お困り事を抱えている方の役に立ちたいと思ったとき、様々な方法があります。
コンサルティング、アドバイス、忠告、叱咤激励など。
特に「相談」の場合、答えを教わる、という意味合いがありますし、相談する側も答えを求めて、救いを求めてされる場合も多いものです。
短時間の話し合いで行ったコンサルティング・アドバイス・忠告・叱咤激励などで相手の困り事が解決されるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、そのようなものですぐに解決するのであれば、他の何かのきっかけで解決するようなものばかりです。
相手の役に立ちたいと思ったとき、単なるコンサルティング・アドバイス・忠告・叱咤激励などでは付け焼き刃的でどうにもならないと感じたとき、最後の残るもの、それはやはり「聴くこと」(カウンセリング)だと思っています。
河合隼雄「カウンセリング入門」(創元社)読んで15年で学んだこと。
中小企業の経営課題は、経営者そのものの課題であることが多い
中小企業はオーナー企業であることが多く、そうした企業の経営課題として短期的にはなかなか解決しないことは、詰まるところ、経営者そのものが抱えている課題であることも多いと感じます。
試算表や決算書には、こうした性格が垣間見えることがあります。
デメリットしかないといわれる「役員貸付金」がなかなか減らない(むしろ増えていく)、接待交際費が全体バランスから考えてどうしても多くなってしまう、など、色々な課題が垣間見えるものです。
「相談」の限界
「相談」というと、相談する側、相談される側ともに、魔法の杖のような答えがあるのでは、とどこか縛られている部分があります。
相談する側も、「相談」して教えてもらおう・忠告してもらおう、と純粋に思いますし、相談される側も、「相談」される以上、教えなければ・アドバイスできなければ・答えを出さなければ、と、意識しているしていないにかかわらず期待に答えようとします。
法律や通達やその他根拠がはっきりしていることなら、すぐに答えが出ますし、相談される側が専門家である以上、そうした答えを可能な限り、相手にしっかり伝えるべきかと思います。
では、税理士が受ける相談は、税法などで根拠のあることばかりではありません。長期的に関わっていくなかでは、お客様の経営課題の根本に関わることを相談されることも多いものです。
そこでありがちなこととして、自分の知識や能力を磨いて、それで相手を救おうとする方向性があります。
本当に専門的な知識や能力であればよいのですが、ここは餅は餅屋です。税理士としての実務をやりながら、別分野の専門知識や能力を即効性のある高いレベルまで身につけることはなかなか難しい面もあります。
生半可な自分の知識や能力や考えを全面に出したとして、相手の役に立てる場合は少ないことが多いように感じます(経験上)。
一方、「聴くこと」も、相手のお役に立てる選択肢のひとつです。
そして、「聴くこと」は“相手の気持ちを受け入れること”でもあります。
それは、相手の状況をあまり聞かずに、自分の考えや知識や能力をただただ一方的に披露するよりも、予想以上にエネルギーの要ることでもあります。
一方的なアドバイスを1時間しても疲れませんが、相手の気持ちを受け入れようと1時間努力するとかなり疲れることは、想像に難くありません。
聞く=相手の気持ちを受け入れる
ちょっとしたアドバイスで課題が解決するなら、それが最もよいことです。
しかし、インターネット検索で様々なことが解決する時代にあって、単純でない課題が多いように思います。
短期間に一生懸命にアドバイスしても、教えても、忠告しても、結局それを守る人は少ないものです。
例えば、自分のことでいえば、セミナーを受けて、その場では課題が解決したように思えても、そこから具体的な行動に移すところまで行くというのは限定的だと感じます。
受けたすべてのセミナーを自分の具体的な課題解決に活かせているかというと、そう言えないのが正直なところです。
コンサルティングやアドバイスをしても、教えても、忠告しても、叱咤激励してもなかなかうまくいかない。
一度それらをすべてやめてみたらば(すぐに答えのでないことに、無理に答えを出そうとしないことにしたらば)、最後に残ることは、「聴くこと」。
河合隼雄さん(心理学者。元文化庁長官)の書籍、河合隼雄「カウンセリング入門」(創元社)の記述ですが、とても説得力があり、迫力がありました。
相手の気持ちに共感し、相手の言う通りに聴いていくこと。相手の気持ちを受け入れようとすること。
税理士としてお客様に対応するとき、こうした選択肢も、意識して持つようにしています。