商品・サービスを売るにあたって、商圏が広くて人が多ければ誰かには買ってもらえるだろうと思いがちですが、それが”なんとなく”でないかどうか、考えておきたいところです。
竹田陽一、栢野克己著「小さな会社★儲けのルール ランチェスター経営7つの成功戦略」(フォレスト出版)を参考として。
ランチェスター戦略の「一騎打ち戦」
弱者が強者と戦うときに、まともに戦っても勝つ確率が低いことは明らかです。
しかし、歴史的に見てみると、逆転して勝つケースもあります。
なかでも、思いつくところでは、織田信長の「桶狭間の戦い」、宮本武蔵の「一乗寺下り松の決闘」などがあります(諸説あるかもしれませんが。)。
戦闘力(武器の性能×兵士の数)が劣勢な場合においては、①自分が優位に戦えるような地形の複雑な場所で、②虚をついて接近戦を仕掛け、③一騎打ちに近い形で大将首を取ることで形勢を逆転させる、というケースです。
ランチェスター戦略においても、例えば、見晴らしのよい場所で、武器の性能の優位性が最大限活かされる状況で、できるだけ遠隔から効率よく攻めることができるような状態においては、強者と弱者の差がより大きく開き、弱者の勝ち目が低いとされています。
弱者が勝つ確率を上げるためには、自分が優位に立ち回ることができる複雑な地形で、接近戦から、一騎打ちしていくような状況に持っていく方がよいとされてます。
一点突破→各個撃破
事業を始めるにあたり、大都市などは、多様な人が集中しており、マーケットも大きく、ローカルルールも少なく、”なんとなく広い場所”・”なんとなく人の多い場所”ということで、一見、”なんとなく”混じってやっていけそうにも感じがちです。
しかし、それだけ大企業などの強敵はすでに先行して深く食い込んでおり、入っていく余地があるのかどうかを、十分に考えておく必要があります。
また、売上を伸ばそうと思い、単純に”なんとなく”営業エリアを広げたとして、本当に売上が伸びるのかどうか。
強者(大企業)に比べて、資源(時間・物量)が限られている弱者(中小企業)にとっては、その資源が分散することになりはしないか。
上記を踏まえると、弱者(中小企業)の場合は、”なんとなく”で入っていく場所を選ばずに、または、”なんとなく”で営業エリア拡大を考えずに、大都市に限らず、人が分散しており、マーケットも適度に小さく、ローカルルールが作用しがちな複雑・狭隘な場所を選ぶことが肝要といえます。
入念に営業エリアを検討し、さらには、あえて狭く絞るという選択もあり得ます。
”狭く絞る”ということは、”資源を集中的に投下できる”ことも意味します。
まずは狭く絞って「一点突破」を狙い、次のエリアを見定め、さらにまた集中して「各個撃破」していく、というやり方です。
陶山訥庵のエリア戦略
竹田陽一、栢野克己著「小さな会社★儲けのルール ランチェスター経営7つの成功戦略」(フォレスト出版)で紹介されていた事例で、陶山訥庵の行政手法が紹介されていました。
陶山訥庵は江戸中期の儒者で、対馬藩の郡奉行を務めた人物です。
当時、対馬藩は、人口約2万人に対して、猪が約8万頭いるといわれていたそうです。
そのため、農業を行ってもその農作物は猪に取られてしまうという状況でした。
そこで陶山訥庵は、「猪鹿追詰」という手法を実行しました。
対馬全頭を9つのエリアに分けて柵を作り、さらにエリア内でも細かく柵を作り、1区画ごとに集中的に猪の退治を行うことにより、9年間で猪を全滅させたというものです。
これはとても示唆的です。
劣勢においては、エリアを絞り集中することで一点突破を狙う。その後、各個撃破をしていく、という方法が有効といえます。