同じ生成AIに同じ質問を投げれば、誰がやってもよく似た「正解」が返ってくる時代になりました。
便利になったはずなのに、どこか落ち着かない経営者が増えています。”うちにしかできないこと”がだんだん減っていくように感じるからです。もし提供しているものがAIでも出せる「100点の正解」に近いなら、その仕事はやがて、より安く、より速く誰かに置き換えられていきます。
ではAI時代に、何が最後まで売れ続けるのか。
深津貴之・けんすう(古川健介) ・尾原和啓著「メタスキル」(NewsPicksパブリッシング)を読んで。
AIが「100点の正解」を量産する時代に起きていること
AIは膨大な過去データを学習し、その平均値や中央値から、失敗しない無難な答えを導き出す仕組みです。
つまりAIが得意なのは、過去の集大成としての「最大公約数」を出すことなのです。
便利さの先に待っている「均質化」
誰がAIに聞いても、似たような答えが返ってくる。
これは裏を返せば、世の中のコンテンツやサービスが、最大公約数に向かってどんどん似通っていくということでもあります。
単一の文化に染まっていく「モノカルチャー化」と表現されています。
つまり、商品も、サービスも、見せ方も、どこも似たり寄ったりになっていく現象です。
似てしまえば、お客様が比べる基準は最後に一つだけ残ります。
究極的に、それは価格になってしまうのです。

「数字のゲーム」に巻き込まれる怖さ
均質化した市場では、誰もが同じ土俵で戦うことになります。
アクセス数、フォロワー数、客数といった、目に見える数字を伸ばすゲームです。
これは、関心を奪い合う「アテンション・エコノミー(関心経済)」とされます。
問題は、このゲームが体力勝負になりやすいこと。
広告費をかけ、値引きをし、露出を増やし続けなければ数字が落ちる。
資金力のある大手と同じルールで殴り合えば、中小企業や個人事業主ほど消耗していきます。
数字は伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない。
その違和感の正体は、勝てない土俵で「数字のゲーム」を戦わされていることにあるのかもしれません。
唯一売れるのは「属性」と「文脈」—”拍手”ではなく”握手”を集める
では、均質化と価格競争から抜け出す道はどこにあるのか。
AIには決して出せないものを商材にするという方向であり、それが「属性」と「文脈」です。
AIに出せないのは「誰が、なぜ、どう」やっているか
同じカレーのレシピでも、AIは一番おいしい配合を一発で教えてくれます。
けれど、毎日試行錯誤しながら作り続ける人の、その積み重ねや偏愛までは再現できません。
何が語られているか以上に、誰が、どんな思いで、どんなリズムで語っているか。
そこにこそ、代替できない価値が宿ります。
これは「人」と「ストーリー」です。
なぜこの事業を始めたのか、何にこだわっているのか、どんな失敗を超えてきたのか。
その文脈は、世界に一つしかありません。
AIが正解を均一化するほど、「あなたという属性」の希少価値は上がっていくのです。
「拍手」を数えるより「握手」を増やす
示唆に富む対比として、「拍手と握手」という表現もありました。
拍手とは、不特定多数からの薄く広い反応のこと。
いいねの数や一見のお客様の数といった、見える数字です。
握手とは、特定の人と深くつながる関係性のこと。
何度も通ってくれる、人に薦めてくれる、多少高くても選んでくれる。
拍手を求めるゲームから降りて、握手が増えるループを設計するほうが、はるかにサステナブル(持続可能)だということ。
この対比はそのまま数字に表れます。
拍手で集まったお客様は、価格で来た以上、より安い場所へ価格で去っていきます。
握手で結ばれたお客様は、関係で来たので、関係が続く限り残ってくれます。
紹介、リピート、長いお付き合い。
これらは決算書のどこにも金額としては載りませんが、まぎれもなく会社を支える資産なのです。

あなたの事業は「どのゲーム」で戦っているのか
”成果が出ている”ことの落とし穴
人は成果が出ると、つい「これが正解だ」と思い込みます。
しかしながら、それは「評価の罠」ともいえます。
成果が出たのは、たまたまその時期に、AIに代替されやすい場所で戦っていただけかもしれない。
そう考えると、今の黒字が必ずしも実力の証明とは限らない、という見方が生まれます。
だからこそ、一つのゲームしか見ないのをやめ、「他に最適なゲームがあるかもしれない」という視点を持ち続けることが大切でもあります。
これは、ゲームそのものを俯瞰する「メタゲーム」の視点といえます。
お金のブロックパズルで「売上の出どころ」を見る
「お金のブロックパズル」では、売上を「客数」「単価」「頻度」といった要素に分解します。
ここで一歩踏み込んで、自社の売上が「拍手の売上」と「握手の売上」のどちらに偏っているかを見てみると、景色が変わります。
新規のお客様や一回きりの取引に依存しているなら、それは数字のゲームに乗っている状態かもしれません。
集客が止まれば、売上もすぐに止まります。
一方、既存のお客様や紹介からの売上が太いなら、関係性が利益を生んでいる状態です。
こちらは粗利も純利益も安定しやすく、キャッシュフローが読みやすくなります。
数字の大小だけを追うのではなく、その数字がどこから生まれているかを問う。
それが、自分が今どのゲームを戦っているのかを知る第一歩になります。
まず確かめたい、たった一つのこと
AIが正解を均一化していく時代に、最後まで残るのは「あなたという文脈」。
そして経営の安定をつくるのは、拍手の数ではなく握手の本数です。
もし次の一歩を選ぶとしたら、自社の上位のお客様が「なぜ、よそではなくここを選んでいるのか」を、あらためて言葉にしてみることであるといえます。
その理由が「安いから」だけなら、握手はまだ薄いのです。
「この人だから」「ここの考え方が好きだから」が出てくるなら、それこそがAIに代替されない、唯一の商材となります。
その理由を増やしていく経営こそが、これからの時代に選ばれ続ける道になっていくのではないかと考えられます。

