「AIが実際にPC業務を実行してくれる」と知ったとき、”これは面白い”と思いました。チャット型AIとは違い、ファイルを操作したりソフトウェアと連携して処理を進めたりできる。その可能性に強く興味を持ち、業務導入しました。税理士事務所がClaude Codeを業務に組み込むまでの経緯と、実際に変わったこと・気をつけていること。
はじめに:税理士がClaude Codeを業務に使う?
動機はシンプルで、強い興味でした。
チャット型のAIは以前から、Gemini、Claude、ChatGPTを有料版で使っていましたが、「質問に答えてもらう」程度の使い方に留まっていました。
(GensparkやManusについては無料の範囲で少々という程度。)
転機になったのは、「AIが実際にPC業務を実行してくれる」と知ったことです。
単に返答するだけでなく、ファイルを操作したり、ソフトウェアと連携して処理を進めたりできるとのことで、「これは興味深い」と思いました。
XやYouTubeで実際の使用例を調べてみたり、コミュニティ(Michikusa株式会社「AI木曜会」)でのアーカイブ動画などで情報を集めるうちに、「ぜひ取り入れてみたい!」という気持ちが高まり、業務導入に踏み切りました。
なぜClaude Codeを選んだか
Anthropicの生成AI設計思想が面白い
哲学者が生成AIの人格形成に携わっている点がAnthropicの「Claude」の特長ではないかと感じています。
Claudeは特に意図の汲み取り力が高く、日本語が自然で分かりやすく丁寧な生成AIだなと感じていました。
さらに、そこに「答えるだけではなく、実際に動いてくれる」Claude Codeが、非エンジニアにも使いやすくなって登場、となると俄然、興味が湧きました。
そして実際に使ってみると、事務所のルールをあらかじめファイルに書き込んでおくことで、毎回の会話で自動的に読み込んでくれ、「自分がどういう事務所か」「何をやって何をやらないか」をAIが最初から把握した状態でスタートすることもできます。
最初はAntigravityで、そしてClaudeデスクトップアプリへ
最初はGoogle AntigravityというIDE(Cursorのようなもの)のエディタの拡張機能で使っていました。
エディタの拡張機能として動くため、左側に常にフォルダツリーが表示されて操作しやすく、コマンドライン(黒い画面)が超絶苦手な自分には、とても馴染みやすいと感じていました。
その後、Claude公式デスクトップアプリのアップデートが入り、フォルダツリー表示を含め使い勝手が大きく向上してきたため、今ではClaudeデスクトップアプリへと移行しました。
最初にやったこと:「事務所の方針」を書く
claude.mdで「やること/やらないこと」を明文化
Claude Codeには「claude.md」というファイルがあります。
ここに書いたことを、AIは毎回の会話全般の前提として読み込む最も基本的かつ重要なファイルであるといえます。
現在書いている内容としては、主に以下のものです。
- 事務所の基本情報(名称・業種・使用ツール)
- やること:仕訳の分類・登録補助、チェック、資料整理、提案書の下書き、請求書発行やフォルダ自動格納、ファイルのリネームや変換など
- やらないこと:税務判断、認証情報、個人情報の出力
- 判断の境界線:定型処理はAIが進める/税務判断はユーザーに確認/提案書は下書きのみ
- freeeなど外部ツールとの連携に関するルール
- 不明点は作業前に必ず確認すること、クライアント名は必ず二重確認することなど
文字を書きすぎないことも意識している
気をつけているのは、「書きすぎないこと」です。
ルールを細かく書けば書くほど、AIが読み込む情報量は増えるものの、かえって重要なことが埋もれてしまいます。
”これだけは絶対に守ってほしい”というポイントを絞り込み、端的に書く。
「claude.mdでなければいけないか?」「rules/hooksに定めるほうが適切?」「memory/work-logに記録する程度でも大丈夫?」
※rules、hooks、memory、あるいはwork-logは、Claude Codeがフォルダ内で作業しやすくするためのフォルダ(ディレクトリ)構成。
このバランス感覚が意外と難しく、今も試行錯誤しています。
claude.md運用ルール
- 50行程度に収める
- 一般的なベストプラクティスは書かない(プロジェクト固有ルールのみ)
- 長くなってきたらClaude Code自身で整理・圧縮を提案するように設定しておく
- スキルファイルに詳細がある内容は参照リンクのみにとどめる
実際に使っている場面
Claude Code×freeeは「全体最適は何か」を見極めながら
freeeやマネーフォワードクラウド会計といったクラウド会計ソフトでは、Claude Codeの「MCP(Model Context Protocol)」という仕組みにより、直接つなぐことができます。
ただ、現状では、直接書き込む操作については、それありきでは考えず、慎重に進めています。
理由は、守秘義務やセキュリティもあるのですが、freee自体も急速にAI機能を拡張しており、”わざわざClaude Codeを使わなくてもfreeeの機能で十分”という場面も全然あり得ます。
また、そもそも「この業務は本当に必要か」という業務設計の視点から見直してみると、AI云々の前に工程が省けるケースもあります。
現時点での整理としては、こんな考え方で使っています。
- そもそもその業務が必要か・シンプルかを考える
- freeeの標準機能で対応できないか検討する(セキュリティや守秘義務の観点からも)
- Claude Codeは、むしろfreeeで操作する前段階のファイル等の「前捌き」として活用していくのがメイン
重宝しているのは「帳簿チェックスキル」
一方、「帳簿チェックスキル」はClaude Codeが最も威力を発揮している場面のひとつです。
まずは事務所の月次チェックリストをスキルに取り込んで登録し、Claude Codeがそのリストに沿って帳簿を確認していく仕組みを作っています。
チェック項目は、使うたびに教え込んで磨いており、気づいた抜け漏れが出るたびにリストへ加えていきます。
人間がチェックする場合、集中力のムラや見慣れた処理への慣れから、定型的な確認ほど見落としが生じやすくなりますが、AIはむしろそういったムラが少なく、リストに書いてあることを毎回漏れなく確認します。
定型的なチェックの精度という点でも、人間以上の安定感があると感じています。
また、貸借ペアで0になるはずなのに合ってないもの(Amazonビジネス勘定や、資金移動などの諸口勘定)の消込み業務を通じた原因究明にはとてつもない威力を発揮します。
(生成AIの特性に最もマッチした業務かもと感じています。)
繰り返し業務を「スキル」として保存する
毎月発生する定型業務は、手順を「スキル」としてファイルに保存しています。
スキルとは、コマンドを入力するだけで同じ手順が再現できる仕組みで、”手順書”のようなものです。
一度スキルファイルを作ればスタッフも同じ手順で使え、また、Claude以外でも使うことができるため、汎用性も高く、かつ、業務の属人化も防げます。
片っ端からスキル化していっているのですが、意外と地道に役立ってくれているスキルとしては、以下があります。
証憑ファイルのリネーム
スキャンした領収書や請求書は、バラバラなファイル名のまま保存されがちです。
「日付・相手先・金額」の命名規則に沿って一括でリネームする処理を自動化することで、”開いて探す手間と時間”が減っています。
証憑データのcsvリストアップ
csvに「日付・金額・利用店舗、インボイス番号、購入内容概要」をリストアップも難なくできるので、全体の把握が簡単にできるほか、そのままfreeeの明細アップロードに使うこともできます。
jpg・HEIC→PDF変換
画像ファイルをPDFに変換するのはシンプルな作業ながら煩雑です。
これには実用上の理由があります。
Googleドライブで画像ファイルを開いても、現状、日本版ではGeminiサイドパネルを使うことができません。
PDFであれば、Geminiサイドパネルで内容のテキスト化や翻訳や確認をしてもらえます。
特に、英語・中国語・スペイン語の資料、記載内容や記載箇所が特異な資料、文字入力が面倒な資料などでは、Geminiサイドパネルが威力を発揮します。
士業として一番気になる「セキュリティ」をどうしているか
まず「知ること」から始めている
セキュリティ対策は、情報収集から始めました。
参考にしたのは、先駆者である畠山謙人税理士が公開してくださっている情報、Claude Codeのセキュリティを解説しているYouTube、専門家への随時相談です。
自分自身でも基本情報技術者試験の勉強を始め、自力でも技術的な背景の基礎を理解しようとしています。
何を言っているかの基本が分かる程度にはなりたいと考えています。
情報を集めたら、その内容をClaude・Claude Code・ChatGPT・Geminiに投げかけてみて、「これはどのような位置づけのどのような情報か」「これは自分の現在の環境にどう当てはまるか」「どう実装できるか」を確認するようにしています。
YouTubeの動画はGeminiに読み込ませてテキスト化すればClaudeやClaude Codeにも内容を渡せます。
案が固まったらClaude Codeに実装してもらう、という流れで堅牢化を進めています。
具体的に設定していること
- 認証情報が入ったファイル(.envやcredentialsなど)はAIが読み込めないようにブロック
- curlやwgetなど、データを外部に送信するコマンドをブロック
- ファイルの削除・移動はAIが単独で実行できないようにし、必ず人が確認を挟む
- Pythonスクリプトを使った迂回路も検知して止める仕組みを導入
「1回だけ許可」の逃げ道も残している理由
ブロックを厳しくしすぎると、正当な作業まで止まってしまいます。
そのため「1回だけ許可」という機能を使えるようにしています。
通常はブロックされる操作でも、明示的に許可ボタンを押せばそのセッションだけ実行できます。
「全部止める」より「普段は止めるが、必要なときは人が判断して動かせる」設計のほうが、実務の面からは馴染むと感じています。
正直よかったこと・手こずったこと
よかった:定型業務の「頭の使い方」が変わった
一番の変化は「手を動かすまでもないことに手を動かして時間を浪費する必要がなくなったこと」です。
また、ファイルの命名規則・PDF化・保存先・定型チェックなど、こういった「決まり切っていること」を毎回確認する作業から解放されました。
その分のエネルギーを、徐々に、クライアントへの提案・情報提供・税務判断といった「本来集中すべきこと」に使えるようになっています。
手こずった:Claude Code固有の「基礎概念」を理解すること
まずまず時間がかかったのは、Claude Code特有の構造を理解することでした。
「CLAUDE.mdとは何か」「スキルはどこに置けばいいか」「hookとは何をするものか」「ディレクトリ構造はどう整理すべきか」、こういった基礎的な概念を掴むのに、最初は手探りでした。
チャット型AIにはない概念が多く、使いながら少しずつ理解を積み上げていくしかありませんが、知れば知るほどにその設計思想が面白いとも感じます。
技術的なエラーはその都度Claude Codeに聞けば解決できましたが、「そもそも何を設計すればいいか」という問いは、自分で考え続けるしかない部分です。
今後の課題としては、セキュリティと守秘義務の観点からどこまで使えるか・使うのかの見極め、そして全体最適を踏まえた業務設計への解像度を高めることだと感じています。
おわりに
AIは「判断」を代替しない、「手を動かす部分・パズルを解く部分」を代替する
税理士がAIを使う上で一番大切なのは、この線引きだと感じています。
ファイル整理・PDF変換・帳簿チェックといった「手を動かす部分・パズルを解く部分」はAIが担う。
ある意味では、会計の世界は、チェスや囲碁のように”ルールのあるゲーム”ともいえ、AIのルーツの一つでもあるゲームAIの特性ともマッチした部分があります。
一方で、「この支出はそもそも経費か」「この取引の税務リスクをどう評価するか」という「判断する部分」は人間が担わざるを得ない。
この役割分担の意識が明確なほど、AIを安心して使うことができます。
「Claude Code知識が完璧になってから使う」を待ち続けると永遠に導入することもできません。
現時点でできることを活用しつつ、慎重に少しずつ広げていくスタンスが現実的だと思っています。
次にやりたいこと
セキュリティや守秘義務や業務の全体最適のバランスを取っていくこと、安全安心に運用できるような仕組みに整えていくこと。
また、執筆時点では、Codexも使い勝手がよさそうです。ぜひこちらも試していきたいですが、それはClaude Codeで学んだ基礎があるからこそ思えることかもと思います。
