「コーチング」という視点を取り入れる上で、その視点を凝縮した例えがあり、感覚的に非常に伝わってくるものがありました。
伊藤守「図解コーチングマネジメント」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から学んだこと。
「コーチング」の象徴的な例え
「コーチング」というものを表す象徴的な例えで挙げられるものとして、ティモシー・ガルウェイの著書「インナーゲーム」のなかのテニス指導のエビソードがよく引き合いに上がります。
テニスのレッスンをする際の話で、次のようなものです。
「ボールを見て!」と指導するのではなく、「ボールはどんな回転をしている?」と尋ねる
「ボールを見て!」と指導しても、
生徒側からすると、何度も指導されるうちに、
”見ているつもりなのに”
”自分としては精一杯やっているのにこれ以上どうしたらいいのか分からない”
”指導が絶対的なのだからそれをうまく遵守できない自分が悪い”などとなっていきがち
になるものです。
一方、「ボールはどんな回転をしている?」と問いかけた場合、
今自身に見えていない回転を一生懸命見ようとし、
結果として、ボールをよく見るようになったそうです。
教える側からしてみると、どうしたらボールを打ち返すことができるかということが明確に言語化できていない(すでに自分ではできるようになっているため言語化する必要性が迫られていない)上に、
感覚的で再現性の低いものであることから、どうしても「ボールを見て!」という指導になってしまいます。
しかし、「ボールはどんな回転をしている?」という問いかけは、
教わる側に、非常に自然な形で自発性を与えるものです。
教わる側も、レベルも経験も価値観もセンスもまちまちなものです。
そのまちまちな状態から、何を目的としてどう見たらよいのか、を自身で考えて感じ、
その考えて感じたことをベースとして、さらに話し合っていくなかで、
ごく自然な形で、”自分のなかの他者の声に気を取られることなく”、
自分のものとして、ボールを見ることができるようになり、
結果、打ち返すことができるようになる、というものです。
「教える」のではなく「問いかける」
ここでのポイントは、一方的に答え・結果を「教える」ことによって成果を出すのではなく、
「問いかけて聞く」を繰り返すことにより、
まずは相手の現状・前提・事情を十分に棚卸しし、
次に、達成したい状態・望ましい状態のゴールを、できるだけバイアスをかけずに(ブレーキや制約をかけずに)、本質的な状態で明確にしていき、
さらに、現状からゴールに至るまでに、
”どのような観点・見方が必要なのか”
”どのような具体的行動が必要なのか”を明らかにしたうえで
”どうしたらそのようなことを手に入れることができるようになるのか”というところまで、
可能な限り具体的に明らかにしていく、
というものです。
また、「教える」というスタイルには限界があります。
それは、”自分が知らないことは一切言えなくなってしまう”からです。
人である限り、知っていることよりも、知らないことの方が多いものです。
ここを口に出すことができない、という状態は様々な場面で行き詰まりを生じるようになってくるのではないかと感じます。
着眼点を変えていくと、おのずとすべて変わってくる
「教える」のではなく、「問いかけて聞く」というように着眼点を変えるだけで、おのずとすべてが変わってきます。
相手との関係性、書類の見せ方、説明の仕方、接し方、時間配分。
着眼点が違えば、おのずとすべての行動も成果物も変わってきますし、それが相手によい影響を与えるのではなおのこと、そうありたいと思う自分でいたいものです。