AIエージェントを自社の仕事に取り入れたいと思ったとき、最初にぶつかる壁は、実は技術の使い方ではなく、「どこから手をつければいいのか」という、業務の選び方になります。
池田朋弘『Claude 最強のAI自動化術』(芸術新聞社)を参考に、AIエージェントによる自動化の具体例を、営業からバックオフィスまで8つの業務領域・40近い事例に分けて整理してみます。
池田朋弘『Claude 最強のAI自動化術』(芸術新聞社)を参考にして。

営業・顧客対応とマーケティングでできること
営業やマーケティングは、情報収集とドキュメント作成の反復が多い領域であり、AIエージェントとの相性がよいと感じます。
営業・顧客対応
営業の現場でよく挙がるのは、次のような使い方です。
- 新規リード情報の自動調査
企業の公開情報を横断して、業界・規模・関心領域を整理する - 商談前ブリーフィングの自動生成
CRM(顧客管理システム)や過去のメール・商談履歴を集約し、訪問前のサマリー資料を作成する - 商談後フォローメールの下書き
議事録から要点や決定事項、タスクを抽出し、フォロー文面を起案する - 既存顧客の動向の継続追跡
取引先の人事異動や関連ニュースを追跡し、CRMへ反映する - ターゲット企業向け提案仮説の生成
ABM(特定の重要企業に絞り込んで働きかける営業手法)向けに、公開情報から仮説を含んだ提案メモを自動生成する
商談前の準備も商談後のフォローも、やるべきだと分かっていながら、案件が重なると後回しになりやすい作業です。
情報を集めてたたき台を作るところまでをAIエージェントに任せ、最終的な言葉選びや判断は人が行う。
この役割分担が、営業領域では特に役に立ちそうです。
商談件数が多く担当者ごとに準備の質にばらつきが出やすい会社ほど、恩恵を感じやすそうです。
マーケティング・コンテンツ
発信の側でも、似た構造の自動化が可能です。
- 競合価格の週次差分レポート
競合サイトを定期巡回し、価格や商品ラインナップの変更を抜き出してレポート化する - 業界ニュースの週次インサイト抽出
複数の業界ニュースサイトから、自社に関係の深い話題だけを要約する - ブランドガイドライン準拠の自動チェック
手元のガイドラインを参照し、原稿の表現チェックと修正案を提示する - SNS投稿のトーン別バリエーション生成
媒体ごとに最適化したトーンで、同一テーマの投稿案を複数作成する - LP表示・リンク切れの自動点検
公開中のLP(ランディングページ)を巡回し、表示崩れやリンク切れを検出する
競合や業界の動きを追うのは大切だと分かっていても、手が回らずに後回しになりがちな仕事です。
こうした、重要だが緊急ではないタスクは、自動化で拾い上げる価値があるものです。
また、発信を複数人で担当していて原稿のトーンにばらつきが出やすいチームには、ガイドライン準拠のチェックが特に向いていると思われます。

カスタマーサクセス・サポートでできること
営業の次は、既存のお客様への対応です。問い合わせ対応は、件数が増えるほど「誰が・いつ・何を」を把握しきれなくなる領域です。
- 問い合わせの自動分類と振り分け
内容を分析し、担当部署へ自動で振り分ける - 顧客フィードバックの感情分析レポート
問い合わせ・レビュー・通話記録を集約し、感情の傾向と課題テーマを抽出する - FAQ候補の自動抽出
よくある問い合わせから、FAQに追加すべき候補を週次でまとめる - 期限超過チケットの日次ブリーフィング
期日を過ぎた対応中の案件を、毎朝優先順位つきで整理して通知する - 顧客別対応方針の自動蓄積
個別顧客への対応履歴と方針を記録し、必要なときに呼び出せるようにする
特に、「期限超過の案件を毎朝知らせる」という使い方は、対応漏れという単純だが致命的なミスを防ぐ仕組みとして、業種を問わず応用できそうです。
問い合わせの感情分析やFAQ候補の抽出も、日々のやり取りの中に埋もれてしまいがちな情報を、定期的に拾い上げる仕組みとして位置づけられます。
サポート担当者が少人数で、対応履歴が個人の記憶に頼っている会社ほど、対応方針を蓄積しておく仕組みの効果は大きそうです。

財務・経理・法務でできること
顧客対応の次は、社内の数字と書類を扱う仕事に移ります。
- 領収書・請求書の自動仕訳
画像やPDFから金額・取引先・勘定科目を読み取り、仕訳台帳へ転記する - 月次財務差異分析レポート
予算と実績の差異を集計し、要因分析つきでレポートを生成する - 契約更新期日の自動通知
契約書を読み込んで期日を抽出し、関連文書とともに事前通知する - 社内規程改定差分の検出と要約
旧版と新版を突き合わせ、変更点を一覧化する - NDAの一次レビューと法務連携
契約書を読み込み、リスク条項や注意点を抽出して法務へ共有する
領収書から科目を読み取って転記するという最初の項目は、まさに経理の現場で日常的に発生する作業です。
金額や取引先を正確に読み取れるかどうかは実務では慎重に扱うべきところですが、下読み・下書きの段階をAIエージェントに任せられるだけでも、体感的な負担はかなり変わってきます。
契約更新期日の自動通知も、うっかり見落として更新料が発生する、といった小さな損失を防ぐ効果がありそうです。
数字や期日を扱う仕事ほど、人の記憶力に頼るより、仕組みで見張っておくほうが安心です。
経理担当が一人しかいない会社ほど、こうした見張り役をAIエージェントに分担してもらう意味は大きいのではないかと思います。

経営・戦略・企画でできること
数字を扱う領域を離れ、経営そのものに関わる意思決定の場面に移ります。
- 経営層向け日次KPIブリーフィング
複数の業績データを集約し、毎朝決まった形で配信する - 週次経営会議の未決事項自動要約
過去の議事録や関連メールから、未決トピックを抽出する - 市場規模試算レポートの自動生成
公開情報を集めて、新規事業の市場規模ドラフトを作成する - 新規施策の多角レビュー
法務・財務・顧客視点など複数の観点で施策案をレビューする - 競合製品の機能比較表自動作成
競合各社の公開情報をもとに、機能・価格の比較表を作成する
経営判断そのものをAIエージェントに委ねるわけではなく、判断の材料となる情報を、毎朝・毎週決まった形で手元に揃えておく。その準備作業を巻き取ってもらう、という位置づけです。
判断を代替するのではなく、判断のための土台を整える。
この線引きは、どの業務領域でも共通していると感じます。
未決事項の自動要約は、会議のたびに「あの件はどうなったか」を探す手間を減らせる点で、地味ながら効果が大きい使い方だと思われます。
複数の事業や拠点を抱え、経営層に情報を集約するだけでもひと苦労、という会社ほど効果を実感しやすい領域だと考えられます。

人事・採用とプロジェクト管理でできること
人材の採用・育成と、プロジェクトの進行管理には、記録と要約の反復作業が多く含まれています。
人事・採用・組織
- 候補者プロフィールの自動要約と懸念点抽出
履歴書や職務経歴書を読み込み、評価軸ごとに整理する - 職種別面接質問セットの自動生成
求人票や評価軸から、職種に合わせた質問例を作成する - 面接評価シートの自動統合サマリー
複数面接官の評価を集約し、合議に向けた要約を作成する - 新入社員オンボーディングタスクの自動生成
入社情報から手続き・備品・研修の段取りを起案し通知する - 従業員エンゲージメント調査の要約と課題抽出
自由記述を含む調査結果を分類・要約する
候補者一人ひとりの評価を丁寧に見る、という部分は人にしかできません。
一方で、評価をそろえて比較できる形に整えるところは、AIエージェントに任せられる余地が大きいと考えられます。
採用の頻度が高い会社ほど、面接質問の準備や評価の集約にかかる時間が積み重なっていると考えられます。
プロジェクト管理・チームコラボ
- 会議メモからの意思決定ログ自動生成
議事録から決定事項・担当・期日を抽出し、構造化ログとして保存する - プロジェクトロードマップ進捗の自動更新
散在する更新情報を集約し、ロードマップを最新化する - チーム横断の朝ブリーフィング自動配信
複数チャンネルの動きを集約して毎朝配信する - 週次会議報告書の自動生成
議事録や資料から、定型フォーマットの報告書を作成する - 全社会議録からの特定テーマ情報抽出
議事録を横断検索し、関心テーマに関する発言と決定を集約する
採用も進行管理も、「記録は残しているが、後から振り返って使える形になっていない」という悩みを抱えやすい業務です。
情報を構造化して残す、という一手間をAIエージェントに任せられれば、過去の記録が資産として使えるようになるはずです。
複数のチームやチャンネルをまたいで仕事が進む組織ほど、横断検索や自動要約の効果は大きくなると考えられます。

業務オペレーション・社内管理でできること
- フォルダの自動整理
種類・案件・日付などのルールに沿ってリネーム・分類する - 契約書PDFの自動リネームと台帳更新
書類から顧客名・日付を読み取り、命名規則を統一する - 重複ファイル・旧版資料の検出と整理
類似ファイルを比較し、最新版を残す候補リストを作成する - 社内ドキュメントからの自動FAQ生成
規程やマニュアルから、よくある質問と回答を整理する - 社内BIダッシュボードからのデータ自動抽出
API(システム同士がデータをやり取りする仕組み)が用意されていない画面も、ブラウザ操作を通じて必要なデータを取得する
ファイルの整理や命名規則の統一は、地味ですが、後から探す時間を大きく左右する仕事です。
一つひとつは小さくても積み重なると相当な時間がかかっているというのが実感に近いかもしれません。
社内のファイルサーバーが雑然としてきたと感じる会社ほど、着手する価値がありそうです。

自社にどれを入れるか、選ぶときの3つの軸
優先順位をつけるための3つの軸を整理してみます。
発生頻度
週に何度も、あるいは毎日発生している業務ほど、自動化した効果を実感しやすくなります。
月に一度しか発生しない業務は、多少手間がかかっても後回しにして構わないと考えられます。
まずは「頻度が高いのに、いまだに手作業」という業務を洗い出すところから始めるとよさそうです。
フォーマットが決まっているか
書く内容や集める情報の形式が、毎回ほぼ同じかどうかも重要な軸です。
商談ごとに全く違う切り口の資料が必要、といった業務は自動化との相性がよくありません。
反対に、報告書のひな形が決まっている、チェック項目が固定されている、といった業務は取り組みやすい候補になります。
判断より作業のほうが多いか
情報を集める、要約する、転記する、期日を確認する。
こうした「作業」の比重が大きい業務は任せやすく、逆に「この提案でよいか」「この人を採用すべきか」といった最終判断が中心の業務は、人が担うべき領域として残ります。
この3つの軸に当てはまる業務ほど、自動化の効果を実感しやすいはずです。
逆に言えば、どれにも当てはまらない業務を無理に自動化しようとすると、労力に見合わない結果になりがちだと思われます。
たとえば、毎月同じ形式で作成している報告書があるとします。
発生頻度は月1回とそれほど高くなくても、フォーマットが固定されていて、判断よりも転記や集計といった作業の比重が大きいなら、有力な候補になります。
反対に、毎回内容が大きく変わる企画書のように、判断そのものが中心の業務は、無理に自動化を狙うより人の手に残しておくほうが安全だと考えられます。
3つの軸のうち2つ以上に当てはまるかどうかを、最初のふるいとして使ってみるとよさそうです。
まとめ
こうしてあらためて並べてみると、8つの業務領域・30以上の事例に共通する構造が見えてきます。
情報を集める、要約する、決まった形式に整える、期日を見張る。
どれも人にしかできない判断ではなく、手間のかかる反復作業です。
ここに挙げたものは、あくまで一例にすぎません。
「毎回同じことをやっている」「フォーマットが決まっている」「複数のツールを行き来している」と感じる業務があれば、それはほぼ間違いなく自動化の出発点になると思われます。
