電子帳簿保存法とクラウド⑨

電子帳簿保存法については、令和2年度、令和3年度、令和5年度に大きな改正(とその緩和)が入りました。

戸村涼子著「クラウド会計を活用した電子帳簿保存法対応の実務」(日本法令)を参考として。

目次

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法そのものは歴史は比較的古く、平成10年度税制改正によって誕生しています。

ただ、かつては要件が細かく負荷もかかるものであったため、令和3年度税制改正以前は、一部の事業者のみで利用されていたもの、という印象があります。

全事業者の強制適用という形で注目が集まったのは、令和3年度税制改正でした。

電子データで受領している請求書等について、これまでは紙保存が認められていたため、”とりあえず証憑関連はすべて紙保存しておけばよい”という考え方で進むことができていました。

令和3年度税制改正においては、証憑を3区分に分けたうえで、そのうちの電子データについては電子データ保存(+細かな保存要件等)が強制、紙保存不可とされたのでした。

国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」より

令和3年度税制改正の内容については、全事業者強制となる電子データについて、特に保存要件等の充足のための煩雑な対応が求められることもあり、その後の令和4年度税制改正において猶予期間が設けられ令和5年度税制改正において新たな緩和措置が設けられています。

電子帳簿保存法の全体像

電子帳簿保存法の全体像をまとめると、以下のようになります。

電子帳簿保存法とクラウド・クラウド会計との関連性を中心に、どのように対応の余地があるか考えてみました。

「電子取引保存」と「クラウド会計ソフト」

電子取引保存の概要

電子取引の具体例
  • メールで受領した請求書PDF
  • ショッピングサイトからダウンロードした請求書・領収書PDF
  • クラウドサービスで共有した電子請求書データ
  • クラウドサービスを通じて取り込んだクレジットカード利用明細、電子マネー利用データ、スマホ決済データ
  • EDI取引

要件は以下のような感じです。

要件ポイント
システム書類の備付・クラウド会計ソフトの場合、オンラインでのマニュアル・ヘルプを画面で示せれば可
見読可能性の確保・ディスプレイ等(速やかに出力)
検索機能の確保【原則】
①「年月日」「金額」「取引先」
②「年月日」「金額」→範囲指定
③上記2以上の項目を組み合わせて条件設定
※ダウンロードの求めに応じれば、①のみで可

【システム導入しない場合】
以下のいずれかの方法
①ファイル名→「20221031国税商事110000」など
②エクセル等での索引簿

【小規模事業者(2023年以降、2期前の売上高が5,000万円以下)】
・出力画面の提示のみで可
真実性の確保以下のいずれかの措置
①タイムスタンプ付きのデータを受け取る
②タイムスタンプ付きのデータにして、保存者情報確認できるようにする
③訂正削除システムを利用する
④事務処理規定

クラウド会計ソフトの対応状況

クラウド会計ソフト(freee、Moneyforward)が、電子帳簿保存法のうち「電子取引保存」に対応しているかどうか(令和5年4月20日現在)。

上記の要件のうち、最も運用が焦点となるのは「真実性の確保」です。

真実性の確保には、具体的に、以下のような措置が必要とされています。

  1. タイムスタンプ付きのデータを受け取る
  2. タイムスタンプ付きのデータにして、保存者情報確認できるようにする
  3. 訂正削除システムを利用する
  4. 事務処理規定
freee
MF
  • freee上で共有された請求書
    →freee上での保管をもって「訂正削除システム利用」を満たす。

  • メールで受領した領収書・請求書データ
    →ファイルボックスへ格納。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため「事務処理規定」で対応。

  • ECサイトで購入した領収書・請求書データ
    →ファイルボックスへ格納。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため、「事務処理規定」で対応。

  • データ連携(銀行口座、クレジットカード)
    →「訂正削除システム利用」を満たす。
  • 銀行口座、クレジットカードの領収書・請求書データ
    →ファイルボックスへ格納。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため、「事務処理規定」で対応。
  • MF請求書で発行した請求書
    →メール送付したものは、自動的にMFクラウドBoxへ格納され、「訂正削除システム利用」を満たす。
  • メールで受領した領収書・請求書データ
    →MFクラウドBoxへ格納or仕訳添付。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため「事務処理規定」で対応。
  • ECサイトで購入した領収書・請求書データ
    →MFクラウドBoxへ格納or仕訳添付。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため、「事務処理規定」で対応。
  • データ連携(銀行口座、クレジットカード)
    →「訂正削除システム利用」を満たす。
  • 銀行口座、クレジットカードの領収書・請求書データ
    →ファイルボックスへ格納。
    →訂正削除システム上でのやり取りではないため、「事務処理規定」で対応。

要件「検索要件の確保」

ネックなのはこの要件でしたが、2023年分以降はかなり緩和されています。

パターン対処
システムを導入する「年月日」「金額」「取引先」を入力保存する
(かつ、ダウンロードの求めに応じる)
→freee「ファイルボックス」、MF「MFクラウドBox」で対応可
システムを導入しない以下のいずれか
①ファイル名→「20221031国税商事110000」など
②エクセル等での索引簿
小規模事業者(2期前の売上高が5,000万円以下)出力画面の提示のみで可
電子帳簿保存法全般に対応できない理由あり宥恕規定あり

宥恕規定

令和5年度改正後も、「相当の理由」があれば、書面を出力したものの提示・提出によって保存要件を満たすとされています。

「相当の理由」については、今後の詳細の発表が待たれますが、システム対応コストを原因にすることも認められるという話も出ているようです。

対応ポイント

他の要件も考える

いずれも、事業者側として満たす必要があります。

freee
MF
  • システム書類の備付
    →オンラインでのマニュアル・ヘルプを画面で示せれば可
  • 見読可能性の確保
    →ディスプレイ等(速やかに出力)
  • システム書類の備付
    →オンラインでのマニュアル・ヘルプを画面で示せれば可
  • 見読可能性の確保
    →ディスプレイ等(速やかに出力)

事務処理規定

国税庁の以下に事務処理規定のひな形があります。

雑感

電子取引保存については、強制適用ですが、宥恕規定もあります。

何らかの対応できない理由があるのであれば、宥恕規定を満たすかどうかの確認が必要といえます。

対応するとした場合、以下のような対応パターンになりそうです。

  • 事務処理規定を備え付け
  • 【2期前の売上高が5,000万円以下】ファイルを保存
  • 【2期前の売上高が5,000万円超】”ファイルに所定の名前をつけて保存”or”索引簿”

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