財務に関する判断は、経営者にしかできない仕事といえます。
井上和弘著「社内埋蔵金をお金にする知恵」(中経出版)を参考として。
経理と財務は異なる
「経理」と「財務」、一緒くたにされることが多いですが、別の経験・能力が異なる仕事であるといえます。
「経理」は、貸借対照表や損益計算書を早く正確に作成する仕事です。
「財務」は、会社全体の資金繰りに目を配り、資金調達が必要かどうか、稼得した資金をどのように配分するかなどが仕事であり、社内外の交渉も大きく必要とされる仕事です。
特に中小企業では、この経理と財務とがなんとなく一緒に取り扱われることも多く、結果として、経理担当に財務の仕事も期待してしまうことがあります。
しかしながら、資金調達が必要かどうか、銀行とどのような方針でもって交渉するか、稼得した資金をどのように配分するかなどは、とても一従業員に決められることではなく、これはまさに経営判断であり、経営者の仕事であるといえます。
貸借対照表をどう読むか
財務諸表には、大きく「損益計算書」と「貸借対照表」とがあります。
「損益計算書」は、売上から各経費を差し引いて利益を計算・表示しているもので、ストーリー性があり、分かりやすいものでもあります。
一方で「貸借対照表」は、会社の資産と負債とを整理したものなのですが、各項目の良し悪しが必ずしも見えやすいものではないため、ついついよく見なかったりしがちになります。
どれほど「損益計算書」で黒字か赤字かを追いかけたとしても、正確な経営判断をすることができません。
なぜなら、たとえ黒字でも、その黒字額でもって税金と借入返済と設備投資とが賄えるかどうかというのは、貸借対照表など資産・負債の状況を把握していなければ、自社にとっての良し悪しを判断することができないからです。
会社にとって重要なことは、”黒字か赤字か”もさることながら、”資金的に持続可能かどうかである”といえます。
そして、資金的に持続可能かどうかは、経営者自身が、「貸借対照表」を把握できているかどうかが大きな鍵を握っています。
経営者の仕事としての財務
「貸借対照表」には、事業に投下した資金がうまく流れているか、というとても重要な情報が詰まっています。
事業のお金の流れは、「お金→設備・投資→在庫→債権→お金」という形で流れており、これは「貸借対照表」からでないと掴むことができません。
- 「在庫」
→不良在庫がないかどうか。売却可能なものは売却する。売却不能なものは処分することで経費(=節税)にすることもできる。 - 「設備」
→不要な設備がないかどうか。売却可能なものは売却する。実際に自分の目で見てみると、新たな発見もある。 - 「売掛金」
→滞留している債権がないかどうか。回収や売却が可能なものは回収・売却していく。不良債権であれば、償却(=節税)可能か検討する。 - 「現預金」
→活用できていない預金口座がないかどうか。資金を集約できないか検討する。
そもそも資金に不足があれば、資金調達をどのようにすべきか、という経営者としての判断が求められます。
在庫に問題があれば、在庫管理をどのようにするか・売却するかどうか・廃棄するかどうか、という経営者としての判断が求められます。
設備に問題があれば、各設備が適切に利益の獲得に貢献できているかどうか・売却するかどうか・廃棄するかどうか、という経営者としての判断が求められます。
売掛金に問題があれば、回収管理をどのようにするか・売却するかどうか・償却するかどうか、という経営者としての判断が求められます。