AIは、正しい答えや役に立つ情報を、ほとんどコストをかけずに大量に生み出せるようになりましたが、これは便利な反面、これまで多くの事業者が”付加価値”だと思っていたものの値段を、根っこから下げてしまう動きでもあります。これからの事業の支えになる新しい資産について考えていきます。
深津貴之・けんすう(古川健介) ・尾原和啓著「メタスキル」(NewsPicksパブリッシング)を読んで。
「役に立つ」が、どんどん安くなっていく
正解が一瞬で手に入る世界
少し前まで、「正しい答え」を出すこと自体に価値がありました。
正確な情報を持っている人、難しいことを分かりやすく解説できる人は、それだけで重宝されてきました。
ところが、AIは膨大な情報を整理して、そこそこ正しい答えを一瞬で返してくれます。
「正しさ」や「解説」は、もはや誰でも、ほぼ無料で手に入る時代になっています。
言い換えると、”役に立つ”という価値が、どこにでもある当たり前のものになりつつあるということです。
「役に立つ」から「意味がある」へ
では、AIが正解を量産する時代に、人間や会社は何を価値の中心に据えればよいのか。
1000万人より、1万人に深く
ひとつの方向性として、「役に立つ(Useful)」から「意味がある(Meaningful)」へ、価値の重心を移すという考え方があります。
役に立つ情報は、多くの人にとって便利ですが、その分だけ替えがききやすいものです。
一方で、「意味がある」とは、ある特定の人にとって、他では得られない大切な何かであるということです。
1000万人にそこそこ役立つことを目指すより、1万人に深く刺さり、「この人だから」と選ばれること。
そこにこそ、これからの価値が宿るという見方です。
これまでは、自分のこだわり・偏愛・とがった部分は、これまで”効率の悪いノイズ”とされがちでした。
しかしながら、これからは、”その人らしさそのもの”が他では真似できない資産になっていくのです。
信頼は、貸借対照表に載らない資産
この”意味がある”という価値について、より具体的に考えてみると、「信頼」という言葉にたどり着きます。
「信頼」は、決算書のどこにも資産として載りませんが、確かに事業を支えているものです。
信頼があるからこそ、”この会社だから”と選ばれる理由になっていくものです。
価格だけで比べられる事業は、粗利を削りながら戦うことになります。
しかしながら、「意味がある」と感じてもらえる事業は、価格の土俵から一歩降り、粗利を守りながら戦うことができるのです。
つまり「意味」とは、”決算書に載らないけれど確かに粗利を支えている資産”なのです。


小さな会社が「意味」を資産に変える
役に立つ部分は、道具に任せる
最初の一歩は、「これはAIに任せられる」という作業を、思い切って手放すこと。
正確さや効率が求められる定型作業は、人間が抱え込むほど消耗していきます。
そこを道具に任せて空いた時間とエネルギーを、自社にしか出せない価値に注ぎ直す。
この「引き算」が、意味を育てるための土台になっていきます。
自社の「偏愛」を言葉にする
次に取り組みたいのが、自社の”これは自分たちにしかできない”という部分を、言葉にしてみること。
いまの仕事の中で「これはAIにできそうだ」と感じることを、実際にAIにやらせてみる。
そのうえで、出てきた答えを見て、”ここは自分でないと出せない”と感じた部分を注視する。
その箇所こそ、自社の”意味”の源泉であり、これから磨いていくべき軸になります。
えてして、自社の一番の強みというものは、”当たり前すぎて価値だと気づいていない”ということがよくあります。
その言語化を、自身の事業を語ることができる外部の伴走者と一緒に行うということにも、大きな意味があります。
信頼は、複利で増える
信頼という資産は、複利で積み上がります。
一度、「この会社だから」と感じてもらえると、その人が次の誰かを連れてきてくれるようになっていきます。
派手な一発勝負で勝ち続けるのではなく、小さな信頼を積み重ね、それが複利で利息を生むように増えていく。
この静かな積み上げこそ、小さな会社が大企業のスケールや効率に対抗できる、最も現実的な戦略であるといえます。
AIが「役に立つ」を引き受けてくれる時代だからこそ、人間は安心して「意味がある」に全力を注げます。
自社にとっての「意味」とは何か。
その問いを持ち続けることが、これからの経営のいちばん確かな羅針盤になっていくように感じます。

