個人事業主の税務調査において、厳しくチェックされる項目の一つが「交際費」です。なぜ否認を迫ってこようとするのか、その裏側の法的論理と調査の筋書きを考えます。
調査官が“この交際費は削れる”と確信する理由
個人事業主の税務調査の選定段階で、売上高に対して交際費の割合が高いケースは、調査官から「経費を過大に計上しているのでは」と真っ先に疑われます。
彼らがその姿勢を崩さないのには、以下のような特有のロジックがあるからです。
「飲食代=家事費」という前提条件
調査官の基本的なスタンスは、個人事業主にとって“飲食代は本来、プライベートな生活費(家事費)であり、原則として経費にはならない”というものです。
これを覆して経費として認めてもらうには、納税者側が、「売上にどう繋がったか」「取引関係にどう必要だったか」を具体的に証明しなければならないのです。
例えば、「先生業」への先入観
特に調査対象者が医師や士業などのいわゆる「先生業」の場合、極端な場合、調査官から“立場的に相手からご馳走になることはあっても、自ら支払う必要はないのでは”という指摘を突きつけられることもあるといわれるほどです。
このように、「事業に関連することを納税者側が客観的に証明できない限りは否認できる」という心理的・論理的な優位性が、調査官の姿勢を支える背景になっています。
「反面調査」の心理を突いた調査の筋書き
交際費の事業性を証明する最も確実な方法は「飲食の相手方が誰であるか」を明かすことです。
しかし、ここには個人事業主にとってまずまず高いハードルも存在します。
反面調査というジレンマ
交際費の相手方を正直に伝えると、その事実確認のために取引先へ「反面調査(税務署が相手先に確認に行くこと)」が行われる可能性が生じることになります。
取引先に迷惑をかけたくない、あるいは関係を悪化させたくないと考える多くの個人事業主は、相手方の明示を断念せざるを得ないこともあります。
相手方が特定できなければ、納税者側は立証責任を果たせませんし、結果として、「では、交際費の◯◯%を削りましょう」という、調査官が当初から描いていた落としどころに持ち込まれる事態も想定されるのです。
趣味・親睦とみなされる支出の厳しさ
飲食以外でも、趣味と実益の境界にある支出は、過去の判断事例を見ても非常に厳しく取り扱われています。
- ゴルフ関連の支出
「取引先との関係構築に不可欠だ」と主張しても、過去の不服申し立ての事例では、そのほとんどが必要経費として否定されています。ゴルフは一般的に趣味・娯楽の側面が強いと事実認定されるためです。 - 諸団体の会費や同業者の集まり
ロータリークラブ、ライオンズクラブ、JC(青年会議所)などの会費は、事業への直接的な貢献が認められにくく、原則として経費算入はなかなか困難です。また、同業者同士の集まりも「単なる親睦目的」とされ、よほど実務に直結する勉強会でない限り、否認されるリスクが極めて高いのが現状です。
まとめ
結局のところ、交際費が否認される最大の理由は、家事関連費における「立証責任の転換」にあります。
本来、否認する側(国税側)が証拠を示すべき税務調査において、こと交際費に関しては「納税者が事業性を立証できなければ否認される」というルールが事実上適用されています。
相手方を明示できない支出は否認されるリスクが高いため、日頃から「いつ、誰と、何の目的で」支出したのかを明確に記録しておくことが、最大の防御策となるのです。
