個人事業主と法人、税金・信用・コストの8項目で比較してみる

「個人事業主」と「法人」のどちらを選ぶか。この選択は、単なる名称の違いだけでなく、将来の税負担や社会的信用、さらには融資の受けやすさにまで大きく影響を及ぼします。経営面と税制面の重要な8つのポイントから比較してみます。

目次

会社の骨格を決める!経営面8項目での徹底比較

事業を始めるにあたり、まず考えるべき経営の土台です。
ここでは「信用力」から「事業承継」まで、事業の根幹に関わる8つの項目を比較します。

項目個人事業法人ポイント
① 信用力やや劣る優れるBtoB取引や対外的なイメージにおいて法人が有利
② 融資審査やや不利な場合も有利財務諸表の信頼性から、法人が有利な傾向
③ 運営コスト低い高い設立費用も維持費も、個人が圧倒的に低コスト
④ 経理比較的簡易複雑申告書の複雑さや日々の記帳ルールが大きく異なる
⑤ 決算日12月31日(固定)自由に設定可能繁忙期を避けられるなど、法人は柔軟性が高い
⑥ 人材採用やや不利有利信用力と同様、安定したイメージで法人が有利
⑦ 社会保険任意加入(※)強制加入法人化の最大のデメリットで、コスト負担が大きい
⑧ 事業承継手続きが煩雑スムーズ株式の移転で済む法人の方が圧倒的に簡易

信用力(法人が有利)

屋号に「株式会社」と付くだけで、規模が大きく安定した事業所というイメージを持つ人は少なくありません。

特に企業間取引(BtoB)が中心の事業では、法人でなければ与信調査の段階で取引を断られるケースもあります。

法人は設立時に法務局へ登記され、代表者の住所氏名などの情報が公開されます。

これはデメリットにもなり得ますが、情報がオープンであることの代償として「信用の証」を得られるのです。

② 融資審査(法人が有利)

創業時の融資では、事業実績がないため「同業種での実務経験」や「自己資金額」、「事業計画」が審査の基準となります。

個人事業主だからといって一概に不利になるわけではありませんが、注意したいのは青色申告の選択内容です。

個人事業主は、簡易的な帳簿付け(損益計算書のみ作成)での申告が認められています。

しかし、この場合、事業の財産状況を示す「貸借対照表」がないため、金融機関は財務状態を正確に把握できず、融資審査で不利に働く可能性があります。

③ 運営コスト(個人事業が有利)

事業の運営コストは、初期費用(イニシャルコスト)と維持費用(ランニングコスト)の両面で、個人事業主の方が圧倒的に低く抑えられます。

  • イニシャルコスト
    個人事業の開業は、税務署への届出のみで費用はかかりません。
    一方、法人の設立には、株式会社で最低15万円以上、合同会社でも最低6万円以上の登録免許税などが国に納める費用として必要です。
  • ランニングコスト
    事業が赤字であっても毎年支払う義務のある「住民税均等割」は、個人事業主が年間5千円程度なのに対し、法人は最低でも年間7〜8万円かかります。
    また、経理が複雑になる分、税理士への報酬も法人の方が高くなる傾向があります。

④ 経理(個人事業が有利)

日々の取引を記録し、年に一度決算・申告を行う義務はどちらにもありますが、その手間と複雑さは法人の方が格段に上です。

法人では、自分(社長)への給与は「役員報酬」として厳密な税法ルールのもとで経理処理が必要になります。

また、社長個人と会社のお金の貸し借りも「貸付金・借入金」として明確に管理しなければなりません。

さらに、確定申告時には決算書に加え「勘定科目内訳明細書」という詳細な書類の作成も義務付けられており、作業ボリュームは個人事業主よりかなり多くなります。

⑤ 決算日(法人が有利)

個人事業主の場合、会計期間は「毎年1月1日〜12月31日」と法律で固定されており、変更は不可能です。

確定申告は翌年の2月16日〜3月15日に行います。

一方、法人は決算日を自由に設定でき、後から変更することも可能です。

自社の繁忙期を避けて決算月を設定できるため、業務の平準化を図ることができます。

⑥ 人材採用(法人が有利)

人材の採用においても、①の信用力と同様の理由で法人が有利です。

求職者は「株式会社」という言葉の響きから、規模が大きく安定した事業というイメージを抱きがちで、個人事業主よりも安心して応募できると感じる傾向があります。

⑦ 社会保険(個人事業が有利)

法人化を検討する上で最大のデメリットとも言われるのが、社会保険(健康保険・厚生金)への強制加入です。

たとえ社長一人の会社であっても、役員報酬を受け取っていれば加入義務が発生します。

保険料の負担は非常に大きく、役員報酬額面のおおよそ30%にものぼり、これを会社と個人で半分ずつ負担します。

一方、個人事業主の場合、常時雇用する従業員が5人未満であれば社会保険への加入は任意です。

⑧ 事業承継(法人が有利)

将来、事業を後継者に引き継ぐ際の手続きは、法人が圧倒的にスムーズです。

法人の財産や契約はすべて会社に帰属しているため、会社の所有権である「株式」を後継者に移転(相続、贈与、売買)させるだけで、事業承継は法的に完了します。

対して個人事業主の場合、店舗や不動産、借入金、各種契約など、すべての事業用財産を個別に名義変更する必要があり、手続きは非常に煩雑になります。

税制面から見る根本的な違い

経営面の違いを理解した上で、次に最も重要な「税金」の違いを見ていきましょう。

利益(所得)に対する税金の仕組みが全く異なるため、ここを理解することが最適な選択につながります。

個人事業主の税金:儲かるほど税率が上がる「超過累-進税率」

個人事業の利益(所得)には、主に「所得税」「住民税」「事業税」の3つが課税されます。

最大の特徴は、所得税に「超過累進税率」が採用されている点です。これは、所得が上がれば上がるほど、適用される税率も段階的に高くなる仕組みです。

所得税の速算表

課税される所得金額税率
~1,949,000円5%
1,950,000円~3,299,000円10%
3,300,000円~6,949,000円20%
6,950,000円~8,999,000円23%
9,000,000円~17,999,000円33%
18,000,000円~39,999,000円40%
40,000,000円~45%

所得が4,000万円を超えると所得税率は45%に達し、これに住民税(約10%)と事業税(最大5%)を加えると、トータルの税負担は最大で約60%にもなります。

法人の税金:利益の大きさに関わらず税率はほぼ一定

法人の利益には、主に「法人税」「法人住民税」「法人事業税」が課税されます。

法人税の税率は、所得税のような累進構造ではなく、ほぼ一定です。

中小企業の場合、課税所得が年間800万円以下の部分は15%、800万円を超える部分は23.2%と、2段階の軽減税率が適用されます。

地方税である法人住民税や法人事業税を含めた実質的な税負担率(実効税率)は、企業の規模や所得額にもよりますが、おおむね26%~35%の範囲に収まります。

法人化を検討すべきタイミング

ここまで見てきた通り、信用面や事業承継では法人が、コストや手間の面では個人事業主が有利です。

そして、税制面では「所得が少ないうちは個人事業主が、所得が大きくなると法人が有利」という構造になっています。

では、その有利不利が入れ替わる「法人化を検討すべきタイミング」はいつなのか。

「売上1,000万円」は大きな間違い!見るべきは「所得」

「売上が1,000万円を超えたら法人化すべき」という話をよく聞きますが、これはひとつの目安に過ぎません。

売上1,000万円は、あくまで「消費税」の納税義務者になるかどうかのラインであって、必ずしも所得税や法人税の有利不利を判断する基準ではないと考えたほうがよいと思われます。

本当に見るべきは、売上から経費を差し引いた「課税所得」の金額です。

最低検討ラインは「所得300万円」から

法人化を検討し始めるべき所得の目安は、300万円あたりからといわれています。

例えば、所得300万円の個人事業主の場合、税金と社会保険料の合計は約65万円になります。

しかし、同じ事業内容で法人化し、かつ、役員報酬や経費計上を相当に型にはめて最大限に工夫して会社の利益を0にした場合には、法人税や個人の税金、社会保険料(会社負担分含む)の合計は約39万円に抑えることも可能ではあります。

法人設立の初期費用や維持コストを考えると、節税額だけではすぐに元が取れないかもしれませんが、所得が400万円、500万円と増えていくにつれて、その節税効果はさらに大きくなっていきます。

焦らずに、「法人化」も少し視野に入れながら事業する

王道は、取引の都合上で最初から法人である必要がある場合を除き、まずは個人事業主としてスタートし、事業が軌道に乗って利益が増えてきたタイミングで法人化する「法人成り」も賢い選択肢です。

個人事業主として確定申告などを経験することで、スムーズに法人運営へ移行できるメリットもあります。

最終的にどちらを選ぶかは、税制面の有利不利だけでなく、信用力や運営コスト、そして何より「事業主として事業をどうしたいか」が大切であると考えられます。

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