AIに仕事が奪われる職種はどれかというよりも、同じ職種の中でもAIとの向き合い方ひとつで価値が上がる人と下がる人に分かれているように感じられます。
池田朋弘『Claude 最強のAI自動化術』(芸術新聞社)を参考にして。
”その職種は危ない”では説明がつかない現実

ライターであれば、依頼された記事を量産して納品するだけの仕事は、AIによって価値が下がっているように感じられます。
クライアント側もAIで同じ品質のものを作れるためです。
一方で、AIに下調べと初稿づくりを任せたうえで、取材先との関係を築き、現場で見聞きしたことを構成や編集に活かせるライターは、むしろ価値を上げています。
AIが初稿を速く仕上げてくれる分、取材先とじっくり向き合う時間を確保できるためです。
営業も同じ構図のように感じられます。
定型的な架電を数多くこなす、テンプレートの提案書を送り続けるという仕事は、AIによって価値が下がっているように感じられます。
一方で、AIに顧客リサーチと提案の下書きを任せ、商談の場では相手の本音を引き出すことに集中できる営業は、商談の量と質を同時に伸ばしています。
デザイナーの世界でも構図は変わらずです。
依頼された仕様どおりに定型的なバナーや資料を作るだけの仕事はAIに巻き取られていっています。
一方で、クライアントの経営課題やブランド体験の設計にまで踏み込めるデザイナーは、AIが量産の部分を担ってくれる分、対話と意思決定にかけられる時間が増え、むしろ価値を高めているように感じられます。
カスタマーサポートも同様です。
よくある質問への一次対応は、AIによる置き換えが急速に進んでいます。
ただし、感情を伴う複雑な相談や、関係がこじれてしまった顧客との修復、長期的な信頼づくりといった仕事は、これからも人にしかできません。
一次対応の量はAIに渡し、質が求められる場面に人が時間を使う。
この配分の変化が、これからのカスタマーサポートの姿になっていくと考えられます。
経理もコンサルも、線引きは「職種」ではなく「役割」

経理の仕事も、伝票を起票し、仕訳を入力し、試算表を作成するという作業だけを担う経理担当は、AIによる影響を受けています。
一方で、AIに仕訳や集計を任せたうえで、その数字が何を意味するのかを経営者に伝え、資金繰りの見通しや次の一手の相談に乗れる経理担当は、これからむしろ必要とされる存在になります。
試算表の数字を眺めて「先月より利益が出ています」と伝えるだけの報告と、「この分野の在庫が積み上がっていて資金を圧迫しています」と踏み込んで伝える報告とでは、経営者にとっての価値はまったく違うものです。
同じ「経理」という仕事でも、単なる入力作業として捉えるか、経営を支える情報を扱う仕事として捉えるかで、価値の出方がまったく違ってくるのです。
コンサルタントの場合も、過去資料を整理してテンプレート通りのスライドを作るだけの仕事は、AIエージェントに奪われていきます。
しかし、AIに分析や資料づくりを任せ、自分は現場での対話や仮説構築、チームの意欲を高めることに時間を使えるコンサルタントは、AIの恩恵を受けて生産性を大きく伸ばしています。
コンサルタントという職種そのものが消えるのではなく、職種の中の役割分担が大きく書き換わっていると見るほうが実態に近いように感じられます。
問われているのは、AIで浮いた時間の使い方

ここまでの例に共通しているのは、職種そのものの優劣ではなく、「AIに作業を任せて浮いた時間を、何に使うか」という一点だということ。
同じ職種であっても、その時間をより深い関係づくりや、重みのある意思決定、独自性のある思考に再投資できる人は価値を上げていくように感じられます。
逆に、AIに渡せる作業をそのまま自分で抱え続け、時間を浮かさない、あるいは、浮いた時間があっても何にも使わない人は、AIの影響を受ける一方になってしまいます。
どの職種が危ないかを心配するというより、一人ひとりがAIに何を渡し、空いた時間で何をするかを設計する話だと捉えたほうが実際に近いかもしれません。
ライターに取材の質を、営業に商談の深さを、経理に数字の読み解きを、それぞれ求めるのであれば、まずは入力・整形・下調べといった作業をAIに渡す環境を整える必要があります。
そのうえで、浮いた時間を何に使ってほしいのかを、経営者自身が言葉にして伝えることが欠かせません。
今の仕事の中でAIに渡せる部分を見極め、残った時間の使い道を意識的に選ぶかどうかが、数年後の立ち位置を分けることになりそうです。
