそうありたい、と思うようになり、実践してきたからです。
決めることとは、楽になること
決めつけることは、とても楽です。
決めつけたがるということは、”自分は早く楽になりたい”と思っていることと同義と言ってすらよいかもしれません。
一見、問題が片付いたように見えるからです。
分析し、原因究明し、対策を打ち出す、ということも、物事を進めていくために非常に重要な要素なのですが、こと人の心ということに関していえば、その手順では解決しない場合の方が多い。
そう認識しておくことが大事だと感じています。
可能性の芽を摘まず、育てていく心構えを持つ
逆に、”決めつけない”ということは、苦しくもあります。
決めずに、あくまで分からないままにしておく。
さりとて目をそらさず、その人に寄り添って、ずっとそこに着目しておくということ。
未来志向で、様々な可能性があることを認識した上で、これから行く道筋に生じてくる様々な状況や心情を尊重し、未知の可能性の芽を摘まず、可能性を育てていく心構えを持つことが、その人のよりよい方向へお役に立てるのではないかと思いますし、仕事上に限らず、根本的に私が大事にしている姿勢でもあります。