生成AIを使って仕事をしていると、その処理の速さや的確さに「もう自分で考えなくていいのでは」と感じることさえあります。
資料を読み込ませ、簡単な指示を出すだけで、レポートの土台ができあがってしまいます。そんな体験を重ねると、「自分の役割は結局コピー&ペーストなのだろうか」と自嘲したくなることもあるかもしれません。
ただ、「考える」という営みを分解してみると、AIに任せてよい部分と、人間がやらなければならない部分の境界線がはっきり見えてきます。
池田朋弘『Claude 最強のAI自動化術』(芸術新聞社)を参考にして。
「考える」を4つの場面に分けてみる
AIの「考える」と、人間の「考える」は別物
「考える」とは、情報を処理し、そこから意味を見出す行為。
問題を解決すること、意思決定をすること、新しいものを発想すること、自分の行動を振り返ること。
これらはすべて「考える」の一部であり、意識的なときもあれば、無意識のうちに働いていることもあると考えられます。
生成AIの「考える」は、パターン認識と統計モデリング(大量のデータから規則性を見つけ出す処理)に基づくものです。
一方で、人間の「考える」は、意識・感情・内省・身体性・主体性に基づきます。
同じ「考える」という言葉を使っていても、内側で起きていることはまったく別物だといえるのです。
4つの場面に分けると、役割分担の輪郭が見えてくる
この2つの軸を掛け合わせてみると、「情報処理」、「意思決定」、「創造」、「振り返り」という4つの場面それぞれで、AIと人間がどちらを担うのが自然かが見えてきます。
共通するのは、「情報を扱う部分」と「意味付けをする部分」がはっきり分かれているという構造です。
線引きを曖昧にしたまま任せてしまうと、本来なら人間が引き受けるべき判断まで、AIの出力をそのまま受け入れる形になりかねません。
経営における投資判断のようにリスクを伴う場面ほど、AIが出したシミュレーション結果と、人間が下す最終判断とをはっきり分けておく必要があります。
情報処理と意思決定の場面で、任せる部分を見極める
数字を集めて異常値を拾うのはAIの仕事
情報処理と初期分析は、生成AIが得意とする領域です。
大量の仕訳データから傾向を集計し、異常値の候補を提示することは、パターン認識そのものです。
数値を自動集計し、予測シミュレーションを何パターンも出す、といったこともここに含まれます。
これまで人手で丸1日かけていた集計作業が数分の確認作業に置き換わる場面は増えてきました。
複数の拠点・複数の科目をまたいで数字を横断的に突き合わせる検算作業に関しても、AIに任せておくとかなりの精度で拾ってくれるようになっています。

その数字が何を意味するかを決めるのは人間の仕事
ただ、拾い出された異常値が「良い動き」なのか「危険な兆候」なのかは、AIには判断できません。
その科目が増えた背景に季節要因があるのか、取引先の状況変化があるのか、あるいは経理処理そのものの誤りがあるのか。
こうした背景の解釈と意味づけは、クライアントの事業を五感でもって継続的に見てきた人間にしかできない仕事です。
資金繰りの予測や値上げの効果を試算するところまではAIに任せられても、その試算結果をどう経営判断に落とし込むかは、経営者自身の価値観やビジョンに沿って決まります。
値上げ一つとっても、数字の上では正しいと示される選択肢は、その経営者が大切にしてきた顧客との関係性においては選べない、ということも珍しくないのです。
リスク判断やクライアントとの信頼関係に基づくコミュニケーションも同様、人間が担い続ける役割として残っていきます。
AIが並べてくれた選択肢のうちどれを選ぶかという最後の判断にこそ、その会社らしさが表れてくるのだと思います。
創造と振り返りの場面でも、同じ線引きが使える
アイデアの引き出しはAI、選び取るのは人間
新しい提案を考えるときも、この線引きは有効です。
過去の類似事例やパターンの組み合わせから候補を提示することは、生成AIの得意分野です。
業界動向の共通点、打ち手の候補を、AIに広く拾わせることができます。
一人で考えていたら思い浮かばなかった切り口が、候補として並ぶこと自体には、随分と助けられます。
その会社が持っている強みを、どんな言葉で言い表すかという着眼点も、AIが複数の切り口を提示してくれると発想の幅が広がります。

一方で、その候補の中からクライアントの事業に本当に合うものを選び、他にはない提案として仕上げるのは、直感や経験に基づく人間の役割になります。
候補をそのまま渡すだけでは提案にはなりません。
そのクライアントの過去の経緯や性格、これまで積み重ねてきたやり取りまで踏まえて選び取ってはじめて意味のある提案になります。
同じ候補を渡されても、選ぶ人によって最終的な提案がまったく違うものになるのは、このためだと感じます。
振り返りのレポートはAI、信頼を作る対話は人間
情報を整理して振り返る作業もAIに任せやすくなっています。
しかしながら、その結果を受けてクライアントと一緒に「なぜこの数字になったのか」「次はどうするか」を話し合う時間は、対話そのものが目的になりえます。
数字の裏側にある事情を聞き取り、次の一手を一緒に考えるプロセスを通じてしか、信頼関係は積み上がっていきません。
レポート自体はAIが数分で作ってくれても、その数字を前にしてクライアントが何を感じ、何を語るかは、対話の中でしか見えてきません。
レポートを受け取るだけの時間と、対話を通じて振り返る時間とでは、そこから生まれるものがまったく違います。

情報処理や振り返りの土台づくりをAIに預けるほど、人間の側には「解釈する」「決める」「対話する」という、時間を割くべきだった仕事が残っていくことになります。
「考える」を分解してみることで、AIに手放す部分と、自分が引き受け続ける部分の輪郭が、少しずつはっきりしてくると感じています。
