孫子の兵法(47~49/軍争編)

「孫氏の兵法」から学べること。

目次

47)軍争編/迂直の計

原文

孫子曰、凡用兵之法、將受命於君、合軍聚衆、交和而舍、莫難於軍爭、軍爭之難者、以迂爲直、以患爲利、故迂其途、而誘之以利、後人發、先人至、此知迂直之計者也

書き下し分

孫子曰く、凡そ用兵の法は、将、命を君より受け、軍を合し衆を聚(あつ)め、和を交えて舎(とど)まるに、軍争より難きは莫し。
軍争の難きは、迂を以て直と為し、患を以て利と為す。故に其の途を迂にして、これを誘うに利を以てし、人に後れて発し、人に先んじて至る。
此れ迂直の計を知る者なり。

おおよそ用兵法において、将軍が君主から命を受けて軍を編成し、兵を集めて敵と対峙することとなる決戦地に素早く到着して有利な陣形を取ろうとする争い(軍争)ほど難しいものはない。
軍争の困難さとは、遠回りをショートカットし、有利な立場にすることが求められるからである。

策においては、遠回りの道を行くように見せかけて、敵を利で誘って遅らせ、こちらの思い通りに仕向けることで敵より遅れて出発したとしても、敵に先んじて目的地に到着することを指すのである。

このことは「迂直の計」と呼ばれる。

48)軍争編/軍争の利益とリスク

原文

故軍爭爲利、軍爭爲危。舉軍而爭利、則不及、委軍而爭利、則輜重捐、是故卷甲而趨、日夜不處、倍道兼行、百里而爭利、則擒三將軍、勁者先、疲者後、其法十一而至。五十里而爭利、則蹶上將軍、其法半至、三十里而爭利、則三分之二至、是故軍無輜重則亡、無糧食則亡、無委積則亡

書き下し分

故に軍争は利たり、軍争は危(き)たり。
軍を挙げて利を争えば則ち及ばず。
軍を委(す)てて利を争えば則ち輜重捐(す)てらる。
是の故に甲を巻きて趨(はし)り、曰夜処(お)らず、道を倍して兼行(けんこう)し、百里にして利を争えば、則ち三将軍を擒(とりこ)にせらる。勁き者は先だち、疲るる者は後れ、其の法、十にして一至る。
五十里にして利を争えば、則ち上将軍を蹶(たお)す。其の法、半ば至る。
三十里にして利を争えば、則ち三分の二に至る。
是の故に軍に輜重無ければ則ち亡び、糧食無ければ則ち亡び、委積(いし)無ければ則ち亡ぶ。

軍争は利益もあるがリスクもある。
戦における勝利と敗北は紙一重なのであり、迂直の計をしっかりと把握しておく必要がある。

全軍を挙げて有利な陣地を得ようとすると、敵より出遅れてしまうことになる。

一部を捨てて有利な陣地を得ようとすると、輸送部隊を置いていってしまうことになる。

防具を脱ぎ、昼夜を問わずに強行軍をして、百里先で有利な陣地を得ようとすると、防御力が下がり、主要な将軍が捕虜となってしまう。
なぜなら、強い兵は先行し、弱い兵は遅れ、十分の一程度の兵数しか間に合わないからである。

五十里先で有利な陣地を得ようとすると、先鋒の将軍が破られてしまう。
なぜなら、半分程度の兵数しか間に合わないからである。

三十里先で有利な陣地を得ようとすると、三分の二程度の兵数しか間に合わないことになる。

以上のように、軍隊とは、輸送部隊がいなければ滅び、食料がなければ滅び、物資の蓄えがなければ滅ぶのであるから、それを忘れてはならない。

49)軍争編/軍争には情報収集力が重要

原文

故不知諸侯之謀者、不能豫交、不知山林險阻沮澤之形者、不能行軍、不用郷導者、不能得地利

書き下し分

故に諸候の謀を知らざる者ものは、予め交わること能わず。
山林・険阻・沮沢の形を知らざる者は、軍を行(や)ること能わず。
郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず。

近隣の勢力の腹の内・謀を知らなければ、あらかじめそれらの近隣勢力と親交を結んだり同盟したりすることができない。

山林・険しい地形・湖・沼地など地形を知らなければ、軍を進めることもできない。

土地に詳しい案内役がいないと、地形の持つ有利性を味方にすることはできないのである。

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