「孫氏の兵法」から学べること。
68)行軍編/敵の動きを見極める③
杖而立者、飢也。汲而先飮者、渇也、見利而不進者、勞也、鳥集者、虚也、夜呼者、恐也、軍擾者、將不重也、旌旗動者、亂也
杖つきて立つは、飢うるなり。汲みて先ず飲むは、渇するなり。
利を見て進まざるは、労(つか)るるなり。
鳥集まるは、虚しきなり。
夜呼ぶは、恐るるなり。
軍擾るるは、将重からざるなり。旌旗の動くは、乱るるなり。
兵士が杖をついて立っているのは、疲れて飢えているからである。
水を汲んだ兵士が持参する前に自ら飲んでしまうのは、水が不足しているからである。
有利な状況で攻撃してこないのは、兵士が疲弊しているからである。
鳥が集まっているというのは、そこに敵兵がいないからである。
夜に敵陣から大声が出るのは、怖がっているからである。
軍が乱れ騒がしいのは、将の統率力が弱まっているからである。
軍旗がやたらと無秩序に動いているのは、軍の秩序も乱れているからである。
69)行軍編/敵の動きを見極める④
吏怒者、倦也、粟馬肉食、軍無懸缻、不返其舍者、窮寇也、諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也、數賞者、窘也、數罰者、困也、先暴而後畏其衆者、不精之至也、來委謝者、欲休息也、兵怒而相迎、久而不合、又不相去、必謹察之
吏怒るは、倦みたるなり。
馬に粟(ぞく)して肉食し、軍に懸缻(けんふ)なくして、其の舎に返らざるは、窮寇(きゅうこう)なり。
諄諄翕翕(じゅんじゅんきゅうきゅう)として、徐(おもむろ)に人と言(かた)るは、衆を失うなり。
数〻(しばしば)賞するは、窘(くる)しむなり。
数〻(しばしば)罰するは、困(つか)るるなり。
先に暴にしてに其の衆を畏るるは、不精の至りなり。
来たりて委謝するは、休息を欲するなり。
兵怒りて相迎え、久しくして合わず、又相去らざるは、必ず謹みてこれを察せよ。
将が兵士たちをむやみに叱りつけるのは、兵たちに厭戦気分が蔓延し、士気が下がっているからである。
兵の食料を軍馬に食べさせ、輸送車を退く牛を食料とし、鍋釜を壊してしまっているのは、その軍が進退窮まっているからである。
将がねんごろに下手に出て兵士に話しかけるのは、兵士からの信望を失ってしまっているからである。
将がやたらと兵士に褒賞を与えているのは、なす術がないからである。
将がやたらと兵士に罰を与えているのは、行き詰まっているからである。
はじめに兵士を乱暴に扱っておきながら、後に離反を恐れるというのは、非常にお粗末といわざるを得ない。
敵の使者がやってきて謝罪したり礼をつくしたりするのは、休戦して兵を休ませたいと考えているからである。
敵兵が出陣したのに、戦うこともなく退くこともないのは、何か裏があるからであって、慎重に観察し、情勢を見定めなければならないのである。